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伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

きらきらひかる

2024-03-19 23:50:32 | 小説
 アルコール依存症で他にもメンタルに疾患を抱え内職程度にイタリア語の翻訳をしている家事の苦手な笑子と、同性愛者で掃除好きの内科勤務医睦月の新婚夫婦と、睦月の恋人の学生紺の関係の推移、親たちからのプレッシャーなどを描いた恋愛小説。
 ささいなことで気分が浮き沈みし情緒不安定で号泣する笑子と、それに苛立つことも怒ることもなくむしろ自分が笑子を追い込んでしまっていると反省し包み込むように接する睦月の関係は、どこか女性側に都合のよさそうな幻想を感じますが、睦月が紺と肉体関係を続けながら笑子は昔の恋人を思い出したり会ってもなびかず、むしろ思い出させたり会うように仕向けた睦月に抗議するというあたりでその辺のバランスが取られているような気がします。
 酒に溺れ当たり散らしながら笑子が心情的には睦月を思い続けるところで、夫婦間のプラトニックラブが描かれるという希有の作品となり得ていると感じました。


江國香織 新潮文庫 1994年6月1日発行(単行本は1991年5月)
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サクラサイト被害救済の実務 〔第2版〕

2024-03-18 23:25:57 | 実用書・ビジネス書
 インターネット上の出会い系サイトなどサイト内でのメッセージ交換等に利用料やポイント購入が必要なしくみのサイトで、異性を装ったり儲け話を持ちかけて繰り返しメッセージを送らせるなどすることによって利用料・ポイント購入費等を騙し取るサイトの被害救済の方法と実情を説明した本。
 サクラサイト被害に特化した部分よりもまず、業者が被害者からの支払を受ける決済手段のしくみの解説に、オジさん弁護士としては、驚きます。もう次々と新たな決済手段が出てきて、ついて行けません。でもそこをまず理解しないと被害救済ができないわけですね。詐欺業者自体は正体を明かさなかったり、明かしていてもすぐに逃げるし…
 ところが、後半の裁判例紹介では、詐欺業者に対する勝訴判決は重ねられていても、決済代行業者、電子マネー業者に対する裁判では敗訴事例が累々と積み重ねられ、勝訴事例は少数(116~125ページ)。第2版が出るほどに歴史があっても、なお道は厳しいか。


サクラサイト被害全国連絡協議会編 民事法研究会 2024年1月22日発行(初版は2017年11月)


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相続調停

2024-03-17 21:08:36 | 実用書・ビジネス書
 遺産分割を中心とする相続関係の調停の際によく問題となるような当事者の主張を取り上げて家庭裁判所の実務での取扱を説明した本。
 調停の運用を中心にしているので、理屈はこうで当事者がそこを(理屈に従って)主張すると調停では扱えなくなり地裁で裁判で決着してから来てねとか長引くけれども、当事者がこだわらずに柔軟にやれば調停内で解決できるとかいう説明も多く、弁護士としてもそこは悩ましいんだけどねと思いながら読むところもわりとありました。
 遺産分割の調停で問題となることの多くがコンパクトに理解でき、実際の調停の進行がイメージできていい本だと思います。後半になるとふつうの解説書っぽくなっていきますが、そちらでも家裁の調査官の仕事の説明を興味深く読めました。


松原正明、常岡史子編著 弘文堂 2023年12月30日発行
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クリスティーヌ

2024-03-13 23:01:55 | 小説
 シングルマザーの下で育った13歳のクリスティーヌが、母がクリスティーヌの認知を求めた際にやってきた欧州評議会の翻訳部統括を務める父ピエール・アンゴから性的な行為を求められ、困惑しながらそれに従い、精神的に不安定になり、父と離れたり会って関係を続けたり、他の男と関係を持ったり結婚したり別居したりしながら自らの経験を書く作家となった35歳までとその後を描く小説。
 近親姦あるいは性的虐待が子どもに与える被害の深刻さ・重大さ、そしてそれがシンプルなものではなく被害者の置かれる境遇と心理の複雑な様子を描こうとしているのはわかりますし、実際そうなのだろうと思います。
 しかし、近親姦の経験から男性を受け入れられなくなったというのはわかりますが、夫との性行為は緊張してできない一方で、行きずりの男を誘い込んであっさりセックスし、誰とでもすぐセックスするような日常と夫の元に戻るときを繰り返すクリスティーヌを、また父に対しても拒絶して長らく会わなくなったと思ったら自分から会いに行ってまた肉体関係を持つというクリスティーヌを、父の性的虐待の被害者だからとまるごと受け止めるのは、なかなか難しい気がします。
 作者が最終盤で経験してみないとわからない、世間の人は近親姦被害者を理解しないと声高に言う姿と合わせて、読者をどこまで付いてこれるかと挑発する作品のように思えます。そこまでしたくなる心情を持つに至る経験と経緯に哀しみは感じますが、同時に付き合いきれなさも感じてしまいます。


原題:Le Voyage dans l'Est
クリスティーヌ・アンゴ 訳:西村亜子
アストラハウス 2024年2月9日発行(原書は2021年)
メディシス賞受賞作
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体のトリセツ あなたの不調をナースがやさしく解説

2024-03-09 23:45:23 | 実用書・ビジネス書
 心身の不調や病気について看護師が説明した本。
 コロナ禍の影響などで体調が悪いのにすぐに病院に行けないときに症状の原因や病院ではどう対応してくれるか、気をつけるべきことは何かなどを知り安心してもらうことを目的として出版された(はじめに:2ページ)ということでさまざまなことがらについて、1つのクエスチョンに2~8ページで説明されています。最初の方では心身の不調についてこういう症状はというものもありますが、後半に行くほど病名別の説明になっています。この本の目的やサブタイトルからは、もっと症状の方からの説明を増やして欲しいと思いました。
 私自身、風邪をひいた後、咳がずっと治まらないということが何度かあり、年をとると風邪がなかなか治らないのだなと思っていたのですが、風邪の症状が治まっても咳だけが8週間以上続いている場合は咳喘息という別の病気の可能性がある(19ページ)と書かれていて、そうなのかと思いました。別のところでは高齢の方で2週間以上咳が続く場合は結核を疑うことがある(98ページ)とも書かれていますが。
 タバコについては厳しい一方、飲酒については薬にもなるという立場を保っています(14~15ページ、159ページ)。今どきの本としては、それでいいのか少し疑問に思いますけど。


執筆者代表:渡邉眞理 法研 2024年1月28日発行
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剱の守人 富山県警察山岳警備隊

2024-03-08 21:28:55 | ノンフィクション
 剱・立山エリアを中心に山岳救助に取り組む富山県警察山岳警備隊に同行取材して、訓練、パトロール、救助の実情、歴史や装備、隊員やサポートする人々の様子などを綴ったノンフィクション。
 人の命がかかった仕事で、それ故に時期を問わず緊急出動を余儀なくされる、その仕事自体が足場の悪さ、雪や霧などの厳しい環境の下で、谷底に落ちたり滑落した人を救い出し負傷者などを背負ったりして山小屋などまで運び送り届けるという危険があり体力を消耗するものなのですから、ただただ頭が下がります。救助要請があった場合だけでなく、登山者の様子を把握して遭難していないかを気にして積極的に確認作業をしている(もちろん、いつもしているわけではないでしょうけど)ことまで書かれていて驚きました。
 2021年10月末に立山に行き、登山はまったくしませんでしたが、室堂の賑わいや雪深さ、霧などは体感しました。そのときは存在も気づきませんでしたが、室堂警備派出所などにここで書かれている人たちが詰めていて活動していたのだなぁと感慨深く思いました。


小林千穂 山と渓谷社 2024年1月10日発行
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おいしいコーヒーのいれ方 Second SeasonⅠ~Ⅸ、アナザーストーリー

2024-03-04 23:26:37 | 小説
 おいしいコーヒーのいれ方Ⅹに続く2年間の和泉勝利と花村かれんと周囲の者たちの関係、できごと、思いを綴る本編Ⅰ~Ⅸと、後半のターニングポイントになるいくつかのエピソードを別の語り手が語ったり、その後の若干を描くアナザーストーリーからなる読み物。
 ⅠとⅡは、おいしいコーヒーのいれ方Ⅹのそのまま続きで2人の幸せな甘い日々が描かれ、たぶん、読者にも一番幸せな読み物となっているでしょう。しかし、それはある種読者の欲望・幻想に奉仕しているだけで、このままでは小説に、あるいは Second Season にもならないと作者が感じたのでしょう。ⅢとⅣで勝利の大家の森下家の事情に軸足を移し、さらにⅤから大きな展開を加えて話を揺すぶっていきます。昨日は今日の続きではない/続きとは限らない、人生には何が起こるかわからないということを、作者が作品に投げ込んできたもので、あとから一気読みしている私には東日本大震災で世の無常と無情を痛感したことの反映かとも思えたのですが、作者が事件を書き始めたのはその前年で、その時点で何か思うところがあったのでしょう。しかし、大きく展開させすぎてどう収拾を付けていいかが見えなくなったのか、作者がラス前のⅧを書いたあと最終巻のⅨまで実に7年もの年月を要しています。作者の構想の大きさあるいは試行錯誤の大胆さとともに、主人公の恋の行方を決着させてしまったあとに恋愛小説を書き続けることの難しさが感じられます。


