スケール号は上に飛んでそのまま後ろにさがった。パルサーの剣のために、前に飛べないのだ。するとまたしても渦巻攻撃がスケール号を襲って来た。それを避けようとスケール号が後ろに跳んだ時、スケール号の船体がぐらりと傾いた。ついにスケール号はブラックホールの引力に捕まってしまったのだ。
スケール号はまるで洗濯機の中にほうり込まれたように、ぐるぐるとブラックホールの不気味な穴の周りを回り始めたのだ。
「チュハハハ、ついにやったぞ。」チュウスケは躍り上がって喜んだ。
「どうしたんだ、何が起こったんだ!」艦長が叫んだ。
「分かりません、スケール号がとてつもない大きな力に押し流されています。チュウスケの渦巻き攻撃でしょうか。ち、力が強すぎます。」
その時、みんなはその渦巻きの中心にぽっかりと口を開けた、黒い穴を見た。
「いかん、これはブラックホールだ!」
「何ですって、それは一体、」
「説明している暇はない。艦長、今すぐここから脱出するのだ。さもなくば、ぺしゃんこになるぞ!」
「ひえっ、いやだス、いやだス。」
「死にたくないでヤす。」
「神様!」
「スケール号跳べ、この渦から逃げるのだ。」
「ゴローニーャーーンン」
しかし、スケール号はすでに身動きが出来なかった。巨大なブラックホールの引力にしっかり捕らえられ、もはや逃げ出すには遅すぎたのだ。その逆に、ブラックホールの引力はますます強くなり、スケール号は丸い漆黒の穴の周りを猛スピードで回り始めた。
回転の円が小さくなって行くと、同時に黒い穴に引き込まれるスピードが増し、スケール号はその度にブラックホールの丸い穴に近づくのだ。もはやスケール号にはその力に抵抗する方法がなかった。
「チュハハハ、チュハハハハ、押しつぶされて、永遠に宇宙のちりになるがいい。わたチュの力を思い知ったか。チュハハハハ!」
チュウスケが声高に笑った。その笑い声が全天に響いた。
「艦長、もうだめです。」
「ぺシャンコになるだスか。」
「神様仏様、助けてほしいでヤす。お願いでヤす。」
ミシミシとスケール号の船体がきしみ始めた。
もうすぐそこにスケール号を飲み込もうと、漆黒の闇が、ぱっくりと丸い口を開けているのだ。
「艦長!スケール号の体を大きくするのだ!」博士が叫んだ。
博士の一声が、艦長の頭に一瞬のひらめきを起こした。助かる方法が一つだけあったのだ!
「スケール号、ブラックホールより大きな体になれ!」
「ボロニャーンン」
スケール号の鳴き声はおかしかったが、体のほうは見る見る大きくなり始めた。そしてとうとう、ブラックホールの丸い穴よりスケール号の方が大きくなった。ちょうどその時スケール号はぴったりとブラックホールの穴に吸い寄せられたのだ。
スケール号のおなかに、ブラックホールが吸い付いた。スケール号はブラックホールに飲み込まれる危険から逃れることが出来たが、しかし今度はそこから動けなくなった。
ところであなたはこんなことをした事がないかな?
空のプラスチックコップをへこませて、手のひらに付けて離すと、コップは手のひらにぴったりと吸い着く。コップがなければペットボトルでも構わない。うまくやればペットボトルでも吸い付くだろう。
もしまだやったことがなかったら、さっそく台所からちょうどいいコップを探してやってみてほしい。
スケール号のおなかは、ちょうどそんなふうに、ぴったりとブラックホールの口が吸い付いてしまったのだ。足をばたばたさせても、スケール号は動くことが出来ないのだ。
しかもその向こうにはチュウスケが仁王立ちになっていた。
「往生際の悪いやつめ、こうしてやる!」
チュウスケはパルサーの剣を振りかざして、動けないスケール号に突進して来た。
「艦長、チュウスケが攻撃して来ます。」
「逃げられないだス!」
「何とかしてほしいでヤす。」
「艦長、今度は一瞬で、スケール号を原子の大きさに出来ないか。」
博士が艦長に言った。
人間も花も、そうそう、クリームソーダーだって何だって、この世にあるものは何でも原子と言う目に見えない小さな粒によって出来ている。それは今いる宇宙とは反対に、とても小さな世界で、そこにあるのが原子なのだ。
つまりスケール号が最初に行ったクリームソーダーの世界で、スケール号が原子の大きさになって、グラスの壁を通り抜けた時の事を思い出た。博士はその時の大きさに一瞬で縮んでほしいと言っているのだ。 十分の一や百分の一などというものではない。一億分の一の大きさの、その一億分の一の、さらにその一億分の一にまでスケール号の体を縮めなければならないのだ。分かるかな?
