伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

風力発電が世界を救う

2013-01-02 01:23:59 | 自然科学・工学系
 風力発電が世界では主要電源の一翼となってきている現状を紹介し、日本での拡大のネックと方策を論じる本。
 日本では原発推進派と官僚から原発ゼロは非現実的という結論を導く思惑で過小評価されている風力発電だが、世界では2011年末現在の設備容量は2億5000万kWを超え、世界の原発の設備容量の半分を超えていること、2009年と2010年には世界で約4000万kW(原発40基分)の風力発電が新設され、世界の風力発電は2010年まで10年間年率20%以上の伸びを続けていること(20ページ)がまず紹介され、アメリカでのコスト比較では風況のよい場所を選べば従来型の石炭火力や水力よりも低コストになり現在でも既にコスト面で優等生であること(26ページ)など、ふだん目にすることのない情報が書かれています。
 日本は特に東北地方と北海道に風力発電のポテンシャルが高く、東北地方と北海道の陸地、さらには洋上風力発電まで考えれば能力的には原発ゼロも十分視野に入るが、送電線網が能力不足で特にポテンシャルの高い北海道と本州を結ぶ送電線の能力が足りず、電力会社管轄地域間を結ぶ送電線網も能力不足であること、風力発電の設置に関して省庁縦割りの規制の障害が多々あること(150ページの一覧表とか見るとため息が出ます)などがネックになっていることが指摘されています。
 もちろん、風力発電の不安定性や、風力発電でも問題となる騒音問題等も論じられていますが、こうしてみると、世界では風力発電が伸びているのに日本では伸びが非常に遅いのは、ソフトエネルギーの性質上の問題ではなく電力会社と官僚が風力発電にシフトしたくない(端的に原発を維持したい)から風力発電等のソフトエネルギーには予算を回さず(原発にはジャブジャブと資金を注ぎ込んでいるのに)ソフトエネルギー拡大の障害を除去せずにいることが最大の原因だと感じられます。
 著者が「はじめに」で、「わが国には、自分たちの力では未来を変えることができないという無力感がある。講演の折りにも、『将来はどうなるんですか?』という質問が多い。これに対し、私は『あなたはどうしたいんですか』と逆に問い返している。未来は予測するものではなく創りだすものなのだ。」(6ページ)と述べていることが印象的です。そして、こういう本を日本経済新聞出版社が出していることも。著者が風力発電の研究開発に携わっていることから、ある程度の我田引水というかバイアスはあるでしょうけれども、風力発電が現実的で経済性のあるまさに事業として成り立つものだということを改めて実感させてくれる本だと思います。


牛山泉 日本経済新聞出版社 2012年11月8日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする