温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

小森温泉 ラーバニスト小森の里

2014年01月12日 | 岡山県
 
前回取り上げた湯の瀬温泉に引き続き、岡山県中部の鄙びた温泉をハシゴするべく、温泉ファンからの誉れが高い「小森温泉」へと向かったのですが、道路から見た様子が妙に暗いので、恐る恐る玄関へ近づいてみたら…



入口には「当分の間休業致します」という非情な文言が掲示されていました(※2013年10月現在)。遠路はるばるやってきたのに、小森温泉での入浴は諦める他ないのかと肩を落としていたその時、その近くに日帰り入浴と書かれた幟を見つけたので、その幟がはためく方へ行ってみると…


 
「ラーバニスト小森の里」という小洒落た施設にたどり着きました。ここでもお風呂に入れるのでしょうか。何らの事前情報も持たないまま、伺ってみることにしました。


 
敷地内にはアーティスティックな佇まいの建物が何棟か集まっており、温泉入浴の他、宿泊やお食事もできるんだそうでして、いかにも現代建築らしい外観とは裏腹に、建物内部には上画像のような座敷が設けられていました。施設のホームページによれば、
ラーバニストとは「URBAN」(都会)と「RURAL」(田舎)を組み合わせた造語で、「都会と田舎の両方を生活基盤に置く新しいライフスタイルを実践する人たち」を意味しています
とのことです。私なんぞは、川崎北部の田舎から都内の会社に通勤しているので、そうした意味ではこの造語が意味するライフスタイルを送っているような気もしますが、ちょっと意味が違うのかな…。



受付棟に隣接してるこの棟に男女別の浴室があるはずですが、受付で入浴をお願いしますと、こちらには案内されず…



施設から離れ、スタッフの方の後について「小森温泉の湯元」の方へと向かいました。この先には何があるのかしら。まさか源泉で入浴するわけじゃないでしょうけど。


 
どうやらこの四角い池が「小森温泉の湯元」、つまり源泉のようです。どうみても単なる池でして、指先をちょびっとその池に入れてみても、やっぱりごく普通の池に他なりませんでした。ちなみに、池の奥には「立入禁止」の札が立っており、その奥にある構造物が実際に使われている源泉井なのかと思います。


 
スタッフの方はこの「湯元」を通り過ぎ、階段を上がった左手にある離れの小屋へ私を導いてくれました。なるほど、この離れは貸し切りの家族風呂なんですね。この日はお客さんが少ないから、共用の浴場にはお湯を張らず、この家族風呂のみ稼働させていたのでしょう。貸切家族風呂はこの1棟1室のみですので、原則的には予約制ですが、空いていれば私のようにいきなり訪問してもOKのようです。



室内はよく手入れが行き届いており、貸切風呂なのに脱衣室はしっかりとしたスペースが確保されており、棚やカゴの数も多く用意されていて、使い勝手は良好です。



浴室も貸切風呂とは思えないほど広くて立派、しかも清潔感が漲っています。2方向の窓から外光が降り注いでいるので室内照度も十分です。壁はヨモギ色のモルタル、床は鉄平石といった感じで、全体的にモダン和風なテイストで統一されており、そんな室内の真ん中に小判型の浴槽が据えられています。


 
洗い場にはシャワー付き混合水栓が3基も設置されており、備え付けられいる腰掛けや桶は、優しいフィーリングの木工品です。浴室といい、洗い場といい、貸切風呂とは思えないキャパがあるので、私一人ではかなり持て余してしまいました。



