温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

西山温泉 下の湯 2013年12月再訪

2014年04月13日 | 福島県
 
東京の桜はもう散ったというのに、今更になって昨年の湯めぐりの話を持ちだして申し訳ございません。今回の記事では、2013年における私の湯めぐりの締めくくりを迎えた、会津の西山温泉「下の湯」を取り上げさせていただきます。こちらのお湯は以前も拙ブログで紹介しております(こちらをご参照あれ)。
すっかり深い雪に覆われた師走の会津・西山温泉。滝の湯旅館の手前から小径に入り、吊り橋の前に車を止めます(数台分の駐車スペースがあります)。建物の前まで直接車で乗りつけられないロケーションって、なんだか特別な感じがしてトキメキませんか。しかも吊り橋を渡っていくんですよ。目の前の川は結界であり、橋は結界を跨いで聖なる地へ私達を結びつける神聖な回廊である、そんな妄想をほのかに思い描いてしまいました。

私が吊り橋を渡ろうとしたとき、橋桁の上はたっぷり雪が積もっていて、足あとはほとんど消えかかっていました。ということは、少なくとも長い時間に渡って先客が来ていないということだな。ムフフッ。誰も見ていないのをいいことに、私は橋上の雪を踏みしめながらほくそ笑んでしまったのでした。




橋の上から眺めた「下の湯」の様子。建物が2つ見えますが、手前側は湯屋、その奥は母屋であり、両者は廊下でつながっています。吊り橋の前後を含め、どこにも「下の湯」の存在を知らせる看板などありませんから、予め存在を知らないとここを訪れることはないでしょうね。


 
雪囲いに覆われた母屋を訪いますと、居間ではおばあちゃんが炬燵に入りながらデカい音量でテレビをご覧になっていました。お耳が遠いんですね。状況を察した私は、ゆっくりと大きな声で入浴をお願いしますと、前回の時と同じように丁寧に挨拶しながら、会津訛りたっぷりで、にこやかに微笑んで受け入れてくださいました。私事ですが、こちらのおばあちゃんに接すると、自分が幼い頃に亡くなった会津出身の祖母を思い出してしまい、つい熱い想いがこみ上げて来るんですよ…。
一見すると民家のような建物ですが、上がり框にはグリーンのスリッパが2双並べられていますので、密やかながらもちゃんと客商売をしていることが窺えます。そのスリッパを履いて廊下を進み、湯屋へと向かいます。


 
廊下の突き当たり右手には脱衣室があり、正面の扉を開けると洗面台やトイレなどが配置されています。前回訪問時には気づかなかったのですが、さすがに旅館だけあって洗面台は共用タイプの大きなものが据えられていたり、トイレも個室2室(和式と洋式がひとつずつ)と小便器2台設けられていたりと、明らかに民家の水回りではない立派なものとなっていました(画像はありませんのであしからず)。
前回記事でも申し上げましたが、こちらは脱衣室・浴室ともに一室しかないため、基本的には貸切で使うことになります。


 
脱衣室の柱には、誰の仕業か、「下の湯」の名前が印刷された千社札が貼られていました。上述のように屋外には屋号を表す看板や掲示の類が全く無く、この日の私はこの千社札を目にして、このお風呂が「下の湯」であることをようやく再確認することができました。その千社札から欄間の方を見上げると、木板に揮毫された古い分析表が掲示されていました。



前回訪問時と全くかわっていない、静寂と平穏に支配された浴室。2つの浴槽には透明のお湯が湛えられており、室内には湯気とともに何かが焦げたような硫黄由来の芳ばしい香りが漂っています。また浴槽の縁には桶が整然と積まれており、温泉を大切にする旅館としての矜持が感じられます。


 
このお風呂は果たしてどのくらいの年月、同じような姿を保ち続けているのでしょうか。室内に横溢するしっとり感や重厚感は、長い年月の経過によって醸しだされているのみならず、浴室で使われている諸々の材質も影響しているのでしょう。たとえば浴槽には木材が用いられている他 壁はグレーとエンジの縦縞模様の人研ぎ仕上げ、床は分厚い切り出し石が敷き詰められており、同じものを現代で施工しようとしたら、算出される見積の数字はとんでもないことになりそうです。


