伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

比較法ハンドブック [第2版]

2016-01-01 17:08:59 | 人文・社会科学系
 諸外国の法律を比較検討する「比較法」の学問としての歴史や目的、方法論等を論じた本。
 よかれ悪しかれ、いかにも学者さんが書いた本で、「比較法学」というべき、学問としての歴史とあり方のような部分に多くのページ数が割かれてここに力が入り、また他の学問領域との関係で比較法学者の利害というか、比較法にもっと注目が集まり研究と学生が集まることへの渇望が語られています。
 法律実務家として、比較法への興味は、主として現行法が不変の、また唯一の存在ではないことを常に意識できるよう視野を広げること、現行法で解決できない、あるいは現行法による解決が不適切な場合の解決のアイディアを探る際の助けになること(解決方法の貯蔵庫:98ページ)にあります。立法段階では、さらにどのような立法例があり、それが実社会でどのように機能しているかという先例として重要な参考資料となります。そういった観点からの興味は、もっぱら現実に存在する諸外国の法律(条文)とその運用(裁判例等)に向けられるのですが、そういった実例が出てくるのは、本文で356ページのこの本の165ページから(事情変更の原則関係)で、一般人が、あるいは法律実務家が「比較法」の本と聞いて想定する/期待する内容は185ページから、実質的には209ページからになっています。多くの読者が、最初の1割、かなり頑張っても最初の3割までで、読み続けるかどうかを判断する昨今において、この構成は…
 実務を重視し、具体的ケース(裁判例)を重んじる英米法に対して、ローマ法をほぼ無条件に継受して抽象化一般化した成文法を制定し、理論を重んじる大陸法(フランス法、ドイツ法)から民法を初めとする私法体系を受け継いできた日本ですが、ドイツでも民法総則という抽象化の極みというべき部分はその後放棄され、ドイツ民法典後に大陸法諸国で立法された民法(スイス民法典、イタリア民法典)では民法総則はないのだそうです(217~218ページ)。そうすると、日本の民法は、ヨーロッパの「大陸法」系諸国に比べても抽象性、概念性が強いものということですね。
 そういう知識がどこで使えるかは、すぐにはわかりませんが(多くの場合、単なる衒学趣味的興味に終わるでしょうけど)、仕事がら肥やしにしておきたいところです。


五十嵐清 勁草書房 2015年1月20日発行(初版は2010年12月)
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