岩を並べて小判型に成形された浴槽は3~4人は余裕で同時利用できそうなゆとりの容量を擁していますが、槽内ではジェットバス装置が2本稼働しており、その騒々しい機械音は脱衣室まで響いていました。湯元から近い場所なのでお湯のクオリティには期待したいところですが、源泉温度が低いので加温は当然としても、残念ながら無色透明で無味のお湯からはカルキ臭が強く放たれており、浴室内にもはっきりと漂っていました。また浴槽の縁が高くてオーバーフローは全く見られず、槽内でしっかり循環されていました。更には浴感にも特徴が無く、本当に温泉(冷鉱泉)を使っているのか疑わしく思えたほどでした。この日休業だった「小森温泉」では、イオウ感を伴うツルツル浴感の鉱泉を体感できるらしいのですが、こちらのお湯では特徴がすっかり喪失しており、お湯の質に関しては満足感を得ることはできませんでした。しかしながら、施設の雰囲気は良く、清潔感や設備面は充実しているので、お湯の質よりもそうした点を重視される方にはおすすめです。カップルや夫婦、ファミリーなど、気心知れた同士でゆとりのあるこの貸切風呂に入れば、寛ぎのひと時が過ごせるでしょうね。


小森湯所温泉
冷鉱泉 21.1℃ pH9.3 湧出量測定不能(自然湧出)
Na+:50.6mg, Ca++:5.9mg,
F-:12.6mg, Cl-:23.5mg, HCO3-:62.3mg, CO3--:5.4mg,
H2SiO3:36.5mg,
加温あり(入浴に適した温度に保つため)・循環濾過装置使用・塩素系薬剤及びオゾン発生装置使用
加水なし

岡山県加賀郡吉備中央町小森68-1  地図
0867(34)0880
ホームページ

入浴営業時間 10月~3月→11:00~17:00、4月~9月→11:00~19:00、水曜定休
貸切家族風呂(岩風呂)も同様
貸切家族風呂は事前予約制(当日予約可)1時間単位
500円(貸切家族風呂は800円)
貸切家族風呂にはシャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★+0.5
コメント (2)
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湯の瀬温泉 藤井旅館

2014年01月11日 | 岡山県
 
今回からは岡山県の温泉を連続して取り上げてまいります。その第一回目は、川床から温泉が湧き出す湯治場として古くから知られている吉備中央町の「湯の瀬温泉 藤井旅館」です。中国山地の只中にある、いまだにタヌキとキツネが化かし合いをしてそうな、長閑で静閑な川沿いの集落にある鄙びた一軒宿なのですが、西日本を中心に回っていらっしゃる温泉ファンの方々のブログでは好評価を得ているので、どんなお湯なのか体験すべく、朝イチに訪れてみました。


 
宿の裏には清らかな川(豊岡川)が緩やかに流れており、その対岸にはキャンプ場が広がっています。まぁ、なんて長閑な風景なんでしょう。橋の上から川岸に佇むお宿を眺めていますと、宿の裏から川へ下る階段の下に、何やら怪しい物体を発見(右(下)画像の赤丸内)。こちらの源泉は川床から湧いているそうですが、状況から想像するに、おそらくこの設備が源泉井なのでしょうね。


 
スリッパがズラリと並べられた玄関を上がり、女将さんに直接料金を支払いました。こちらのお宿は地域の方々が日常的に入浴利用しに来るのか、帳場のカウンターには料金箱が置かれており、女将さんに手渡さなくても、こちらへ料金を投入すれば入浴利用が可能のようです。



玄関の右手へ進み、階段を下りて廊下を進んだ突き当りが浴室です。階段を下りた先の廊下には「浴室」と大きく書かれたプレートが掲示されていたのですが、この辺りは最近改築されたのか、鄙びた風情の外観とは不釣合いに綺麗な内装でした。


 
狭い通路へ入ってすぐのところに暖簾が掛かっているのですが、浴室周りも同じくここ数年の間に改修されたのでしょうか、脱衣室も浴室も和洋折衷のログハウス調な造りです。脱衣室内にはロッカーと扇風機が取り付けられているものの、流し台やドライヤーは用意されていませんでした。



脱衣室内の張り紙にはお風呂に関する諸注意が箇条書きされているのですが、その最後に「シャワーや蛇口の湯・水は大丈夫です」と記されているのがミソ。水はともかく、お湯も飲めるということは、つまり循環消毒されていない、ということなんですね。


 
浴室男女別の内湯のみで、その室内は完全なログハウス調ですが、水回り(床や浴槽)には石材が使用されており、床は赤っぽい石板タイル敷きで、腰部や浴槽の縁には鉄平石(かそれと同類の石材)が貼られています。洗い場にはシャワー付き混合水栓が計4基設置されており、コックを捻るとお湯・水ともに源泉が出てきました(水は源泉そのもので、お湯は加温された源泉です)。


