本屋恐るべし
<買いたい雑誌が収納ボックスの中>
友人の友人が『九州さが大衆文学賞』(大賞・笹沢左保賞)を受賞したというので、掲載誌の<小説NON>7月号を買いにいった。
ところが書棚をいくら探しても目当ての雑誌がない。
店員にも一緒に探してもらったが、やはりそれらしきものがない。
都内の結構大きな書店だから、もう売切れてしまったのかと不安になりながらパソコンで検索してもらった。
すると、記録では6月下旬に入荷しているという。
ぼくが書店に行ったのは7月1日だから、一週間弱経過していたと思う。
店員はひとり合点のいった表情で、書棚の下の引き戸を開けた。
そして何事もなかったかのように、梱包されたまま未開封の束を引きずり出した。
包装紙を取り除くと、茜色の<小説NОN>がピカッと光って躍り出た。
表紙の天に位置する部分に、白抜きで「梅雨の晴れ間の陽射し燦燦号」と銘打ってある。
「おお・・・・」
ぼくは思わず感動の声をもらして、雑誌を手に取った。
笹沢左保賞受賞作本誌独占掲載!
受賞者は<一本木凱>、作品名は『相続相撲』と縦書きで刻印されていた。
すでに友人からある程度の情報をもらっていたから、一本木凱氏の経歴は知っていた。
ほとんど毎日「the 1600」と名付けたブログ・コーナーで、4枚前後の掌編小説を発表している。
短いものとはいえ、それを書き続けるアイデアと筆力に、ただただ舌を巻いていたのである。
第16回『九州さが大衆文学賞』の<選考経過>や<選評>は雑誌にも一部載っているが、ウェブ検索をすればより詳しく分かる。
選者は森村誠一、夏樹静子、北方謙三の三氏で、大賞はすんなり『相続相撲』に決まったようだ。
作品はとにかく面白い。
錚々たる選考委員たちが高評価を与えたのだから、テッパンである。
ぜひ読んでもらいたい。
とりわけ森村誠一氏からは、今後短編作家として充分にやっていけるのではないかと、期待を寄せられている。
友人の友人の才能に、光が当たった瞬間である。
さて、<小説NОN>(祥伝社)が、天の岩戸を開けて躍り出てきた経緯は先に記したとおり。
では、書棚の下の収納スペースに仕舞われたまま日の目を見なかった本は、どれほどあるのだろうか。
噂には聞いていたが、梱包を解かれないまま返品される雑誌や書籍は相当数あるらしい。
版元と書店の間では、取次ぎ経由で日々こうした徒労というべき作業をを繰り返しているらしい。
(本屋恐るべし! 著者の嘆きが聴こえぬか?)
とりあえず書店を非難したが、取次ぎ、版元も含め長年の悪しき慣習で麻痺してしまったのだろうか。
再販制度の改革を叫ぶ声も、空しくこだまする。
しかし、一方で「本屋大賞」創設のヒットもある。
(本屋恐るべし・・・・)
本来の意味での驚きを、いつまでも保ってもらいたい。
出版不況、書店の撤退、何か暗示的だ。
新聞もテレビも斜陽の様相だし、本の持つ役割も変化したのだろうか。
ぼくらが夢中になって読んだ<古典>など、もう姿を見るのも難しくなってきた。
『シジフォスの神話』を実践することになった出版業界は、重いシーシュポスの岩を持ち上げながら、いま身をもって不条理の何たるかを味わっているにちがいない。
一本木凱氏の作品が、こうして劇的な登場を果たした経緯に強運を感じるのは、ぼくだけでないだろう。
マンガの世界に携わっていたとの経歴にも、心からの共感と祝意を表したい。
ブログ氏「ガモジン」(この名でブログ検索)さん、がんばって!
そして、あんまり無理しないで・・・・。
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いやー、ちょっと、できるだけ内証にしていたいのですが。
でも、ありがとうございました。
仕事に影響しはじめましたので、休み休みやります。
つい、梅雨の晴れ間にさそわれて。
失敬。また、お邪魔します。
本当に、私が幼いころをすごした環境と似ていますね。小さな村ですから、近所にそういう場所はありませんでしたが、そこそこに嫌われている一家、などはありました。
『四万十川』という小説が、ほぼそのままです。
ずいぶん前から、売れ筋でない単行本が包装も解かれず、そのまま書店から取次ぎ会社に戻されるという話はありましたが。
まさか雑誌までそんな目に合うものがでてきていたとは・・・何か悲哀を感じますね。
売れる売れない以前の問題です。
一本木凱さんの『相続相撲』という小説は私も読みましたが、一行目から最後の一行に至るまで間然するところのない文句なしに愉しめる作品でした。
今の時代こういう小説を書ける作家は貴重ですね。
それを読者が選択する機会さえ提供しないままにする書店とは何なんでしょう。
書店の人へ―はなからチャンスを奪わないで!
知恵熱おやじ