雪の上州湯めぐりのラストは、湯宿温泉「大滝屋旅館」へ立ち寄ることにしました。或る目論見があって敢えてこちらを選んだのですが、その理由は後ほど。
石畳の温泉街を歩き、窪湯近くから逸れてゆく細い路地を上がってお宿へと向かいます。この晩は宿泊しているお客さんがいなかったのか(あるいは既にチェックインが済んでいたのか)、玄関まわりは照明が落とされて真っ暗だったのですが、私の来訪に女将さんが気づいてくれたらしく、中から声が掛かるとともに明かりが灯り、私が入浴利用をお願いしますと快く対応して下さいました。名称こそ旅館ですが、アットホームな佇まいは民宿のようです。
帳場の近くにコインロッカーが設置されていますので、日帰り入浴でも安心ですね。女将さんに案内されて奥の浴室へと向かいます。お風呂は内湯のみで、女湯と混浴が一室ずつ。男である私は混浴浴室を使わせていただきました。
脱衣室は小奇麗にされており、ヒーターもあるので寒さに身を縮こませることなく着替えることができました。室内のボードにはいろんな案内が掲示されているのですが、それらによれば、こちらで使われているお湯は、共同浴場にも引かれている高温の窪湯源泉に、自家源泉でぬるい大滝源泉を混合させており、このブレンドによって温度を調整しているとのこと。また湯宿温泉の源泉は硫酸塩ですが、自家源泉は炭酸水素塩泉であり、硫酸塩泉と炭酸水素塩泉のブレンドは湯宿温泉で唯一なんだとか。なお平成16年の資料によりますと、窪湯は62℃で、大滝源泉は39.1℃とのこと。なお大滝源泉は、建物裏手に落ちている滝の脇より湧出しており、この源泉は大滝屋でしか引湯していないそうです。
浴室は総タイル貼りで質実剛健の実用的な趣きですが、側壁の一部が幅の狭い棚状になっており、そこだけ伊豆青石が用いられていて、温泉情緒を密かに匂わせていました。浴槽の右奥にある湯口からトポトポとお湯が注がれており、その音だけが室内に響いていました。
浴室右側に洗い場があり、シャワー付きカランが1台取り付けられている他、水・湯・水という順で3つの水栓が等間隔に並んでいました。水道の水栓のひとつは浴槽への加水用なのかな? カランから出てくるお湯はおそらく源泉のお湯かと思われます。
浴槽の大きさはおおよそ2m×3mで、4~5人サイズ。上述の湯口(塩ビ管)よりお湯が落とされ、石の器で一旦受け止められてから浴槽へと注がれています。そして浴槽の手前側の縁から絶えず溢れ出ていました。管から吐出される時点で既に(体感で)45~6℃でしたので、冷ますために石の器を挟んでいるのではなく、単に飾りとして設けられているのでしょう。
お湯は無色透明で、石膏の味や匂いがふんわりと感じられ、弱めのトロミとキシキシ浴感はいかにも北毛の硫酸塩泉なのですが、どことなく塩化土類泉の存在を漂わせる香ばしさや風味が混じっていて、共同浴場のような窪湯単独の湯とは一線を画す、独特のテイストが感じられました。湯宿温泉のお風呂はどこでも熱く攻撃的で、加水しないと入れないところが多いのですが、ブレンドのおかげでこちらのお風呂では加水することなく、完全掛け流しで丁度良い湯加減が保たれていますし、ピリッとくる湯宿他源泉と違ってマイルドな肌触りがあり、全身を布で覆うような優しいトロミを有する浴感が好印象で、その優しさが心地よくて1時間程入り続けてしまいました。またマイルドながらも温まりには力強さがあり、お風呂上がりには体の芯まで強力に温まり、外套要らずでしばらく過ごせました。
話は前後しますが、湯宿でお風呂に入る前、腹拵えをするために温泉街からちょっと離れたところにある「五郎兵衛やかた」というお店に立ち寄って夕食をいただいておりました。当記事の冒頭で「或る目論見があって敢えて」大滝屋旅館を訪れたと申し上げましたが、その理由とは、このお店で食事をした際のレシートを大滝屋旅館に提示すると、当日中なら無料で入浴できるからなのでした。昔噺に出てきそうな豪農の古民家を改築したと思しき建物です。
注文したのは「舞茸の天ぷら」とお店の看板メニューである「五郎兵衛うどん」。後者はいわゆる田舎の鍋焼きうどんなのですが、あくまで私の印象を申し上げれば上州名物「おっきりこみ」の薄っぺらい麺を一般ウケするように幅広の太いうどんへ変えたような感じで、味噌仕立てのお汁に鴨肉や野菜・キノコ等がたくさん載せられており、グッツグツに煮えたうどんをいただいていると体の芯まで温まり、最後の一滴まで美味しくいただきました。
混合泉(大滝源泉・クボ湯)
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩温泉 48.0℃ pH7.2 大滝源泉:自然湧出・クボ湯:動力揚湯 溶存物質1.21g/kg 成分総計1.26g/kg
Na+:236mg(60.59mval%), Ca++:131mg(38.54mval%),
Cl-:94.2mg(15.76mval%), SO4--:642mg(79.32mval%), HCO3-:37.9mg(3.68mval%),
H2SiO3:52.6mg,
加水加温循環消毒なし
群馬県利根郡みなかみ町湯宿温泉2383 地図
0278-64-0602
ホームページ
日帰り入浴12:00~20:00
500円
ロッカー(100円リターン式)・シャンプー類あり、ドライヤー帳場貸出
私の好み:★★+0.5