 
浴槽も石板タイル貼で台形の4人サイズ、右隅に湯口らしき飾りがあるのですが、そちらは全く稼働しておらず、窓近くの水栓につながったホースより加温された源泉が供給されていました。この水栓は混合栓となっており、洗い場のシャワーと同様に、お湯のコックを開ければ加温された源泉が、水を開ければ非加温の生源泉が吐出されます。循環消毒こそ行われていませんが、湧出温度は27℃という低さであり、且つ湧出量が限られている源泉を加温しなければならないために、溜め湯式の湯使いとなっており、投入量は多くなく、人が湯船に入れば浴槽縁の切り欠けからザバっと溢れ出ますが、常時はチョロチョロとこぼれ出る程度です。とはいえ、その水栓のコックを開ければ好みの量の源泉が出てきますから、湯船をできるだけ生源泉に近づけるべく、私は入浴中に(後から入るお客さんに迷惑がかからない程度に)冷たい生源泉を投入させていただきました(もちろん退室時にはお湯を入れて元の温度へ戻しておきました)。

そのお湯(生源泉)は無色透明であり、アルカリ性泉によく見られるタイプの白く細かな(粉状の)浮遊物が湯中でたくさん舞っていました。この手の浮遊物は汚れや湯垢と勘違いされてしまいがちですが、私はお湯を張ったばかりの一番風呂に入っていますので、その浮遊物は源泉由来のものと考えるべきでしょう。生源泉を口に含んでみますと、弱いタマゴ的な味と匂いが感じられ、ほんのりとした甘味やアルカリ性泉的な微収斂も有していました。なおタマゴ感に関しては、明瞭なそれと言うよりも、いわゆるタマゴ感と劣化したイオウ感の中間と表現すべきものでした。
お湯に含まれる成分は薄いものの、ヌルヌル感を伴うツルスベ浴感が実に気持ちよく、湯中では何度も自分の肌を擦ってしまいました。またフッ素の影響なのか、湯上り後もサッパリとした感覚が爽快です。一方で、そのような浴感をもたらすお湯ですから、オーバーフローが流れる洗い場の床はとっても滑りやすく、私も2~3度コケそうになってしまいました。ともかく印象の残る特徴的な浴感であり、しかも非循環なのですから、西日本の温泉ファンが高い評価を示すのも頷けますね。


アルカリ性単純温泉 27.1℃ pH9.3 湧出量測定不能 溶存物質0.17g/kg 成分総計0.17g/kg
Na+:45.5mg(85.71mval%), Ca++:6.0mg(12.98mval%),
F-:8.2mg, Cl-:22.0mg(26.50mval%), HCO3-:53.1mg(37.18mval%), CO3--:5.1mg, HS-:0.3mg,
H2SiO3:22.2mg,
加温あり(入浴に適した温度にするため)

岡山県加賀郡吉備中央町豊岡下1538-1  地図
0867-35-0539

入浴利用時間10:00~21:00?
600円
ロッカー(100円リターン式)・石鹸あり

私の好み:★★
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喜龍温泉 玉乃湯

2014年01月09日 | 青森県
 
私の温泉めぐりにおいては、わかりやすい場所にある施設ほど後回しにする傾向があるのですが、今回取り上げる青森県藤崎町の「喜龍温泉 玉乃湯」もその典型でして、2本の国道(7号と339号バイパス)が交わる交通量の多い交差点付近に位置していて、入口には大きなゲートが構えていることを十数年前から知っていたにもかかわらず、なぜか今まで入浴する機会が無く、先日ようやく初訪問を果たしてまいりました。



エントランスのドアには「自分のはきもので帰りましょう」と書かれた札が掲示されていました。ってことは、他人の靴を履いて素知らぬ顔で帰っちゃうマヌケな輩がいるんですね。普通の靴ならともかく、爺さん婆さんが履く靴ってみんな地味で同じような造りですし、また似たような製品が多いゴム長の使用率が高い地方でもありますから、気づかないうちに他人の靴を履いちゃう事象が発生するのでしょう。



妙にガランとした玄関ホールの奥に番台があり、ニコニコしながらちょこんとと座っているお婆ちゃんに料金を直接支払います。上述のようにアクセス面はかなり良いのですが、なぜかお客さんで混雑しているような気配が感じられず、余計なお世話ですが、ちょっと気がかりです。


 
スピーカーから演歌が流れている脱衣室は、まさに青森県の銭湯の典型的なスタイルです。リノリウム敷きの広い室内の片側には大きな鏡が備え付けられ、その反対側にある窓の下にはたくさんの棚が並んでいます。また中央には腰掛けと灰皿が置かれており、湯上がりでサッパリしたご様子のお爺さんが、腰にタオルを巻いた姿でその腰掛けに座りながら紫煙を燻らせていました。
そんなお爺さんを尻目に私が浴室へ向かおうとすると、浴室入り口のガラス扉に張られた「源泉かけ流し」という文字が目に飛び込んできました。屋外のゲートにも同じフレーズが記されていましたが、それほど湯使いには自信があるということなのでしょうか。


 
浴室もまた青森県の温泉銭湯に見られる典型的なレイアウトでして、即ち広い室内の中央に大きな浴槽が据えられ、その周りを余多の洗い場水栓が囲んでいます。男女両浴室を仕切る塀には、温泉名称に因んでいるのか、トラックの運ちゃんが好みそうなタッチの龍のタイル絵が飾られており、またその上には二昔前の高速道路を照らしていそうな街路灯タイプの大きな照明が設置されています。



浴室入口のすぐ前にも上画像のような小さな洗い場があって、銭湯の壁絵の王道である富士山と白砂青松が小さく描かれており、水栓からはちゃんと水やお湯が出てくるのですが、タイル絵の上には桶が積まれていますし、その設置場所や大きさから考えますと、洗い場というよりも、脱衣室と浴室とを視覚的に隔てる衝立のような役割を果たしているのでしょうね。


 
画像左(上)は浴室の奥から脱衣所方向を見た様子です。洗い場は浴槽を挟んで左右に配置されており、いずれもお湯と水の押しばね式カランの組み合わせで、その数は窓側に14ヶ所、男女両浴室の仕切り側に10ヶ所の計24ヶ所です。なお、カランのお湯は源泉使用です。またシャワーは壁直付の固定式ですが、全てのカランとペアになっているわけではなく、カラン一つ毎に取り付けられていました(つまり窓側7で仕切り塀側は5)。洗い場の一部には立って使うシャワーも用意されていました。


 
ヨモギ色に塗られた小部屋はサウナでして、その傍らにはステンレス槽の水風呂も据え付けられています。この水風呂に注がれている水は井水なのでしょうか、温度は20℃近くあり、少々金気が感じられました。またその金気の影響なのか蛇口も真鍮色に染まっていました。訪問日は肌寒かったのでこの水風呂は利用しませんでしたが、夏でしたら是非入ってみたいものです。


 
浴室の一番奥には泡風呂や打たせ湯も設けられていました。両者とも温泉使用です。


 
浴室の真ん中で漫然とお湯を湛える大きな主浴槽は、20人前後は余裕で入れそうな容量があり、一見すると脱衣室側と奥側で2:1に分割されているように見えるのですが実際には奥側がちょっと浅くなっているだけでして、槽内に立つ仕切り塀が低くて湯面下で留まっているために両者のお湯に違いは見られません(両者を仕切る塀は深さの違いを客に認識させるためのものかも)。
その仕切り付近の浴槽縁に設けられた上向きの湯口からしっかりした量のお湯が間断なく浴槽へと投入されており、きちんと掛け流されています。

お湯は僅かに黄色掛かっているように見える透明で、湯船においては無味無臭ですが、湯口にて微かにタマゴ的な味と匂い、そしてアルカリ性泉的な微収斂が感じられました。味と匂いに関してはタマゴ的と述べましたが、感じられた知覚が微少なのであまり自信はなく、臭素的あるいはガス的だったかもしれません。湯加減は43℃前後。湯船に浸かると、少々のニュルニュル感を伴うツルスベの心地よい浴感が楽しめました。

