朝にUPした落語、原稿は30分ほどで書きなぐったものでしたが、どうせなら完成させてみようかと、途中を膨らませてまとめてみました。
よろしかったら読んでみてください。
『すまぶれ』
―おいおい!こらやめないか!
寄ってたかって小さな子をいじめんじゃねえ。あっち行け!
坊、大丈夫だったか?けがはしてねえか?
―うん、へっちゃらでえ!
あれ?おとっつあんじゃないか?おじちゃん、おいらのおとっつあんだろ?
―え?!お、おとっつあんて。
もしかして、おめえ、きん坊か?
―うん、おいらきん坊だよ!おとっつあんだ、おとっつあんだ。
いままでどこに行ってたの?おいら寂しかった。グスン。
―てあんでえ、そ、そんなことで男の子が泣くんじゃねえよ。
―おとっつあんも泣いてんじゃねえか。
―バカ言うな、これは目の汗だ。
それにしてもきん坊、しばらく見ねえ間に大きくなりあがって。
―おとっつあんもしばらく見ねえうちに、立派になって。
―ちぇっ、親をバカにしてやがらあ。
おい、おめえ、なんでいじめられてたんだ?
―そんなこと聞くない。
おとっつあんがいないから、貧乏で、いつも同じ着物ばかり着ているからなんて、おとっつあんの前じゃ言えないよ。あ、これおっかさんには内緒だよ。
―ふん、自分で言ってやがらあ。
おめえにまで苦労かけてすまねえな。
それはそうと、おっかあは元気か?
―うん、元気に暮らしてるよ。
おとっつあんが家を出てった時はそれは大変だったんだよ。
方々探し回ってさあ、おっかあ毎日泣いてた。
でも、長屋の小間使いや針仕事なんかして何とか暮らしてるよ。
おとっつあんの前だけどね、おっかさんはそれはよく気が利くし、愛想がいいからね、誰からも好かれるんだよ。「おみっつあん、おみっつあん」て、ばかに評判がいいんだよ。おとっつあん、知ってた?
―し、知ってるよお。
ところできん坊、新しいおとっつあんとは仲良く暮らしているのか?
かわいがってもらっているのか?
―おかしなことを言うね、おとっつあん。
おとっつあんに新しいのと古いのがあんのか?目の前のおとっつあんは古いのか。
―いや、そうじゃねえよ。
これは先のおとっつあん。その後に新しいおとっつあんが来ただろ?
―わからねえよ。古いとか新しいとか、先だの後だのって言われたってわからねえよ。
おとっつあんはおとっつあん一人じゃねえか。
―そうじゃねえよ、じれってえな。
このおとっつあんがいなくなってから、別の男の人が家に来て一緒に暮らしてるんじゃねえのかって聞いてんだよ。
―え?ああ、そういうこと?
心配いらねえよ、おとっつあん。おっかさんは、ずっと空き家だよ。
―色目なんか使いやがって、ませたガキだな、おめえは。
―おとっつあん、家に来なよ。
―家?だめだよ。帰れねえ。かかあに合わせる顔がねえんだ。
―大丈夫だよ、おとっつあん、おっかさんも会いたがってるよ。
ねえ行こう、行こうよ。
※そのままきん坊に手を引かれて、渋々ながら家までやってきました。
―おっかあ、ただいま!
―あれ、きん坊かい、遅かったじゃないか、今までどこ行ってたんだい?
―おっかあ、そんなことより表に出て見なよ。珍しい人連れて来たんだ。
―珍しい人?落語家かい?
はい、どな…
え、お、おまえさん?おまえさん、熊さんかい。
ああ…、(泣き崩れる)
しばらく見ない間に立派になって…
―えー、ごめんなすって。長えことご無沙汰して、あい済いません。
のこのこと出せる顔じゃねえんですが。そこで、きん坊…さん、に会っちまって。
聞いたところによると、ずいぶんご苦労かけちまったようで。
―何言ってんだろうね、この人は。
まあ、そんなとこ突っ立ってないで、中お入りよ。
※それから、出てってからの成り行きをかかあに話します。
―腕のいい大工だなんてえ声にいい気になって毎日酒浸りだった。
仕事にも行かなくなり、おめえに意見されたのに腹立ててプイッと飛び出していっちまった。
はなの内は仲間や知り合いを頼って細々と仕事をさせてもらっていたが、そこでも酒でしくじり、居られなくなってどんどん北へ流れて行った。
着いたところは出羽の国の小国郷(今の最上町)というところよ。
そんときはもう体はボロボロだった。
そんなおいらを村の人は優しく介抱してくれた。
ある家にお世話になっていると、ある晩酒呑み客が訪ねてきた。
その辺は飲み屋なんぞないもんだから、酒が呑みたくなると、呑ませてくれるような家を訪ねては上がって呑んでいくらしかった。
おいらが隣の部屋で寝ていると、その家の人は優しくて、その酔っ払いをもてなして酒を吞ませていたんだ。
しばらく吞んでから酔っ払い客は言った。
「おれはまた『すまぶれ』んなったなや」
「すまぶれ」という言葉は聞いたことがなかったので家の者に聞くと、それは鳥の巣の中でいつまで抱いていても孵らない卵が巣にまぶれてしまうことになぞらえて「帰らない 客」をそう呼ぶんだと。
へえ、うまい言い方があるものだと感心した。しゃれてるじゃねえか。
しかし、そのすまぶれは自分でそう言いながら、それからもグダグダと同じことを何べんも繰り返して帰らねえんだ。
「この野郎、いい加減にして帰りやがれ」と怒鳴りこんでやろうかと思ったが、自分も厄介になっている身で、考えてみりゃあ、その姿はそれまでの俺そのものだった。
しまいにはその野郎、坐りしょんべんまでして、そこの家のカミさんに肩掛けしてもらって帰っていった。
自分の姿見るようでハッとしたよ。俺も、いつまでもだらだらと酒飲んで、おめえやきん坊が迎えに来ても怒鳴って追い返したりしていたっけなと思い出したんだ。
みんなに迷惑をかけていたんだとようやく気がつき、それからは酒をきっぱりとやめてまじめに働いて、こうやって江戸に仕事に来るようになった。
済まなかったなあ、おっかあ。このとおりだ、勘弁してくれ。
―やだよ、やめとくれよ。頭上げとくれよ。あの時はあたしも言い過ぎたと後悔してたんだよ。堪忍してちょうだいね。
おまえさん、今どこで暮らしているんだい?
―今お世話になっている親方のところだ、この近くだよ。でもこっちの方にはなかなか足が向かなくてなあ、避けてたんだけど、そこでたまたまきん坊に会っちまって。
(二人のやりとりに耳を傾けていたきん坊)
―おとっつあん、ねえねえ、お酒呑みなよ。
―なんでえ藪から棒に。今の話聞いてただろう。おとっつあん、酒やめたんだ。
―そんなこと言わないでさ。お酒吞みなよ。
せっかく帰って来たんだからさ、おっかさんとつもる話もあるだろう。
一杯飲みながら話しなよ。さしつさされつさ。
―何生意気なこと言ってんだ。おとっつあんは酒はやめたんだってそう言ってんだろう。
またおっかあを泣かせちゃあナンねえからな。
―あんた、呑みなよ。きん坊の言う通りだよ。もっと話を聞かせておくれよ。ちょっとだけならいいじゃないか。送っていくからさ。
―おとっつあん、呑みなよ。ねえ、おとっつあん。
―きん坊、やけにおとっつあんに酒を勧めるじゃないか。どういう訳でえ。
―だって…
ーなんでえきん坊、そんな顔して。おめえ、泣いてんのか?
どうしたい?おとっつあんが酒を飲まねえことがそんなに悲しいのか?
ーだって、おとっつあんが酒を飲めば、す…す…
ーおっと、分かった。みなまで言うない。そうか、そうさなあ…。
きん坊、安心しな。
おとっつあんはな、酒を飲まなくても、もう、とうにすまぶれだ。
おそまつ。
よろしかったら読んでみてください。
『すまぶれ』
―おいおい!こらやめないか!
寄ってたかって小さな子をいじめんじゃねえ。あっち行け!
坊、大丈夫だったか?けがはしてねえか?
―うん、へっちゃらでえ!
あれ?おとっつあんじゃないか?おじちゃん、おいらのおとっつあんだろ?
―え?!お、おとっつあんて。
もしかして、おめえ、きん坊か?
―うん、おいらきん坊だよ!おとっつあんだ、おとっつあんだ。
いままでどこに行ってたの?おいら寂しかった。グスン。
―てあんでえ、そ、そんなことで男の子が泣くんじゃねえよ。
―おとっつあんも泣いてんじゃねえか。
―バカ言うな、これは目の汗だ。
それにしてもきん坊、しばらく見ねえ間に大きくなりあがって。
―おとっつあんもしばらく見ねえうちに、立派になって。
―ちぇっ、親をバカにしてやがらあ。
おい、おめえ、なんでいじめられてたんだ?
―そんなこと聞くない。
おとっつあんがいないから、貧乏で、いつも同じ着物ばかり着ているからなんて、おとっつあんの前じゃ言えないよ。あ、これおっかさんには内緒だよ。
―ふん、自分で言ってやがらあ。
おめえにまで苦労かけてすまねえな。
それはそうと、おっかあは元気か?
―うん、元気に暮らしてるよ。
おとっつあんが家を出てった時はそれは大変だったんだよ。
方々探し回ってさあ、おっかあ毎日泣いてた。
でも、長屋の小間使いや針仕事なんかして何とか暮らしてるよ。
おとっつあんの前だけどね、おっかさんはそれはよく気が利くし、愛想がいいからね、誰からも好かれるんだよ。「おみっつあん、おみっつあん」て、ばかに評判がいいんだよ。おとっつあん、知ってた?
―し、知ってるよお。
ところできん坊、新しいおとっつあんとは仲良く暮らしているのか?
かわいがってもらっているのか?
―おかしなことを言うね、おとっつあん。
おとっつあんに新しいのと古いのがあんのか?目の前のおとっつあんは古いのか。
―いや、そうじゃねえよ。
これは先のおとっつあん。その後に新しいおとっつあんが来ただろ?
―わからねえよ。古いとか新しいとか、先だの後だのって言われたってわからねえよ。
おとっつあんはおとっつあん一人じゃねえか。
―そうじゃねえよ、じれってえな。
このおとっつあんがいなくなってから、別の男の人が家に来て一緒に暮らしてるんじゃねえのかって聞いてんだよ。
―え?ああ、そういうこと?
心配いらねえよ、おとっつあん。おっかさんは、ずっと空き家だよ。
―色目なんか使いやがって、ませたガキだな、おめえは。
―おとっつあん、家に来なよ。
―家?だめだよ。帰れねえ。かかあに合わせる顔がねえんだ。
―大丈夫だよ、おとっつあん、おっかさんも会いたがってるよ。
ねえ行こう、行こうよ。
※そのままきん坊に手を引かれて、渋々ながら家までやってきました。
―おっかあ、ただいま!
―あれ、きん坊かい、遅かったじゃないか、今までどこ行ってたんだい?
―おっかあ、そんなことより表に出て見なよ。珍しい人連れて来たんだ。
―珍しい人?落語家かい?
はい、どな…
え、お、おまえさん?おまえさん、熊さんかい。
ああ…、(泣き崩れる)
しばらく見ない間に立派になって…
―えー、ごめんなすって。長えことご無沙汰して、あい済いません。
のこのこと出せる顔じゃねえんですが。そこで、きん坊…さん、に会っちまって。
聞いたところによると、ずいぶんご苦労かけちまったようで。
―何言ってんだろうね、この人は。
まあ、そんなとこ突っ立ってないで、中お入りよ。
※それから、出てってからの成り行きをかかあに話します。
―腕のいい大工だなんてえ声にいい気になって毎日酒浸りだった。
仕事にも行かなくなり、おめえに意見されたのに腹立ててプイッと飛び出していっちまった。
はなの内は仲間や知り合いを頼って細々と仕事をさせてもらっていたが、そこでも酒でしくじり、居られなくなってどんどん北へ流れて行った。
着いたところは出羽の国の小国郷(今の最上町)というところよ。
そんときはもう体はボロボロだった。
そんなおいらを村の人は優しく介抱してくれた。
ある家にお世話になっていると、ある晩酒呑み客が訪ねてきた。
その辺は飲み屋なんぞないもんだから、酒が呑みたくなると、呑ませてくれるような家を訪ねては上がって呑んでいくらしかった。
おいらが隣の部屋で寝ていると、その家の人は優しくて、その酔っ払いをもてなして酒を吞ませていたんだ。
しばらく吞んでから酔っ払い客は言った。
「おれはまた『すまぶれ』んなったなや」
「すまぶれ」という言葉は聞いたことがなかったので家の者に聞くと、それは鳥の巣の中でいつまで抱いていても孵らない卵が巣にまぶれてしまうことになぞらえて「帰らない 客」をそう呼ぶんだと。
へえ、うまい言い方があるものだと感心した。しゃれてるじゃねえか。
しかし、そのすまぶれは自分でそう言いながら、それからもグダグダと同じことを何べんも繰り返して帰らねえんだ。
「この野郎、いい加減にして帰りやがれ」と怒鳴りこんでやろうかと思ったが、自分も厄介になっている身で、考えてみりゃあ、その姿はそれまでの俺そのものだった。
しまいにはその野郎、坐りしょんべんまでして、そこの家のカミさんに肩掛けしてもらって帰っていった。
自分の姿見るようでハッとしたよ。俺も、いつまでもだらだらと酒飲んで、おめえやきん坊が迎えに来ても怒鳴って追い返したりしていたっけなと思い出したんだ。
みんなに迷惑をかけていたんだとようやく気がつき、それからは酒をきっぱりとやめてまじめに働いて、こうやって江戸に仕事に来るようになった。
済まなかったなあ、おっかあ。このとおりだ、勘弁してくれ。
―やだよ、やめとくれよ。頭上げとくれよ。あの時はあたしも言い過ぎたと後悔してたんだよ。堪忍してちょうだいね。
おまえさん、今どこで暮らしているんだい?
―今お世話になっている親方のところだ、この近くだよ。でもこっちの方にはなかなか足が向かなくてなあ、避けてたんだけど、そこでたまたまきん坊に会っちまって。
(二人のやりとりに耳を傾けていたきん坊)
―おとっつあん、ねえねえ、お酒呑みなよ。
―なんでえ藪から棒に。今の話聞いてただろう。おとっつあん、酒やめたんだ。
―そんなこと言わないでさ。お酒吞みなよ。
せっかく帰って来たんだからさ、おっかさんとつもる話もあるだろう。
一杯飲みながら話しなよ。さしつさされつさ。
―何生意気なこと言ってんだ。おとっつあんは酒はやめたんだってそう言ってんだろう。
またおっかあを泣かせちゃあナンねえからな。
―あんた、呑みなよ。きん坊の言う通りだよ。もっと話を聞かせておくれよ。ちょっとだけならいいじゃないか。送っていくからさ。
―おとっつあん、呑みなよ。ねえ、おとっつあん。
―きん坊、やけにおとっつあんに酒を勧めるじゃないか。どういう訳でえ。
―だって…
ーなんでえきん坊、そんな顔して。おめえ、泣いてんのか?
どうしたい?おとっつあんが酒を飲まねえことがそんなに悲しいのか?
ーだって、おとっつあんが酒を飲めば、す…す…
ーおっと、分かった。みなまで言うない。そうか、そうさなあ…。
きん坊、安心しな。
おとっつあんはな、酒を飲まなくても、もう、とうにすまぶれだ。
おそまつ。