温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

湯原温泉 たねや旅館

2014年01月19日 | 岡山県
 
湯原温泉での宿泊は、リーズナブルな料金設定、掛け流し、一人客受け入れ可、などの条件を満たす「たねや旅館」でお世話になりました。湯原温泉バスターミナルの裏手に位置する家庭的な小規模旅館であり、川沿いのメインストリートから狭い路地へ入った先に玄関があるのですが、見るからに古くて鄙びている玄関まわりの佇まいを目にした時には、ここは裏口で別に正面玄関があるのではないかと勘違いしてしまいました。お宿には中華料理屋が隣接しており、その店頭に立つ電照看板には「日帰り入浴…」という文字が流れたので、もしやその中華料理屋に入浴できるお風呂が併設されているのか、と淡い期待を抱いたのですが、その実は「たねや旅館」と同一経営であり、日帰り入浴は旅館のお風呂へ案内されるようです。


 
玄関ロビーには宿泊客が自由に読める漫画コーナーがあり、書棚には2000冊以上にも及ぶたくさんの漫画本がギッシリと並べられているのですが、子供の頃から漫画を読む習慣が全く無い私は、残念ながらこれらの蔵書の恩恵に預かることができず…。


 
今回通された客室は2階の和室で、広さ10畳の標準的なレイアウトです。今どき珍しい重い鉄の窓サッシを開けると、その外には甍越しに旭川や対岸の山々が望め、左下にはバスターミナルも目に入ってきました。


 
客室内には洗面台やトイレ(和式)が備え付けられていますので、お風呂以外は客室の中で全て完結でき、共用のものを使わずに済みました。また碁盤もあったので、ビールをチビチビ飲みながら一人で碁を打っちゃいました。このように客室の設備は整っているのですが、総じてかなり古く、また老朽劣化が進行しており、その劣化にメンテナンスが追いついていない箇所が見受けられました。


 
2食付きでお願いした所、夕食・朝食ともお部屋出しでした。まずは夕食から。真ん中に置かれたのは刺し身やカニなどの海産物でして、その左側(画像右or下)に並ぶ2つの木蓋は、釜飯と鍋です。なお、そのお鍋は鶏の水炊きでした。


 
もうひとつの木の蓋は釜飯でして、中身は画像左(上)のような感じ。汁物は私の大好物であるとろろ昆布が入ったお吸い物です。天ぷらは揚げたてを持ってきてくださいました。


 
山間の温泉地なのに、上述の刺し身やカニの他、画像左(上)のような焼き魚まで提供されました。なんだかんだで結構ボリュームがある献立です。ちなみに画像右(下)に写っているのは、こちらのお宿特製である青大豆で作られたお蕎麦なんだそうでして、副菜のひとつとして出されました。



こちらは朝食です。たくさんの小鉢が並んでいますが、それらに囲まれながら玉子・シャケ・海苔といった日本旅館の朝食献立の王道が、英気を求める我が身体に安定と安心をもたらしてくれました。


 
さて肝心のお風呂の話題へ移りましょう。館内には浴室には大きさの違う2室あるらしく、ネット上で温泉ファンの皆さんがレポートされているのは大きなお風呂であることが多いのですが、この日の宿泊客は私一人だけだったためか、その大きなお風呂は使えず、小浴室のみとなっていました。その小浴室は1階のロビー奥にあり、暖簾を潜ってすぐのところにあるコンパクトな脱衣室には、カゴが2つばかり用意されているのみで、その簡素な佇まいからは、旅館というより湯治宿のような趣きを強く受けました。また脱衣室内には窓が無いため換気状態が宜しくなく、後述するように浴室には湯気が籠っていましたので、浴室の扉はすばやく開閉しないといけない状況でした。


 
浴室も民宿のお風呂のようにこぢんまりしており、造りも相当古そうです。室内には岩風呂がひとつ据えられ、シャワーが1基取り付けられています。換気状態が悪いのか室内には湯気が籠って息苦しく、外気を取り入れるべく窓を開けたのですが、その窓枠がかなり傾いでいたので、むやみに開けたことを後悔するとともに、ちゃんと閉まるか不安になってしまいました。



