千日紅
(城跡ほっつき歩記)より
母が飛んだ
夕暮れの空へ飛んだ
団地の花壇には苺のような千日紅
ついばむ鳥が嘴から突っ込んだ
娘は電気もつけずに泣いた
頼りの父は半年前にツガイの相手を変えた
今どこのねぐらに籠っているのやら
見捨てた団地の窓をテレビは写すだろうか
娘は泣き疲れたまま眠り込んだ
目ざめると闇のなかで囁く声がした
おまえは一人ぼっちになった
もう世の中とつながる手立てを失った
学校を追われ友だちも遠ざかる
3DKの部屋もやがて明け渡しを迫られる
おまえの約束の地は寒ざむとした施設
それが嫌なら男が提供する一夜の宿めぐり
青むらさきの朝が明けていく
娘は体をぶるぶるっと震わせた
一人ぼっちだというのなら独りでいい
世の中とつながれないなら繋がらなくていい
娘は代わりに言葉を友だちにした
街をさまよい吐き捨てた恨みが跳ね返るとき
それでも言葉はやさしく音色を奏でる
母が啄んだ千日紅の滴りさえ受けとめて
夜よ二度と来るな
強そうに見えても闇の重みは心を押しつぶす
朝も再びめぐってこなくていい
ことばが夢の中で逃げまどうのなら・・・・
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます