「角川シネマ新宿」で上映中(3月9日まで)の映画「はじめてのおもてなし」を見てきました。
ドイツ・ミュンヘンの閑静な住宅街に住むハートマン夫婦と、成人して家を出ている息子、孫、娘は、恵まれた環境で何不自由なく暮しているように見えるけれど、その実、権威主義的で傲慢なため職場(大病院の院長医長)でも家庭でも反発されている夫リヒャルト、教師の職を引退して夫と2人きりの生活に虚しさを感じている妻アンゲリカ、エリート弁護士だけどワークホリックで欝状態にある息子フィリップ、反抗期を迎えているフィリップの息子バスティ、31歳で未だ自分探しを続ける娘ソフィと、夫々に文明国特有の悩みを抱えています。
ある日アンゲリカは、日々の寂しさ、虚しさを埋めるために「難民受け入れ」を宣言。夫の反対を押し切って、ナイジェリアから来た難民の青年ディアロを受け入れ、自宅に住まわせます。
「はじめてのおもてなし」に張り切るアンゲリカ。ディアロの人柄も有って次第に受け入れ始める家族。しかし、周囲には、派手な歓迎パーティをしに来る受け入れ賛成派がいる一方で、危険視して監視のデモンストレーションをする反対派もいます。そんなこんなで巻き起こる大騒動の連続に、ディアロの亡命申請も却下されてしまいます。
『果たして、崩壊寸前の家族と天涯孤独の青年は、平和な明日を手に入れることが出来るのか──? 』(HP「STORY」より)
といった、笑いあり涙ありのコメディタッチのお話です。
ハートマン家の人々の悩みや葛藤、イライラは、豊かな国に生きる現代人に共通の病理にも見え、「どこも同じね~」と苦笑いしつつ、「わかる、わかる」とある種の共感を覚えます。
一方で、弱者と位置づけられ、同情の目で見られているアフリカの難民ディアロは、基本的に素朴で素直な人生観、家族感を持っていて、そんなディアロと共に暮す中で、ハートマン家の人々は「家族愛」や「人への思いやり」など、「社会的成功」や「名誉」より大切なものの存在に気付く、というハッピーエンドには、お約束の展開とはいえホッと心が温かくなります。
反抗期に入った少年バスティと途上国出身のディアロは、建て前抜きに楽しいことを楽しみ、嬉しいことを喜ぶ感性で意気投合し、友情が成立。その結果ディアロが初めて語ったボコ・ハラムによる家族の虐殺の体験談は、現実に起きていることだけに心が痛み、スクリーン上のディアロの涙を見ながら思わずもらい泣きしてしまいました。
ドイツ人気質を感じて面白いと思ったのは、保守であれ、極右であれ、リベラル派であれ、夫々が互いにぶつかり合うことを畏れず正々堂々と自己主張をし、議論をすること。夫々に自分たちの「筋」とか「正義」があって、しっかり伝えれば行政もそれに応えるはず、というある種の信念が感じられて、民主主義の精神健在なり、と思わせられました。
現代社会の問題を、政治的背景と人の精神の両面で捉えながら、温かく優しい眼差しで表現している、実に私の好みの映画でした。(三女)