岩風呂は2人サイズで、シャワーの水栓にホースをつなげてお湯を湯船に注いでいます。つまりシャワーの水栓から吐出されるお湯は源泉なのですね。こちらのお風呂は、湯原温泉のお宿では貴重な源泉100%完全掛け流しを実現しており、その投入量は湯船のキャパに対してかなり多く、湯船から洗い場へ惜しげも無くジャンジャン溢れ出ており、実際に湯船に浸かると、その清らかに澄んだクリアなお湯からは、鮮度感の良さが全身から伝わってきました。湯加減は43~4℃ほどでやや熱め、無色澄明でほぼ無味無臭ながら、僅かにアルカリ性泉らしい微収斂が感じられました。また鮮度感の他、アルカリ性泉らしいツルスベ浴感もしっかり楽しめました。


湯原元湯
アルカリ性単純温泉 48.5℃ pH9.09 1718L/min(自然湧出) 蒸発残留物0.174g/kg
Na+:42.9mg(94.44mval%),
Cl-:17.3mg(24.87mval%), HCO3-:27.5mg(22.84mval%), CO3--:25.2mg(42.64mval%),

岡山県真庭市湯原温泉145
0867-62-2201
ホームページ

日帰り入浴可能(料金は要問い合わせ)
シャンプー類あり・ドライヤー帳場貸出

私の好み:★★
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湯原温泉 砂湯

2014年01月18日 | 岡山県
 
岡山県・湯原温泉の象徴とも言える露天風呂「砂湯」は、西日本のみならず全国の温泉ファンにも知られている露天風呂の代表選手でありますが、有名なものを敬遠してしまう天邪鬼な私は、これまで岡山県へ何度か訪れているにもかかわらず、この有名な露天を恣意的に避けておりました。しかしながら、いい年して天邪鬼はみっともない、食わず嫌いは良くないと心を入れ替えて、先日初訪問を果たすことにしました。
「砂湯」へと向かう遊歩道のゲート付近に設置されている石のモニュメントからは、当地の湯量の豊富さを誇示するかのように、湯原のお湯が絶え間なく落とされていました。



温泉街の最上流部に高く聳える湯原ダム。あのダムの下に、これから目指す「砂湯」があるわけですね。ダムのすぐ下流側に温泉街が広がっているといえば、関東人の私としては上州の四万温泉を思い出さずにはいられませんが、湯原の場合はダムと温泉街との距離が近すぎ、ダムサイトの無機質な無彩色が威圧的に感じられてしまいます。


 
ゲートから2~3分歩いたところで、お目当ての「砂湯」に到着です。本当にダム直下にあるんですね。開放的な佇まいの露天風呂が3つほど、川原に設けられていますが、当地きっての観光名所でありながら、訪問時は運がよいことに先客が誰一人いなかったので、この好機に各浴槽の様子をカメラへ収めることにしました。


 
入浴する前に、まずは注意書きに目を通します。「入浴指南」によれば、湯原温泉ではかつては全てのお風呂が露天だったそうでして、「砂湯」はその伝統的スタイルを継承しているんだとか。お湯は全て掛け流しですが、洗い場などは無いため、衛生的観点から入浴にはちょっとした注意が必要とのこと。「入浴指南」に続く「心得」の項では、その注意に関する説明があり、「下を清めよ」はもちろんのこと、「湯尻より入り上より出よ」という他では見られない流儀が明示されていました。つまり入浴の際は、お湯が捨てられている湯船の下流側から入り、お湯の綺麗な上流側から出れば、湯船のお湯を汚さずに済むんだそうです。なるほど、大きな湯船全体に流れができているこのお風呂ならではのエチケットですね。また環境面を考慮して石鹸類の使用も不可です。



