恵みの山
「炉端話」
(山ねずみ)
大風が吹いて
栃の実がどっさり落ちた
おれたちは総出で採り入れだ
両手で持つと前が見えないから
尻尾でくるりと巻いてエッサエッサ
秘密の場所に運んで冬籠りの準備だ
ことしは豊作だから仲間も増える
熊のおやじと競争でエッサエッサ
(いわな)
川の上流では
水は刃物だ
岩を研ぎ
岩に研がれる
わたしはその下をすりぬける曲芸師
それでも大雨が降れば流されるので
兆しがあると小石を飲み込む
<雨を知らせる魚>
釣り人の言い伝え
(くま)
生き血を吸い
肝をくらう
おいらじゃない
狩人の仕業じゃ
去年の秋に山で遇ったとき
タバコをふかしてとぼけていた奴
きょうは塩まで用意して
おいらの生肉だって喰いかねない
(うど)
雪解けが始まる
一気に伸びる
短い夏の日差しをうけて
一日に二十センチ
あんまり忙しいので
知恵はまわりかねる
(山ねずみ・その後)
深山渓谷に沿った
日当たりのよい斜面
人参じゃがいも牛蒡
人間が植えやがった
でかくなるのを見計らって
おれたちが出かける
掘るなんて手間はいらない
てっぺんからガリガリ
逆さになってガリガリ
野草よりよっぽどうめえ
髭みたいなシッポだけ残して
あばよ
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ははー、表題の『どうぶつ番外物語』が始まったか、復活したかの一篇。
その視線はどこまでも優しく、うども加えた山中の秘めた物語が編まれてますね。
それに、音符が付いていないのに何やらメロディが伝わってくるような名文。
そこに物言わぬ動物たちへの愛情すら感じさせます。
上の画像も活きていて。
世の中がささくれだっているとき、こんな一篇を味わうのも、また良きかな。
この詩に音符をイメージしていただけたなんて、光栄です。
たまたま次の小説作品に童謡を取りいれたもので、ちょっとドキッとしました。