村山由佳 集英社文庫
Ⅰ 蜂蜜色の瞳 2009年6月30日発行(新書版は2007年5月)
Ⅱ 明日の約束 2010年6月30日発行(新書版は2008年5月)
Ⅲ 消せない告白 2011年6月30日発行(新書版は2009年5月)
Ⅳ 凍える月 2011年6月30日発行(新書版は2010年5月)
Ⅴ 雲の果て 2012年6月30日発行(新書版は2011年6月)
Ⅵ 彼方の声 2012年6月30日発行(新書版は2011年12月)
Ⅶ 記憶の海 2013年6月30日発行(新書版は2012年6月)
Ⅷ 地図のない旅 2014年6月30日発行(新書版は2013年6月)
Ⅸ ありふれた祈り 2020年6月25日発行(新書版も同時)
アナザーストーリー てのひらの未来 2022年5月25日発行
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おいしいコーヒーのいれ方 Ⅰ~Ⅹ

2024-03-02 22:10:05 | 小説
 小2の時母に死に別れて父親と2人暮らしで家事全般をこなしてきた陸上部長の高校生和泉勝利が、高3のはじめから2年間、父親の九州転勤と叔母夫婦のロンドン転勤が重なり、大学を卒業して美術教師となる従姉かれんと中2になる従弟丈と3人で暮らすこととなり、長らく会ってなかったかれんの変貌を見て恋に落ち…その後の3年半、勝利が大学3年の夏までを描いた青春恋愛小説。
 前半は…子どもが3人で一緒に暮らす設定、恋愛小説ながら早々に勝負は決まるというか、ヒロインの思いが明示され、ヒロインが「誰と」結ばれるかより紆余曲折を経て「どのように」結ばれるかに関心が集まるというあたり、私はあだち充の「タッチ」をイメージしてしまいました(ついでに言えば、強面のキャラの名前が「原田」とか…)。まぁ、早々にかれんの思いが明示されるのは、もともと連載ではなく単発の短編として書かれたためということですが(シリーズタイトルも、第1話にしか関連しませんし)。
 当初「少年ジャンプ」増刊の「ジャンプノベル」に掲載・連載された作品ということもあり、主人公が高校生で、相手が5歳年上の女性でありながら、初心で純情で(23歳でキスの経験もない!)主人公が守ってあげたいと思い現実の行動でも庇護対象であり、主人公の方が主導的に振る舞うという、いかにも「少年ジャンプ」読者層の願望というか妄想に奉仕した設定になっています。主人公が年上の女に翻弄されそのしたたかさにほぞを噛むという場面がないというのは、私にはむしろ不自然に思えますが、そういう展開は読みたくないという読者のニーズを考慮したのでしょう。
 勝利が料理を始め家事全般を遂行することや、かれんの気持ちを大切にするよう、自らの嫉妬心や欲望を抑え込む(それに失敗して自ら悔やむ)叙述が多いことは、読者側の妄想を放置・増長させるだけではまずいと考えた作者の読者青少年への姉貴的な立場からの指導・要請なのかなと思いました。
 勝利(かつとし)のことを「ショーリ」と呼ぶのはただ1人かれんだけという設定です。しかし、運動部所属の高校生が勝利という名前だったら、ほぼ間違いなく友人たちからは「しょうり」と呼ばれると思うのですが。
 ずいぶんと久しぶりに、自分自身が高校生のときの同い年だけど自分より大人びた同級生との、19歳のときの年上の女性との、どちらも数か月だったけど、ときめきわくわくしじりじりしヒリヒリした日々を思い出しました。


村山由佳 集英社文庫
Ⅰ キスまでの距離 1999年6月25日発行(新書版は1994年9月)
Ⅱ 僕らの夏 2000年6月25日発行(新書版は1996年7月)
Ⅲ 彼女の朝 2001年6月25日発行(新書版は1997年10月)
Ⅳ 雪の降る音 2002年11月25日発行(新書版は1999年4月)
Ⅴ 緑の午後 2003年6月25日発行(新書版は2000年12月)
Ⅵ 遠い背中 2004年6月25日発行(新書版は2002年3月)
Ⅶ 坂の途中 2005年6月25日発行(新書版は2003年5月)
Ⅷ 優しい秘密 2006年6月30日発行(新書版は2004年5月)
Ⅸ 聞きたい言葉 2007年6月30日発行(新書版は2005年5月)
Ⅹ 夢のあとさき 2008年6月30日発行(新書版は2006年5月)
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