砂湯の入口付近にはこのような足湯もあり、あけっぴろげな環境での混浴に抵抗を覚える観光客の方はここで足湯を楽しんでいらっしゃいました。


 
立派な造りの男女別更衣室があり、男性用は外から丸見えですが、女性用には目隠しスペースがあり、また水着の着用は不可ですがタオル巻きならOK。観光案内所では湯浴み着も販売されているんだそうです。またこの掲示によれば、男性も前を隠して入浴するのがここでのマナーとのこと。このように混浴が苦手な女性の方でも利用しやすいような配慮がなされているんですね。



脱衣室前に設置されていたこの設備は、凝った形状の水栓なのでしょうか。使っていないので詳細わからず。


 
3つある浴槽のうち、最も手前側にある東屋が掛かったお風呂は「長寿の湯」。訪問時は3つの浴槽の中でも最もお湯の透明度が高くて清らかだったのですが、その一方で湯加減も一番高く、私の体感で44℃近くあったため、せっかくの綺麗なお湯にもかかわらず、私の撮影後に続々やってきた湯浴み客のほとんどは、指やつま先で温度を確かめた途端に別のお風呂へ移り、誰もここに入ろうとしませんでした。


 
最もダムに近い上流側にあるのが「子宝の湯」。ここは「長寿の湯」より透明度では劣るものの、砂利敷きの底よりプクプクと上がる気泡とともにお湯が供給されており、42~3℃という最適な湯加減だったので、一人で訪れているお風呂が好きそうな男性客を中心に、最も人気を集めていました。男が「子宝の湯」に入ったってその恩恵は受けられるはずありませんけどね。



「子宝の湯」の下流側に位置する最も大きな浴槽が「美人の湯」。下流部だからか、3つのお風呂の中ではお湯の濁りが一番強く、また湯加減も最もぬるくて体感で40℃に届くかどうかといった程度でしたが、景色を眺めたり、あるいはおしゃべりしながらのんびり寛ぐには、ぬる湯で長湯するのが一番ですから、遠い目をして山河の景観を望む御仁や、混浴をたのしむカップル、そして挙動不審な行動をとりながら視線を光らせているクロコダイルさん達は、みなさんこの「美人の湯」に集まっていらっしゃいました。

ところでここのお湯に関する特徴ですが、この界隈で湧出する温泉に共通する特徴がよく出ており、即ち見た目は無色澄明で、味や匂いは無味無臭、アルカリ性単純泉らしいツルスベ感が、かけ湯するだけはっきりと肌に伝わってきました。「砂湯」という名称は、足元湧出するお湯が露天風呂の底の砂を巻き上げることから名付けられたそうですが、現在でも底の砂利からお湯が上がっているものの、おそらくその下には配管が敷設されているものと思われます。

私が到着した時には偶々無人状態でしたので、各お風呂の様子を撮影することができましたが、普段は大抵数人の入浴客がいるそうですし、休日になると相当混雑するそうですから、湯あみの際にはその辺りの覚悟はが必要になるのでしょうね。また地元の方(複数人)から伺った話によれば、この露天風呂は、なぜか昼間よりも夜中の方が混雑する傾向があるらしく、実際に深夜帯に再訪してみますと、本当に日中よりも多くの入浴客で賑わっていることに驚きました。開放的な露天風呂に浸かりながら夜空に輝く星を見上げれば最高のひと時を過ごせること必至でありますから、夜の帳が下りた後に入浴客が集まってくるのは理解できますが、数多のお客さんの中にはおよそ星空に関心が無さそうな、ビールやつまみを片手に入浴したり、酔って大きな気になっちゃったり、あるいはクロコダイルさんらしき人影も結構見受けられましたので、残念ですが私は夜間の入浴を諦めて早々に立ち去りました。

野口冬人氏はこの露天風呂を、ご自身が勧進元となった温泉番付において西日本の横綱としたそうでして、当地ではその番付を誇りとするとともに積極的なアピール材料としているようですが、あくまで私個人の主観として申し上げるならば、夜半に遭遇した有象無象はともかく、正直なところ、露天風呂として横綱に値するかどうかは疑わしく思います(「砂湯」ファンの皆様、申し訳ありません)。けだし野口氏は当地に特別な私情を抱いていたのでしょう。しかしながら、このような規模の大きな露天風呂で、いろんな志向の人間が集まってくるにもかかわらず、閉鎖に踏み切らず無料開放を続けていらっしゃる地元の方々の志や努力はまさに横綱格であり、そんな地元の方々の温泉愛があってこそ、私もこの有名な露天風呂を楽しむことができたわけですから、番付なんて序列はさておき、「砂湯」を守り続けている関係者の皆様には、一介の温泉ファンとして心から感謝申し上げます。