余談ですが、こちらの温泉の源泉名は「豊田温泉」であり、以前取り上げたことのある近所の「藤崎町藤崎老人福祉センター」は「西豊田温泉」です。両者は数百メートルしか離れていないのに、こちらは単純温泉である一方、「西豊田温泉」は食塩泉であるという違いがありますが、いずれもやや黄色掛かっている上、ツルスベ浴感がはっきりしている点は共通しています。こちら(龍喜温泉)の方が塩気が少ない分、体への負担は軽くて入りやすいような気もしますが、厳冬期の温まりは塩分の多い「西豊田温泉」に軍配が上がるわけでして、つまり、気候や客の好みに合わせて双方のいずれかを選択できるのですね。温泉資源が豊富な津軽平野ならではの贅沢な環境です。
広いお風呂に注がれるお湯はなかなかの良泉でした。


豊田温泉
単純温泉 43.0℃ pH記載なし 成分総計等の記載なし
Na+:186.6mg,
Cl-:227.0mg, HCO3-:152.7mg,
H2SiO3:140.3mg,
(昭和57年2月26日)
夏季は温度調整のため加水あり(冬季は源泉のまま)

JR五能線・藤崎駅より徒歩8分(650m)
青森県南津軽郡藤崎町藤崎字豊田58-19  地図
0172-75-5666

8:00~22:00
350円
ロッカー(100円リターン式)・ドライヤー(有料30円/5分)あり、番台にて基本的入浴道具販売有り

私の好み:★★
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畑中温泉 田舎館村老人憩の家

2014年01月08日 | 青森県
 
前回に引き続き、田舎館村の公営老人福祉施設にある温泉浴場を訪ねます。今回は村役場の近くにある「老人憩の家」です。ストレートなネーミングの施設であり、且つ役場からも近いことから、きっと現地まで行けば容易に発見できるだろうと高をくくっていたのですが、付近まで辿り着いてみたものの、それらしき建物が見当たらず、カーナビで検索してみても、郵便局の隣に位置する何だか冴えないくすんだ建物を指し示すばかり。まさかこの暗い佇まいの、憩いというワードとは逆のベクトルを示してる建物がその「老人憩の家」なのか。施設名を表す看板すら掲示されておらず、疑いを捨てきれないまま建物の玄関に近づいてみますと、庇の下に名称が手書きされた小さな板を発見し、ここに至ってようやく目的の場所に到達できていたことが確認されました。



建物の外装のどこを見ても、上記の小さな板以外に施設名を示す看板は無いのですが、道路側の壁をよく見ますと、古い照明器具の丸いカバーに、消えかかっている赤い温泉マークが記されており、これが温泉施設であることを示す唯一の手がかりなのかもしれません。



竣工は昭和48年なんだそうですが、当時のまま使われ続けているのでしょうか、館内は昔の診療所のような、どこか懐かしい風情です。玄関右手の窓口にいるおばあちゃんに料金を支払い、浴室がある奥へと進みます。


 
廊下の突き当りに浴室があり、手前側が男湯となっています。戸を開けて脱衣室に踏み入れた途端、室内からは膏薬の匂いと強い加齢臭が渾然一体となって鼻を突いてきました。さすが老人向けの施設ですね。その脱衣室は左右に棚がくくりつけられているだけで、余計な備品を用意していない至ってシンプルな造りです。


 
浴室には左右に洗い場が配置され、正面奥に浴槽が一つ据えられている、実用本位のレイアウトです。浴槽の縁から溢れ出ているお湯が、脱衣室に向かって洗い場の中央を真っ直ぐ流れていました。


 
左右の洗い場にはシャワー付き混合水栓が3基ずつ計6基取り付けられています。シャワーから出てくるお湯は源泉であり、当然ながらこれらの水栓に接続されている給湯配管には温泉が流れているわけですが、湯船やカランでの使用では余ってしまうのか、左右両洗い場のカラン用給湯配管の末端では、惜しげも無く温泉がドバドバと捨てられているではありませんか。逃がし弁的な役割を担っているのかもしれませんが、それにしてもなんて贅沢な光景でしょう。


