民事訴訟のIT化(訴え提起等のIT化:e提出、期日等のIT化:e法廷、事件記録に関するIT化:e事件管理等)に関する民事訴訟法の2022年改正、民事訴訟以外の民事執行、民事保全、倒産手続、労働審判等のIT化に関する2023年改正について解説した本。
裁判手続等のIT化検討会座長、その後の法制審議会の部会長として民事訴訟のIT化を推進してきた著者(議論が始まった2017年当時は携帯電話等も使っていないIT弱者だったと自ら語っています:はしがき)の本ですが、その旗振り役の著者の目から見て民事訴訟のIT化は、個々の制度の問題点に係る改善を積み上げていって最終的な改正案が形成されていく通常の民事基本法の改正とは異なり、一種のトップダウンとして最終目標がまず設定されそれに向けて改正案が構築されていくという経過をとったように思われるとされています(13ページ)。端的にいえば、現状で誰かが困っているということからではなく、例えば諸外国より遅れていると評価されることが沽券に関わるというような動機からか、とにかくIT化するという結論ありきで進められてきた話のように感じます。
IT化のニーズがあることは明らかだ(サイレントマジョリティなんだそうです:4ページ。安保闘争で群衆に国会を包囲されたときの岸首相みたいな言い草ですね)というのですが、例えば事件記録のIT化(基本的に2025年施行予定)は現状と比較して情報漏洩のリスクを高めます。営業秘密とDV被害者等の個人情報秘匿の場合はその部分は改正法施行後も電子化せずに紙で扱うこととされています。立法者は現在の紙による取扱の方が情報漏洩防止上有利であるとはっきり意識しているのです。国民がIT化を求めているという人は、そういう事情が十分に説明された上で人々がIT化を支持しているというのでしょうか。
私は、民事訴訟のIT化についてあまり好ましく思っていないので、辛辣な物言いをしますが、現実にはIT化は否応なく進められますので、一定の対応をせざるを得ません。そういう動機で読みましたが、改正の内容がひととおり説明されているので、食わず嫌いしていてよくわかっていなかった私には勉強になりました。しかし、実務家向けには、より正確な条文というか要件と、それぞれの改正の経過措置についても書いておいて欲しかったなと思います。そういうことを考えると弁護士向けより一般読者向けなのかなと思いますが、一般読者が読み通すのはまた辛いだろうなと思います。
山本和彦 弘文堂 2023年7月30日発行
裁判手続等のIT化検討会座長、その後の法制審議会の部会長として民事訴訟のIT化を推進してきた著者(議論が始まった2017年当時は携帯電話等も使っていないIT弱者だったと自ら語っています:はしがき)の本ですが、その旗振り役の著者の目から見て民事訴訟のIT化は、個々の制度の問題点に係る改善を積み上げていって最終的な改正案が形成されていく通常の民事基本法の改正とは異なり、一種のトップダウンとして最終目標がまず設定されそれに向けて改正案が構築されていくという経過をとったように思われるとされています(13ページ)。端的にいえば、現状で誰かが困っているということからではなく、例えば諸外国より遅れていると評価されることが沽券に関わるというような動機からか、とにかくIT化するという結論ありきで進められてきた話のように感じます。
IT化のニーズがあることは明らかだ(サイレントマジョリティなんだそうです:4ページ。安保闘争で群衆に国会を包囲されたときの岸首相みたいな言い草ですね)というのですが、例えば事件記録のIT化(基本的に2025年施行予定)は現状と比較して情報漏洩のリスクを高めます。営業秘密とDV被害者等の個人情報秘匿の場合はその部分は改正法施行後も電子化せずに紙で扱うこととされています。立法者は現在の紙による取扱の方が情報漏洩防止上有利であるとはっきり意識しているのです。国民がIT化を求めているという人は、そういう事情が十分に説明された上で人々がIT化を支持しているというのでしょうか。
私は、民事訴訟のIT化についてあまり好ましく思っていないので、辛辣な物言いをしますが、現実にはIT化は否応なく進められますので、一定の対応をせざるを得ません。そういう動機で読みましたが、改正の内容がひととおり説明されているので、食わず嫌いしていてよくわかっていなかった私には勉強になりました。しかし、実務家向けには、より正確な条文というか要件と、それぞれの改正の経過措置についても書いておいて欲しかったなと思います。そういうことを考えると弁護士向けより一般読者向けなのかなと思いますが、一般読者が読み通すのはまた辛いだろうなと思います。
山本和彦 弘文堂 2023年7月30日発行
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