温泉分析表掲示なし

岡山県真庭市湯原温泉  地図

24時間入浴可能だが清掃時間帯有り
(毎週水曜午前、毎月第一金曜日10:00~16:00、12月27日9:00~14:00は入浴不可)
無料

私の好み:★★
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茅森温泉

2014年01月16日 | 岡山県

温泉ファンの間で野趣あふれる混浴露天風呂として夙に有名な「茅森温泉」は、前回取り上げた「郷緑温泉」から近いところにありますから、その湯上り後、ついでに寄ってみることにしました。事前にある程度の情報は入手していたので、迷うことなく一発で辿り着けたのですが、ネット上で皆さんがおっしゃっているように、本当に目の前に墓地があるんですね。昼間でもちょっと不気味かも。なお上画像で私は墓地下に車を止めていますが、ここは狭くて他の車が転回できなくなってしまうので、実際に入浴する際には橋の下付近に確保されている河原の駐車スペースを利用しましょう。



墓地の下から川へおりる小径を行くと、すぐにお目当ての露天風呂が目に入ってきたのですが・・・



んん? あれれ?



残念ながら、完全に空っぽな状態で、しかも浴槽内はすっかり乾いていました。訪問時は既に夕方4時を回っており、空は暗くなりはじめていましたから、もうこの日にここで入浴するのは諦めざるを得ませんでした。


 
浴槽は空っぽとはいえ、湯口より伸びるホースからはお湯が捨てられていましたので、お風呂が廃止されたわけではなく、この露天風呂を管理なさっている方が、清掃等管理上の目的で意図的にお風呂を空にしていたものと思われます。


 
ホースの口に温度計を当ててお湯の温度を測ってみたところ、33.9℃という数値が表示されました。湯口でこの温度ですから、もし秋の夕暮であるこの時点で露天風呂にお湯を張ったとしても、果たして30℃に届くかどうか…。よしんば入浴できたとしても、湯上りは相当寒いでしょうね。温泉ファンの皆さんが夏にこちらのお風呂へ訪れている意味がよくわかりました。なおお湯の特徴としては無色透明で無味無臭、指先でお湯を擦ってみたところ、ツルスベ感が強く得られましたので、入浴したらさぞかし気持ち良い肌触りが楽しめたんでしょうね。あぁ、悔しい…。

あけっぴろげな環境である上、混浴であり、且つ更衣スペースも目隠しもありませんから、混浴に対する耐性が無い方には利用が難しいかと思いますが、逆に耐性が備わっている方には、実に開放的で爽快な露天風呂として楽しめるでしょうね。


温泉分析表なし


岡山県真庭市某所(場所の特定は控えさせていただきます)

入浴可能時間不明(常識の範囲内で)
無料
備品類なし
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郷緑温泉 郷緑館

2014年01月15日 | 岡山県
 
国道313号を北上して湯原温泉へ向かう途中で県道55号線に入り、鉄山川に沿って谷間を西進してゆくと、まもなく視界が開けて水田と集落が現れますが、その集落の手前側には一軒宿の郷緑温泉「郷緑館」があり、足元湧出の温泉として名を馳せていますので、どんなお湯か体験すべく日帰り入浴してまいりました。高く積み上げられた石垣の上に聳えるお宿は、まるで城郭のようですね。


 
そのお城の如き高台のお宿から集落の方を眺めた際、すぐ下に見えるドーム状の骨組みに覆われた池は、スッポンの養殖池です。こちらのお宿はスッポン料理が名物なんだそうです。