 
浴槽のキャパは6~7人といったところで、6人が最適かもしれません。恰も用水路から田んぼに水を供給するが如く、配管からはもの凄い勢いでお湯が湯船へ大量投入されており、その湯口に手をかざしてお湯を受けようとしても、あまりの勢いの強さに掌で跳ね返ってしまい、ちっともお湯を汲むことができません。また私が湯船に体を沈めますと、怒涛の勢いでお湯がオーバーフローし、洗い場の床全体が殆ど川と化してしまいました。

お湯に関しては館内に掲示されている分析表と実際の感触では相違点があり、分析表では湧出温度が47.6℃と記載されているのに対し、実際の湯口では40℃前後であり、湯船に至っては体感で37~38℃というかなりのぬる湯になっていました。また分析表のデータによれば溶存物質2.216gの純食塩泉であるように読み取れますが、実際には無色透明でほぼ無味無臭であり、塩味は殆ど感じられませんでした。その一方で、メタケイ酸が多いのかニュルニュルと表現したくなるほど明瞭なツルツル浴感があり、また湯中では細かい気泡が付着するので、あまりの気持ち良さのために入浴中は何度も自分の肌をさすって、その爽快な浴感を楽しみました。その浴感といい温度といい、大雑把な感想ですが、津軽平野の温泉というよりも山梨県甲府盆地に近いタイプではないでしょうか。
40℃を下回る湯加減でしたので、分析表上では食塩泉であるにもかかわらず、湯上がりには全く汗をかかず、それどころか若干の肌寒さを覚えましたが、服を着た後には体の内部からジンワリとぬくもりが蘇ってきましたので、じっくり長湯をすればしっかりとした温浴効果は得られるのだろうと想像されます。いずれにせよ、津軽平野には珍しい夏向きのお湯であることには間違いなさそうです。大量投入によりお湯は常時新鮮ですし、洪水のような溢れ出しにより豪快な気分も味わえ、しかも料金はわずか150円なんですから、田舎館村って素敵じゃありませんか。今度は真夏の暑い日に再訪してみたいと思います。


畑中温泉(代替)
ナトリウム-塩化物温泉 47.6℃ pH記載なし 溶存物質2.216g/kg 成分総計2.216g/kg
Na+:724.1mg(92.32mval%), Ca++:36.5mg(5.33mval%),
Cl-:1084mg(91.25mval%), Br-:3.3mg, I-:0.3mg, HCO3-:84.2mg, CO3-:36.3mg,
H2SiO3:200.4mg,
(平成16年5月25日)

青森県南津軽郡田舎館村畑中藤本169  地図
0172-58-3555

平日16:00~21:00、土日祝9:00~21:00
150円
備品類なし

私の好み:★★+0.5
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前田屋敷温泉 田舎館村立老人福祉センター 喜楽荘

2014年01月07日 | 青森県
 
津軽平野のど真ん中に位置する田舎館村は、その潔い名の通り田んぼしか無い生粋の田舎でありますが(地元の皆様、ごめんなさい)、そんな村にある2軒の公営老人福祉施設には、掛け流しの温泉浴場が併設されているという情報を得たので、2013年秋の某日、その両施設をハシゴすることにしました。まず1軒目は前田屋敷地区にある「喜楽荘」です。2本の県道がクロスする十字路の角にあり、辻向かいには村民の生活を支えるローソンが営業中ですから、比較的わかりやすい場所ゆえに、私はカーナビなしで辿りつけました。いかにも昭和の公共施設らしい地味な建物ですね。建物のどこを見ても、ここで温泉に入れることを示す看板などはありませんが、玄関には温泉入浴時間に関する案内が掲示されており、これによってここに温泉があることが確認できました。



