伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

クリムト作品集

2016-01-11 00:17:14 | 人文・社会科学系
 19世紀末から20世紀初頭のウィーンで活躍した画家、現在は美術史上最高価格で売却された絵画「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」の作者として知られるグスタフ・クリムトの画集。
 学生の頃から画集は度々見ていたのですが、画家のプロフィールはほとんど記憶になかったので、今回経歴部分を読み、芸術家の大パトロンハプスブルク家のお膝元のウィーンには19世紀末にクリムトらが画壇にデビューした頃「オーストリア美術」と呼ぶべきものさえなかったこと、それで師匠もなく体制派でもなかったクリムトの作品を行政が買い上げたり美術史美術館やウィーン大学の装飾画が依頼されたという経緯、多くのパトロンを得て肖像画を売って財をなし、裸婦のモデルがいつも出入りし遺産相続をめぐり少なくとも14人の婚外子が名乗りを上げたという私生活などを知りました。
 クリムトは19世紀末ウィーンの画家と紹介されることが多いように思えますが、主要な作品は20世紀になって描かれています。むしろ、19世紀の1890年代前半までの作品とその後の作品はかなり趣きも絵筆のタッチも違う印象です。経歴を読むと、1892年までは弟エルンストらと「芸術家カンパニー」として活動していたということで、言ってみればクリムト個人ではなく「工房」として描いていたようです。そうするとルーベンスの絵(とされているもの)のように、実際は工房の名もない画家の手になる部分が多いのかも知れません。ブルク劇場や美術史美術館の装飾画など精細で写実的な絵は後年のクリムトとはかなり違う趣です。もっとも1894年の作とされる「ローテンブルクでの芸人の即興劇」も写真のような作品ですから、ブルク劇場や美術史美術館の装飾画もクリムト自身が描いたけれども、こんなに緻密に描いていたらたくさん描けないから営業的見地からタッチを変えたというのが真相かも知れません。
 制作の時期と分野と作風の変化と経歴を併せ読むことで、一人の画家としての生き方に思いを馳せました。


千足伸行 東京美術 2013年10月10日発行
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