 
駐車場から石垣上のお宿を見上げた時にはお城のようでしたが、実際に階段を上がって玄関前までやってきますと、城郭のような威厳はどこへやら、ごく普通の田舎の民家そのものの佇まいとなり、暖簾が下がっていなければ、ここがお宿であるとは信じられなかったかもしれません。そんな蓬色の暖簾が下がった玄関の左脇には、木彫のスッポンとともに「うちの湯はぼっこう効くでえ」と書かれた札が下がっています。東男の私には普段聞き慣れない当地の訛りが新鮮に感じられたのですが(TOKYO MXの「5時に夢中」ウォッチャーの私としては岩井志摩子の岡山弁を連想せずにはいられない…)、そんなに効能が強いお湯なのでしょうか。期待に胸が膨らみます。


 
玄関を入りますと奥から女将さんが現れ、入浴をお願いしますと心よく受け入れてくださいました。ソファーが向かい合わせに置かれたロビーには、こちらがメディアに取り上げられた際の写真がたくさん飾られているのですが、いずれも昭和の頃と思しき古いものばかりでした。平成に入ってからのものはあったかな。


 
玄関のすぐ左側の上がり框に浴室入口があり、真ん中に大きく「ゆ」と染め抜かれた藍色の暖簾の左右には「男湯」と「女湯」が併記されています。これはどういう意味かと申しますと、このお宿には浴室が一つしかなく、貸切利用となっているのです。岡山県を活動範囲とする温泉ファンの皆さんにとっては常識なのかもしれませんが、所在地と営業時間以外何も調べてこなかった私は、現地でその事実を知ってちょっと驚いてしまいました。とはいえ訪問時には先客がおらず予約も入っていなかったので、行き当たりばったりながらスムーズに利用することができたのは、ビギナーズラックなのかもしれません。尤も、女将さんは初見の私に貸し切りの時間制であることを注意喚起したかったのか、何度も「30分貸し切りです」というフレーズを繰り返していました。

浴室入口のドアには思春期真っ只中と思しき頃のえなり君のポスターが貼られていたのですが、後で調べたところ、彼は18歳の時に「温泉へ行きたい」というCDを出していたんですね。芸能界の大人達が仕組んだ企画とはいえ、18のくせに「温泉へ行きたい」だなんて、期待を裏切らないその老成りぶりには恐れいります。しかもドリフの「いい湯だな」を連想させるその歌詞もちっとも18歳らしくなく、もし同じ歳の私がえなり君と同じ格好をして歌えと命じられたら、拒絶反応の示す意味で潔く舌を噛み切っていたかもしれません。芸能界とは無縁の平凡な生活を送っていて、本当に良かったわ…。


 
貸切利用ですからドアには利用状況を示す札が下がっており、入室時には「空き」を裏返して「入浴中」にしておきます。


 
貸し切りなのに脱衣室は中小規模の旅館並に立派な大きさです。何だか一人で使わせていただくことに恐縮してしまいそう…。この室内では湯使いについて説明されており、大風呂は掛け流しである一方、上がり湯は加温・循環・濾過・オゾン消毒が実施されている旨が明示されていました。