スケール号は今、ブラックホールより大きな体になっている。太陽の何百倍もあるかもしれない。そんな大きさから原子なんていう、目に見えない大きさに、どうして一瞬に縮まる事なんか出来るだろう。そんなことはとても考えられないことだった。
「博士、とても無理です。光の速さで小さくなって行っても、長い時間かかるのですよ。」
「意識だ、意識を使うのだ艦長。」
「しかし、」
博士は、艦長の両肩を抱いて目を瞑った。
「心を鎮めてスケール号に命令するのだ。必ず出来る。自分の力を信じるのだ。さあ、意識を宇宙から原子の世界に広げてごらん。宇宙が見えるだろう。そのまま原子を意識してごらん。その意識だけを信じてスケール号に伝えるのだ。」
博士は艦長の肩に手を添えたまま折るようにささやいた。
チュウスケが目前に迫って来た。パルサーの剣がキラリと光った。スケール号めがけて剣の切っ先が打ち降ろされたのだ。
「スケール号!原子の大きさになれ!」
追い詰められた艦長は自分自身が命令そのものになったような気持ちで、スケール号にその思いを伝えた。
勢いをつけて、チュウスケはスケール号に飛び掛かった、思い切りパルサーの剣を振り下ろした。
「スケール号かくごだチュウ!」
パルサーの剣がスケール号の体を切り裂いたと思った一瞬、スケール号の体が煙のように消えてしまった。
「何!」
チュウスケがひるんだ一瞬、今までスケール号に吸い付いていたブラックホールの引力が一斉にチュウスケの体を捕らえた。チュウスケの体が猛烈なスピードでブラックホールの入り口を回り始めた。
「これは一体、どうチュたわけだ。」
チュウスケの体がパルサー星と共にブラックホールに飲み込まれ始めたのだ。洗濯機の中にほり込まれた黒い靴下のように、チュウスケはもみくちゃになりながら渦の中に巻き込まれ、引き伸ばされてブラックホールの穴に吸い込まれて行った。
「チュワワーッ、たチュけてくれチュウウウチュウウウウワワー」
チュウスケはそのままブラックホールの中に飲み込まれた。
「チュくしょうーーおぼえていゆチュチュウウウウーーー」
チュウスケの最後の言葉は途中で、ブラックホールの中に消えてしまった。
つづく
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宇宙の小径 2019.6.22
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全てはうまく行っている
全てはOKだ
あなたはOKだ
髪の毛一本、細胞の一つ
その存在に誤りはない
この宇宙を誤りだというものはいないだろう
それなのに
誤りを恐れ続ける
私がいる
瞑想して
その私を眺めているとこんなことが分かる
それはスクリーンなのだと
銀幕に映し出された私が
必死で演技している
大根役者がいる
滑稽な
人生ゲームだ
時にはスケール号を映し出して
溜飲を下げるが
スクリーンの夢を
引きずったままだ
スクリーンを見ながら死んでいくのは
悪いことではないだろう
でもそれなら
なるべく悪夢を見ないようにしたい
瞑想してごらん
銀幕の私は
私が選んだストーリーを演じているだけだと
気付くはずだ
どんな逆境でも
暗くみじめな人生のストーリーと
明るく力強く生きぬいて行くストーリーが用意されている
どちらを選ぶにしても
選んでいるのは
私そのものであって、他の誰でもない
そして
どちらを選んでもOKだ
スクリーンで演じている私はただの虚像だが
それを観ている私の実像は
OKの塊りだ
だから遠慮なく
ハッピーエンドを選べばいい
選ぶのは
他でもない
自分自身しかいないというこの事実だけを
理解すれば
人は誰でもハッピーエンドを楽しめる
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