 
2つ並ぶ木造の湯船は、左が適温で右が激熱。湯口のお湯は右側の槽に注がれており、そのお湯が篦棒に熱いために浴槽まで熱くなってしまうわけですが、無策のまま注いでいるわけではなく、一旦四角い枡に落として自然冷却させてから右側の湯船へ供給しているのであります。


 
酒枡を大きくしたような造りの湯受け枡の中には、溶き卵状の黄色い湯の華がたくさん沈殿しています。湯口から吐出される時点の温度を測ると65.5℃。傍らに置かれているコップでお湯を飲んでみますと、塩味が効いた美味しい卵スープの味が口の中に広がり、薬味を浮かべて飲みたくなるほど整った美味でした。またコップからは鼻孔を刺激する噴気孔の火山ガスのような匂いも漂っていました。


 
湯口からお湯が注がれる右側の熱い湯船に温度計を突っ込んでみたら、50.5℃という数値が計測されました。数多くの温泉を制覇している私は、比較的熱いお風呂でも難なく入れる自信がありますが、さすがに50℃以上のお湯には入れません。慣れや根性という問題ではなく、生物学的に無理なのです。でもこの湯船は見ているだけでも面白いのです。と言いますのも…


 
熱い湯船のお湯をかき混ぜると、底に沈殿していた白い湯の華が一気に舞い上がって、いままで透明だったお湯が一時的に白濁するのです。それほど沈殿が多いのですね。


 
左側の適温槽には湯口からの直接投入は無く、熱い湯船からの流れ込みによってお湯が張られています。その流路には川原から拾ってきたようなナチュラルなスタイルの石が2つ置かれており、その石を溝に置いたり抜いたりして流量を調整することにより、温度を調整させます。


 
さて適温の湯船は42.6℃、日本人なら誰しも癒やされちゃう湯加減でした。左右の湯船は温度のみならず湯の華(沈殿)の量も異なっており、左側の適温槽は湯の華がかなり少ないのですが、これは湯の華が重いために右側の熱い槽でほとんど沈殿してしまい、こちらまでなかなか流れてこないのです。つまり左側の槽は上澄みだけを受けているような感じなのです。湯の華まみれになりたい願望の強い私としてはかなり悔しいのですが、激熱の湯船に浸かるわけにもいかないので、一計を案じた私は、熱い湯船を撹拌させて湯の華を舞い上がらせてから、それを桶で掬って左側槽へ注んで、無理やり湯の華を移動させたのでした。なんて無駄な努力なんでしょう。


 
窓を開けて雪見風呂を楽しむ私。お湯から漂う硫黄の香り、そして食塩泉らしいツルツルスベスベ浴感が実に心地よく、湯船から出るのが躊躇われるほど魅惑的な湯浴みを堪能することができました。そして湯上がりはいつまでもポカポカが持続し、コートなんて要らないほどの温浴効果が発揮されました。
帰りしなにお婆ちゃんに挨拶すると、お婆ちゃんは今回も「熱くなかったですか。またお越しくださいね」という声とともに深くお辞儀してくださいました。一年の湯めぐりの締めくくりをここにして本当によかった、お婆ちゃんに負けぬぐらい深く挨拶をしながら、私はそう思ったのでした。


含硫黄-ナトリウム-塩化物温泉 75.1℃ pH6.8 3.35L/min(自然湧出) 溶存物質4.493g/kg 成分総計4.610g/kg
Na+:1435mg(92.28mval%), Ca++:24.1mg(1.77mval%),
Cl-:1912mg(80.99mval%), Br-:3.9mg, I-:0.5mg, HS-:0.8mg, S2O3--:2.6mg, SO4--:260.6mg(8.15mval%), HCO3-:430.8mg(10.60mval%),
H2SiO3:172.1mg, HBO2:105.4mg, CO2:115.3mg, H2S:1.5mg,
(平成21年5月13日)

福島県河沼郡柳津町大字五畳敷字下ノ湯45

入浴可能時間不明
400円
シャンプー類あり

私の好み:★★★
コメント (2)
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