 
上述のように、浴室内には2つの浴槽があり、小さい方は加温された上がり湯、大きな方が掛け流しの源泉風呂です。脱衣室同様に浴室も貸切風呂にしてはとても広く、一人で独占してしまうのが申し訳なくなるほどです。この室内には当温泉の由来が記されているのですが、なぜかわかりにくい雅文体なので、ここでは平たい文章に書き下してみましょう。
この温泉は今から二百数十年前のこと、まだ本庄地区には温泉が存在せず、当時温泉は全て薬師如来のお恵みによるものと信じられていたのだが、そんな時代に、本庄に住む某農夫が温泉を発見し、「これは薬師如来様のお恵みだ」ということで、皮膚病など諸々の病に罹患した者がここの温泉水を患部に注いだところ、みな回復して全癒しない者はいなかった。寛永2年には備後国の住金十郎という者がこの温泉を更に掘削して入浴しやすいように開発し、明治17年には温泉としての許可を得て「郷六」という当地の字地名を温泉名にし、その後「郷緑」に改称して今に至っている…
日本各地の温泉の発祥や発見に関しては、鹿・猿・鷺・鶴などの動物、弘法大師(実際には空海の弟子を名乗ったであろう高野聖)や行基などの僧侶、弁慶や武田信玄などの武将、薬師如来や弁財天などの神仏系、などに分類できますが、こちらのお湯ではお湯の効能が重要視されたために、病気治癒を主とする現世利益をもたらすお薬師様が開湯縁起に登場したのでしょう。この由来書きとともに温泉の効能が箇条書きされているのですが、現行の分析表別表では見られないワードが出てくるので、ついでにそれらもご紹介しておきます。
(イ)皮膚病 (ロ)痔ノ類 (ハ)切傷 (ニ)毛虫ノ刺傷 (ホ)リユウマチス (ヘ)神経痛 (ト)打身 (チ)草マケ
毛虫の刺し傷や草負けという症状をわざわざ列挙しているあたりが実に牧歌的ですね。後述しますが、こちらの温泉はお湯に溶けている成分がかなり薄く、温泉成分が症状に対して何らかの効果をもたらしているとは考えにくいのですが、神経痛や打ち身は現行の温泉でも一般的適応症(つまり温泉でも家庭のお風呂でも浴用によって得られる効能)に含まれていますし、その他の外傷の類に関してはおそらく湧きたての綺麗なお湯による清浄と、長期の湯治による湿潤療法(モイストヒーリング)による効果ではないかと推測できます。地域差もありますが、高度経済成長期以前の日本では、日常的に入浴する習慣があまり無かった人も多かったわけですから、そのような衛生面に恵まれない人がお風呂に入るだけでも衛生状態が改善し、これに伴って皮膚疾患も自ずと回復へ向かうのは、当然と言えば当然なんですよね。



後から増設した感のあるサンルーフの下には洗い場が設けられており、シャワー付き混合水栓が2基用意されていました。


 
2つある浴槽のうち、小さな上がり湯槽は特徴のないごく普通のお風呂でして、ぬるい源泉槽では体が温まらないために循環されたお湯を加温しているのですが、ここで注目すべきはやはり源泉100%の大きな浴槽でしょうね。一見すると縁を石タイルで囲った一般的な主浴槽なのですが、槽内では天然の岩盤がむき出しになっていて、その岩の随所から絶えずお湯が足元湧出しており、画像に写っているようなV字に刻まれた割れ目のみならず、岩のあらゆるところからアットランダムにプクップクッとあぶくが上がってくるのです。そしてそのお湯は浴槽縁を静かに溢れながら洗い場床へと流れ出ていきます。まじりっけのないその無色澄明で清らかなお湯を見つめているだけで、すっかり心が洗われました。中国山地のお湯は大抵が無色透明で成分が薄いタイプですが、御多分に漏れずこちらもその典型例であり、味や匂いはほとんど感じられず、浴感自体も実にアッサリとした優しいフィーリングでして、湯加減は体温を若干下回る35℃弱ですから、入りしなはちょっとぬるく感じるかもしれませんが、一旦肩まで浸かれば、その後はいつまでも入っていられるでしょう(といっても30分の時間制限がありますけどね)。またじっと静かに湯中で浸かっていると、大して目立ちませんがそれなりに気泡が肌へ付着します。湯上りも爽快この上なく、普通のお風呂にありがちな逆上せによるグッタリ感とは無縁ですので、心身とりわけ頭がシャキッと冴えわたりました。
生まれたてのお湯に直に触れることができるお風呂って素晴らしいですね。


郷緑温泉(No.1)
アルカリ性単純温泉 34.2℃ pH9.1 30.5L/min(自然湧出) 溶存物質0.13g/kg 成分総計0.13g/kg
Na+:31.3mg(95.77mval%),
Cl-:8.9mg(17.86mval%), SO4--:29.3mg(43.57mval%), HCO3-:6.1mg(7.14mval%), CO3--:12.0mg(28.57mval%),
H2SiO3:35.1mg,

