どうぶつ番外物語

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どうぶつ・ティータイム(173) 『劇画 J・F・ケネディ』 旭丘光志の名作劇画いま再び

2014-02-09 02:35:57 | 書評

 

     『劇画 J・F・ケネディ』(栄光と悲劇) 旭丘光志の名作劇画いま再び

           <不死鳥のように蘇えるケネディの魂>

 

 

    

 

  

 われわれは43歳の若さで第35代アメリカ合衆国大統領に就任したJ・Fケネディについて、どれほどのことを知っているだろうか。

 自分を例に挙げれば、主に三つの出来事によってしか、ケネディという人物を理解していなかった。

 即ち、キューバ危機回避、人類初の月面着陸アポロ計画の推進、そしてダラスでの暗殺という歴史的エポックによってのみ印象づけられ、その知識で事足れりとしていたのである。

 しかし、ぼくは今回この劇画に出会い、全編670ページを超える本編を読み終わって、これまで抱いていたケネディ像が覆されるのを感じた。

 そこには、ぼくの知らないJ・F・ケネディが存在し、アイルランド系移民としてアメリカに上陸したケネディ家の祖先の野望に遭遇した。

 

 まず注目すべきは、アメリカ大統領として最もドラマチックに生きたケネディ大統領の生涯を、綿密な取材と資料発掘によって雄勁に描き出そうとする本作の取り組み姿勢にある。

 ケネディの実像については多少意見の分かれるところもあるが、確固たる人物像を打ち立てようとする関係者の意欲が、終始一貫したテーマを導き出している。

 この作品は、1969年~1970年の約1年間「週刊少年マガジン」誌上に連載され、当時の少年たちに感動と勇気を与えた名作として記憶されている。

 その後、多くの読者の要望に応え、上下2巻の単行本として(一部省略の上)刊行され、その際も評判を呼んだ。

 今年はケネディの没後50年目に当たり、またケネディの長女キャロラインさんがアメリカ駐日大使として就任したこともあり、新たな画像と資料を加えて再編纂したのが標記の大作劇画である。

 (これはコミックのレベルではない。ケネディの魂の記録、アメリカという国のヒストリーそのものではないか)

 心底惚れさせる巧みな構成が用意されている。

 それもそのはず、原作者の木本正次氏は、毎日新聞の記者から「黒部の太陽」に代表されるノンフィクション作家に転身した本格派。

 一方、当時の劇画界で縦横無尽の活躍をしていた旭丘光志氏が作画を担当しているのだから、その迫力は尋常ではない。

 <なお、当ブログのアーカイブ「エッセイ・カテゴリー」を見ていただくと、(朝ドラ『ゲゲゲの女房』に見る人間賛歌)<2010年5月>の中で、売れっ子作家の一人として旭丘氏の名を挙げている>

 現在、医療関係のノンフィクション作家として抜群の信頼を集めている旭丘光志氏が、今回の『劇画J・F・ケネディ』(栄光と悲劇)の発刊で再度脚光を浴びることはファンの一人として歓びに堪えない。

 

 さて、ここで本編の見所をいくつか挙げておく。

 まず、その一つとして、魚雷艇PT109の艇長であったケネディ中尉が、第二次大戦下のブラケット海峡で日本の駆逐艦『天霧』と至近距離で遭遇し、魚雷を発射する暇もなく突っ込まれて真っ二つにされた場面が鮮烈である。

 洋上に投げ出された乗組員十数名は、2名の仲間を失ったものの6日間生死の境をさまよった末に、7日目にやっとアメリカ軍のレンドバ島基地に生還できた。

 幸運の一つは、ケネディら魚雷艇の乗組員が波間に浮上した時、『天霧』の花見艦長が機銃掃射を思い止まらせたことだ。

「やめろっ、溺れる者にまでトドメを刺すな。海の男の掟だ!」

 あくまでもケネディ艇長が見たと信じる光景だが、共に自国の最善を尽くして戦った兵士同士だから通じる人間性に満ち溢れたエピソードである。

 作品の中では、この時の経験を基にケネディの戦争に対する考え方が変わったとしている。

 武器による戦いに善も悪もない。この世の中から、なんとしても戦争をなくさねばならない。

 その理想実現のために、ケネディは下院議員から上院議員を経て大統領候補にまで駆け上っていくのだが、学生時代にフットボールで痛めた背中の古傷とマラリア治療で機能低下した副腎疾患により、死の淵をさまようことになる。

 それでも困難に出会うたびに克服し、新たな目標に向かって勇気ある挑戦をしていくケネディのスピリットは、多くの人に感動を与える。

「現在日本が直面している将来展望の無さ、若者の間に広がる無力感に立ち向かえるのは、ケネディのような不屈の闘志しかない」と、横目に見ながら羨むばかりである。

 さらに特定秘密保護法が十分な審議も経ずに成立した日本の現状に対し、国立公文書館で一定の制約のもと歴史上の真実が担保されるアメリカの透明度に、ケネディをも衝き動かした理想主義の影を見る思いだ。