これがその入浴時間に関する案内です。基本的には村にお住まいの老人の方に向けた施設であり、村の老人に対しては入浴時間が幅広く設定されていますが、これに対して一般有料開放される時間帯は限られていますから(特に平日)、利用の際にはちょっと注意が必要ですね。


 
玄関入って左手にあるラウンジの前を通り過ぎ、浴室がある奥へと進む途中、廊下の右側に小さなお座敷があり、施設を管理(あるいは受付の当番)しているおばあちゃんがその座敷にいらっしゃいましたので、挨拶してから座敷前に置かれている卓上の料金皿に入浴料を納めました。


 
廊下の突き当りが浴室でして、ちゃんと男女別になっています。福祉施設に付帯する浴場はどこでも極めてそっけなく、その入口は浴室なのか倉庫なのか保健室なのか、いまひとつ判然としないケースが多々有りますが、こちらもその典型であり、入り口の札に書かれている「男浴場」の文字が無ければ、とてもここにお風呂があるとは気づきません。脱衣室も至って簡素で必要最小限の設備に抑えられていますが、ありがたいことに扇風機が用意されているため、湯上がりのクールダウン対策は問題ありませんでした。

訪問時にちょうど私と入れ替わりで出て行ったこのお風呂の常連のお爺さんは「ここでは物を盗まれたことがないからロッカーが無くても大丈夫、お湯はいくらでも出てくるし、どんどん流れてゆくから垢も無い、最高のお湯だよ」と強い津軽訛りで誇らしげに語っていらっしゃいました。地元の方が太鼓判をおしてくれると、とっても心強いですね。


 
全面タイル貼りの浴室は実用的で温泉風情はありませんが、床にはベージュ、側壁には若草色といったようい明るい色が採用されており、窓からも外光が燦々と降り注いでくるので、湯気が立ち込めているとはいえ、室内の明るさは十分、しっかりと行き届いている清掃の甲斐もあって、快適に利用できました。なお洗い場にはシャワー付き混合水栓が8基設置されており、シャワーからは源泉のお湯が出てきます。


 

浴槽は6~7人サイズ(7人ではちょっと狭いか)、壁から突き出ているバルブ付きの配管が湯面下へ潜り、底に近い位置からお湯を吐出させています。浴槽の縁と洗い場の床との間はフラットに近い造りになっており、豊富な源泉投入を受けているその浴槽の縁からは波々とお湯が溢れ出ていて、床タイルの上では小さな波を立てながらオーバーフローが流れ、洗い場に散るボディーソープの泡を綺麗に洗い去っていました。また絶え間なく床の上を温泉が流れているためか、タイルは温泉成分によって茶色く染まっていました。

お湯はほぼ無色透明で、口にするとほんのり出汁味が感じられ、津軽平野の温泉によく見られる磯のような芳しい匂いがふんわりと香っています。お湯が槽内で勢い良く吐出されているためか、湯船の中では細かな気泡の付着が見られ、特に湯口付近で顕著です。肌を擦ると弱いツルスベ浴感が得られ、味や匂いは薄いものの、その浴感からは食塩泉であることが実感できましたが、食塩泉というよりアルカリ性単純泉に近いツルスベであったように感じられたのは私だけでしょうか。
ま、そんな微細な感覚はともかく、わずか150円でふんだんに掛け流される新鮮な温泉に入浴できるのですから、なんとも素晴らしい浴場ではありませんか。食塩泉ですから湯上がりの温まりも抜群です。先程のお爺さんが誇らしげに語っていたことに十分納得できました。


ナトリウム-塩化物温泉 45.0℃
Na+:318.0mg, Ca++:9.7mg,
Cl-:410.3mg, Br-:1.0mg, I-:0.9mg, HCO3-:122.0mg, CO3--:36.0mg,
H2SiO3:178.9mg,

JR奥羽本線・五能線の川部駅もしくは弘南鉄道の黒石駅より弘南バスの黒石~川部線で「福祉センター」下車すぐ
青森県南津軽郡田舎館村大字前田屋敷字東中野35-1  地図
0172-58-2221

平日16:00~21:00、土日祝9:00~21:00
150円
備品類なし

私の好み:★★+0.5
コメント (4)
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