鉄急須
おいらは百年も前に岩手南部で生まれたのだが
めぐりめぐってお茶好きのご隠居の家にいる
刀と同じ砂鉄をもとに鍛えられ
無口な職人に手作りされたのだ
色が黒いのは炭火で金気止めをされたから
透明漆で重ね塗りをする流儀も江戸の昔から
おいらを作った南部鉄職人の名は鉄瓶のテツ
夜更けの屋敷でシュンシュンと昔話が語られる
鉄急須で淹れた茶はまろやかだ
焼入れした伝統の技に水が応えるのだ
おいらは鉄瓶のテツとちがってお喋りだ
湯垢も茶渋も おいらの話に旨みを足してくれるのだ
ご隠居よ おいらのことを気に入ったかい
鉄瓶のテツ一世一代の銘品だぜ
武士の心の梅花を小鬢にあしらい
生き様を後の世に伝えようというのだ
やがて炭火が衰えるころ
火鉢のまわりに静寂が忍び寄る
そろそろご隠居に睡魔のお誘い
夢見の駕篭に乗ってゆうらゆら
朝の目覚めは催促なし
客なしアポなし当てもなし
手持ち無沙汰の鉄急須が大あくび
末期の水も おいらからの口移しかい
ご隠居ご隠居 脅かしはごめんだぜ
だあれも訪ねてこない屋敷の一角で
ふたり揃って体の芯まで冷えきっていくなんて
悪い冗談はごめん被りますよ、ほんとに・・・・
金属なのに少しも冷たい感じがしませんね。
茶褐色の鉄肌は人の肌に馴染むような温かみを覚えます。
ひとり暮らしの老人と鉄瓶の想いはぴたりあって、味わいのある日々だなあー。
これがアルミのやかんだったりしたら、こんないい感じにはなりませんね。
関係ないかもしれませんが、私と出会ったとき23歳だった女房は水沢の南部鉄器の会社の社長秘書をやっていましたっけ。
”ふたり揃って体の芯まで冷えきっていくなんて”
鉄瓶にまつわるお話、結構でした。
互いに若かった頃のお話を聞かせていただき、心がパッと明るくなりました。
それにしても、南部鉄器の会社にお勤めだったとは、不思議ですね。
鉄瓶は長く使われるものだけに、愛着と時間とが染み込んでいくものなのでしょう。
あらためて、使う人それぞれの思いが語られる楽しさにめぐりあった思いです。
コメントありがとうございました。
道具に寄せるこのような思いは、最近のトレンドにはないのでしょうが、仲人さんはきっと喜んでおられたと思います。
50年も前の懐かしいお話をお聞かせいただき、人生の味わいの深さを感じました。
詩の一節を取り上げていただき、大変嬉しく感謝申し上げます。
急須の造られる工程を
tadaoxさま独特の切り口に誘われて
骨董を集めてた頃の
小さな南部鉄の急須を思いだし
探してみましたが探しきれませんでした
南部鉄瓶で入れると
貧血がよくなると聞いて
確か母が妹のために買った鉄瓶もあったはずなのに
でもIHヒーターじゃダメですよね
ネットで探すと
IH用の南部鉄瓶も売ってましたが
やはり南部鉄瓶は囲炉裏や火鉢が雰囲気です
今の時代は
便利さだけを求めて
大切なものを置き忘れているような気になりました
『武士の心の梅花を小鬢にあしらい
生き様を後の世に伝えようというのだ』
探し物は
まさに鉄瓶のテツの生き様そのものなのですね!
探し物 また探してみます
いつもありがとうございます
鉄急須と鉄瓶、どこへ姿を隠したんでしょう?
なかなか使われる機会もなく、黒くて小さいものだから、決めっ子してモノの陰に隠れてしまったのでしょうか。
いろんなことを想像させてくれるところがいいですね。
囲炉裏も火鉢も少なくなって、飾って眺める骨董品になってしまいましたが、ときどきお湯を沸かして鉄瓶に気合を入れてやったほうがいいかもしれません。
ゆっくり探せば、きっと見つかりますよ。
いつも楽しいコメントをいただき、ありがとうございます。