岡山県真庭市本庄712  地図
電話:0867-62-2261

日帰り入浴10:00~16:00
500円(30分)
備品類なし

私の好み:★★+0.5
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真賀温泉 真賀温泉館

2014年01月13日 | 岡山県
 
岡山県美作エリアの真庭市や苫田郡界隈は、足元湧出温泉の隠れた宝庫でして、特に真庭市湯原温泉の周辺にはこの手の温泉が数ヶ所集中していますが、今回はその中でも温泉ファンのみならず多くの観光客からも支持を集めている真賀温泉の「真賀温泉館」を訪れました。
当地は温泉地と呼ぶには心細いほど規模が小さく、今回スポットライトを当てる公衆浴場の「真賀温泉館」の他に2軒程の小規模な宿が、谷間の傾斜地で肩を寄せ合うように営業しているばかりですが、そんな物寂しい佇まいに反して、温泉街の中心に伸びる階段の入り口に掛かるゲートや温泉名を表す看板は、新しく小洒落たものに更新されていました。



黒い鋳物のゲートを潜って、温泉館がある崖上へ向かって階段を上ります。


 
駐車場の後ろ側にはお湯汲み場があり、訪問時にも持参したタンクにお湯を汲む方が列をなしていました。また階段の途中には洗濯湯と思しき湯溜まりもあり、この集落では温泉が入浴のみならず家事にも役立てられていることがわかります。


 
階段を登り切ったところが「温泉館」の玄関で、さすがに高いところですから見晴らし良好です。木造和風建築の前に立てられた紅色の和傘が絵になりますね。玄関の扉の右側には「湯賃先払御願申上候」(湯賃は先払にてお願い申し上げそうろう)と記された札が掛かっていました。和傘といいこの札といい、和の趣きど真ん中です。


 
外観の伝統的な趣きとは裏腹に、料金は下足場に設置されている現代的な券売機で支払います。とはいえ、現代的なベンダーマシンの上には、これまた伝統的な木板に筆書きされた「舌代」と題する料金表が掲示されていました。後述するようにこちらには3種類の浴室があるため、その種別によって異なる料金が案内されている他、お湯の持ち帰りを「売湯」と称している点が興味を惹かれます。「売湯」という表現は他にはあまり見られないのはないでしょうか。でも、お風呂なのにどうして「舌代」なんでしょうね。なんだかお茶屋さんみたい…。


 
浴室は「普通湯」と称する男女別のパブリックバス(男湯・女湯)の他、この温泉の名物である「幕湯」、そして数室ある家族風呂に分かれており、玄関や帳場に近いところから、女湯・男湯・幕湯・玉之湯(家族風呂の一つ)、そして階下に旭湯・泉湯(いずれも家族風呂)が並んでいます。



「幕湯」や「男湯」の前には、谷側に眺望が開けている明るい休憩室があり、窓に向かって並べられているベンチには扇風機も用意され、湯上がりのクールダウン対策もぬかりありません。


 
できれば入浴可能な浴室全てを利用してみたかったのですが、それでは自分の体が茹で上がってヘロヘロになってしまうため、今回は真賀温泉名物の「幕湯」のみの利用に留めました。既に観光ガイドブックやネット上ではこの「幕湯」に関する多くの解説がなされていますので、拙ブログでの説明は最小限に控えさせていただきますが、美作勝山藩の殿様が幕を張って湯浴みしたところからその名が付けられたという「幕湯」は、画像を見てもお分かりのように、間口が一間ほどしかなく、一見すると狭隘でウナギの寝床みたいに奥へ細長いお風呂に過ぎませんが、奥まった位置にある湯船は岩盤の上に設けられており、その岩盤からお湯が自然に湧き出している足元湧出のお風呂なのであります。またこのお風呂は男女に分けられないために混浴利用となっております。実は私はこの「幕湯」の利用は2回目なのですが、初回利用時にはこんな狭い風呂に2組のカップルと私一人の計5人が、それこそ肩を寄せ合うようにして入っていました。今回の訪問時にも私と入れ替わりに水商売風のカップルが入っていきましたから、ここは西日本の混浴好きな方には有名なんでしょうね。



