伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

スラップ訴訟 法的論点と対策

2024-04-08 21:24:07 | 実用書・ビジネス書
 企業や政治家などが市民の反対運動やその過程での発言に対して報復的な動機により高額の損害賠償請求等の訴訟を起こして市民の活動を萎縮させるスラップ訴訟について、これを抑止し効果的に反撃できる対策を望むとして、アメリカでの判例やスラップ被害防止法の制定状況を紹介し、日本での対策のあり方を論じた本。
 アメリカでは公的人物/公的事項に関する名誉毀損は、表現/報道が虚偽であることを知っており、あるいは虚偽であることを無謀にも無視してなされたということを原告(公務員等)側で立証できなければ成立しないという「現実の悪意」の法理が判例上確立しており、相当数の州でスラップ被害防止法が制定され原告側で原告勝訴の蓋然性を立証できなければ特別の訴え却下申立が認められ訴訟が早期却下され、しかも原告に対し被告側の弁護士費用等を支払わせる等の制裁がなされることが紹介されています。これらのアメリカの判例の流れや法律は大変勉強になりました(アメリカの判決の紹介で訳がこなれていないのか、今ひとつわかりにくいというか理解しにくいところも感じましたが)。
 他方で、日本では判例の傾向が大きく異なり、スラップ被害に理解を示す下級審裁判例も見られるものの主流は名誉毀損の不成立や不当訴訟の成立(原告の訴え提起が不法行為であるとして原告が被告に損害賠償を支払うべきとすること)を容易に認めないことも紹介されています。
 そういった日本の裁判所の傾向を踏まえてということではありますが、著者の姿勢は、効果的なスラップ対策を望むとしながらも、「現実の悪意」法理の日本での導入は難しい、公的人物に限定して導入を議論すべきとか、立法解決を望むとしつつも立法の必要性とその適用対象の範囲について十分な立法事実の検討が必要(337ページ)とするなど慎重な言い回しです。現実的対応を心がけているということなのでしょうけれども、読み物としてはちょっとスッキリしないものが残ります。

 
吉野夏己 日本法令 2024年1月1日発行

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