「海と山に囲まれた餅湯。団体旅行客で賑わっていたかつての面影はとうにない。のどかでさびれた町に暮らす高校2年生の怜は、複雑な家庭の事情、迫りくる進路選択、自由奔放な友人たちに振りまわされ、悩み多き日々を送っている。そんななか、餅湯博物館から縄文式土器が盗まれたとのニュースが・・・。」(「帯」より。)
主人公の怜は、Dちゃんと同じ高校2年生。なぜか二人の母親がいて、普段は餅湯温泉商店街で土産物屋を営む「おふくろ」と暮らし、月一回駅北側の屋敷街に「お母さん」に会いにいく。父親は生まれた時から居なくて、誰も父親について語ろうとしない。そんな複雑な環境に、「自分は誰の子?」という疑問を内心に抱えながら日々を送っています。
そんな怜ですが、普段は明るく穏やかで繊細な高校生として、個性豊かな友人たちと賑やかに楽しく過ごしています。
途中、父親が突然登場し商店街中の人が騒然としたり、友人たちと縄文式土器盗難事件の解決に関わるなど、ちょっとしたスリルとサスペンスのエピソードが挟まれますが、三浦しをんの本らしく、根底には常に温かさとユーモアが流れ、読んでいて気持ちがほっこりします。
今回は、盗難事件解決の後、「おふくろ・寿絵」が商店街の仲間に言った「迷惑なんてかけあえばいいってことだよ」の言葉と、その言葉に、「迷惑のかけあいが、だれかを生かし、幸せにすることだってありえる。少なくとも、だれにも迷惑をかけまいと一人で踏ん張るよりは、ずっと気が楽なのではないか」という怜の感想が、心に沁みました。
舞台となっている餅湯温泉は、新幹線が止まり、温泉と海とお城があり、縄文遺跡があるということで、小田原をモデルに※していることが容易に想像できます。表紙の絵も、私たちが伊豆に行く途中で見ていた景色を髣髴とさせ、何とも言えない懐かしさを覚えました。(三女)
※追記(訂正?):夫から「モデルは熱海だと思う」という指摘がありました。実は私もどっちかな?と思って、二つの市のHPを見たのですが、小田原市に「縄文式土器を作ってみる」というイベントがあるのを見て、決め手としました。でも確かに総合的に見ると、雰囲気としては熱海の方が近いな~。(三女)