上画像は湯舟側から脱衣室側を撮った様子です。浴室入口から湯船まで真っ直ぐですから、たとえサッシで仕切られているとはいえ、相互間は結構丸見えだったりします。また室内にはこれといった洗い場が無く、水が出る蛇口があるばかりで、用意されている桶も2~3個しかありません。しっかり体や髪を洗いたい方は、「幕湯」ではなく「普通湯」の方が良いかもしれませんね。


 
天然の岩盤を活かして周囲をコンクリで固めた湯船は5人サイズでかなり深く、身長165cmの私ですと胸までしっかり浸かってしまいました。従って湯船の中では立って入浴する感じになりますが、槽内にはステップもありますから、そこに腰掛けて座湯みたいなスタイルをとることもできます。
湯船には竹筒が立てられており、その口からはお湯が噴き上げられていました。この筒はちゃんと固定されているわけではなく、ちょっと動かすと容易に抜けちゃうのですが、元の位置に戻せばちゃんと再びお湯が噴き上がってくるのが面白いところです。お湯はこの筒が刺さっているところのみならず、岩盤の全体から湧出しており、入浴しているといろんなところからプクプクと泡が上がってくるのがわかります。



竹筒の口をアップしてみました。噴き上がるお湯がコンモリと盛り上がっていますね。常連さん(それも一人ではなく2~3人)はこの竹筒のお湯で洗眼していましたが、ここではお湯で眼を洗うのが流儀なのでしょうか。
お湯は無色澄明でほぼ無味無臭、ツルツルスベスベの気持ち良い浴感が得られる他、気泡の付着が激しく、その気泡のおかげか入浴中はツルスベ浴感と同時にフワフワとした軽やかな感触も楽しめました。
湧出する湯量も豊富で、ふんだんにオーバーフローしており、湯使いは言わずもがな加水加温循環消毒なしの完全掛け流しです。40℃くらいの長湯仕様な湯加減であるため、湯浴み客はみなさん1時間の時間制限ギリギリまでひたすら浸かり続けていらっしゃいました。でも、たとえ40℃というぬるいお湯であっても、長湯していればかなり逆上せて、しばらくは体の芯に熱源を持ったかのように発汗しつづけますから、休憩室の扇風機が大いに役立つのであります。


 
今回入浴したのは混浴の「幕湯」のみでしたが、その隣の「男湯」も見学のみさせていただきました。ひたすら湯に浸かるための「幕湯」と異なり、こちらは実用的な入浴を目的としているだけあって、脱衣室は「幕湯」の倍近いスペースがあり、棚や籠の数もしっかり確保されています。



浴室は「幕湯」を一回り大きくしたような造りでして、浴槽の容量も1.5倍ほどあり、その湯船の真ん中からは「幕湯」のように竹筒が突き出ていて、そこからお湯が噴き上がっていました。実用性を高めているだけに風情は劣りますが、広い上に異性に対する姿勢を気にしなくて済むので、こちらの方がゆっくり寛げそうな気もします。
この「普通湯」は150円で入れますし、歴史ある「幕湯」ですら250円なんですから、その安さには驚きです。しかもお湯のクオリティも良好なんですから、温泉マニアであるか否かを問わずに皆さんからの評価が高いのは当然ですね。


アルカリ性単純温泉 39.5℃ pH9.4 205L/min(自然湧出) 蒸発残留物0.14g/kg
Na+:48.0mg, Ca++:2.5mg,
Cl-:13.6mg, HCO3-:52.7mg, CO3--:15.0mg,
メタケイ酸等の数値掲示なし

JR姫新線・中国勝山駅より真庭市コミュニティバス『まにわくん』の「蒜山・久世ルート」で「真賀温泉前」バス停下車すぐ(2013年4月改訂の時点で一日当たり下り7便・上り5便)
岡山県真庭市仲間  地図
0867-62-2953

7:00~22:00 無休
普通湯(男湯女湯)150円、幕湯250円、家族風呂1000円/3人まで(1200円/4人、1400円/5人)
備品類なし(石鹸・シャンプー類など販売あり)

私の好み:★★+0.5
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