 日本とケネディの接点は、キャロラインさんの駐日大使就任までなかったものと思っていたが、実は前述のとおり早々と第二次大戦の戦場で生じていたのである。

 ちなみにケネディ大統領就任の際、駆逐艦『天霧』の艦長花見弘平ら乗組員から祝辞が寄せられたという。

 立場の違いを超えて、謝罪と友好の気持ちが伝えられていたのであろう。

 

 二つ目に取り上げたいのは、キューバ危機に至る前段階として、CIAのダレス長官らの度重なる進言によって、ケネディ大統領がキューバ亡命軍による内戦にGOサインを出した経緯である。

「アメリカとしては、海軍も空軍もこの作戦にいっさい参加させない」と、極力戦争を避けようとする大統領に対し、取り巻きたちは「B26で、キューバの空軍基地を先制攻撃すれば勝てる」と唆すように意見を揃える。

 B26という爆撃機はすでに旧型と化しており、産軍複合体のトップにある者たちは、それらを消費させることによって莫大な利益を手中にすることができた。

「どの国にも払い下げられている飛行機だから、キューバ亡命軍が使用してもアメリカが介入したとは誰も思わない」

 甘言に乗せられて作戦を了承したものの、結果はカストロらの率いる革命軍に完膚なきまで叩きのめされる。

 産軍複合体の罠にハマったことに気づいたケネディ大統領は、それ以降重大な局面では必ず自分で決断し、アメリカのみならず世界の情勢に対して身を押しつぶすほどの責任を引き受けたのである。

 

 三つ目は、随所に挿入されるケネディ一族の野望についてである。

 アイルランドからの移民船に乗ってアメリカに降り立ったJ・F・ケネディの曽祖父は、あらゆる手段を使って金儲けに徹し、その金を使って子供や孫を自らの野望に組み込んでいった。

 (いづれ一族からアメリカ大統領を出す。そのためには全財産を使い切っても惜しくない) 

 その考えは代々受け継がれ、やがてケネディの父は駐英アメリカ大使に任命された。

 当初政治に全く興味を示さなかったJ・F・ケネディは、父から譲られた100万ドルの資金を使って各国の情勢を見聞するため世界一周の旅を敢行する。

 時あたかもヒットラー率いるドイツの台頭著しく、一方ソ連による共産主義の脅威が差し迫っていた。

 初めどの国にも与しない態度を取っていたアメリカだったが、ルーズベルト大統領が進めるニューディール政策の弱点が浮かび上がってくる。

 仲のよかった長兄は海軍に入隊し、後に従軍中の飛行機墜落事故によって死亡する。

 弟であるJ・F・ケネディも正義感の赴くまま海軍に志願し入隊する。

 以降の展開は、先に取り上げたとおりである。

 

 670ページを超える長編劇画を紹介するには、まだまだ言葉が足りない。

 しかし、これ以上の関わりは、作品を手に取ってみようとする読者には迷惑かも知れない。

 自らの感性で、劇画ならではの臨場感を味わってもらいたい。

 稲妻のように46歳の生涯を駆け抜けたJ・F・ケネディは、その高い理念・理想と様々なタブーに挑戦し続けた勇気によって、人類の希望そのものになった。

 しかも、彼が生きた時代は、再び形を変えて我々の目の前に突きつけられている。

 <J・F・ケネディだったら、いま日本に差し迫る課題にどう応えるか>

 この大作劇画は、2月1日から全国の書店及びコンビニエンスストア店頭でも発売されている。

 挿入画像にも示されているように、定価648円+税で購入できる。

 興味を持たれた方は、ぜひ一読して当欄に感想を投稿していただきたい。

 日本各地で大雪・大荒れの夜、波瀾に満ちたケネディの生涯を紹介できるめぐり合わせに、背筋を正す思いである。

 

     (おわり)

 

 

 

 

 

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2 コメント

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ありがとうございます! (旭丘光志)
2014-02-09 20:07:05
劇画『J・F・ケネディ』について身に余る紹介記事を書いていただきありがとうございます。

詩人の鍛え抜かれた言葉でこのように書かれてみると、何か自分のことではないような面映い気持ちになります。ちょっと恥ずかしいような・・・でもとても嬉しく。

1969~1970年にかけて作家の木本正次氏と思考錯誤を繰り返しながら取り組んだ1年間を思い返すと、夢のようです。
あのときの自分をもう一度思い出し、滾らせなければ。
よろしく叱咤のほどを。
返信する
無我夢中の時期が伝わってきます (窪庭忠男)
2014-02-10 21:08:00
過酷な運命を背負って生を受けたJ・F・ケネディの生涯を、「劇画ならではの臨場感」を以て描き出した名作と心の中で繰り返しています。

同時にアメリカという国が歩んできた正義と過ちの過去を、ケネディ一族の三代に亘る物語として僕たちの目の前に広げていただきました。

感謝するのは僕の方・・・・。これからもよろしくご教示ください。
返信する

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