死にもせで西へ行くなり花曇
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この句は、新たな旅立ちの心境を詠んだものだろうが、ふと、どこかで聞いたような気がして調べてみた。
松尾芭蕉の「野ざらし紀行」という俳諧紀行文の中に次の句が出てくる。
死にもせぬ旅寝の果よ秋の暮
この「野ざらし紀行」というのは、芭蕉が40歳の頃、出身地である伊賀上野へ旅をした時の紀行文だ。「奥の細道」よりも前の作品である。「野ざらし」とはまた縁起の悪い言葉だが、芭蕉一流の自虐的な洒落を感じさせる。漱石はこの芭蕉の句が頭の中にあったのだろう。松山から東京へ帰るでもなく、さらに西下する自分の身の上を芭蕉の「野ざらし」になぞらえたのかもしれない。