私は青苔というのは秋の季語とばかり思いこんでいた。しかし青苔の持つ季感は特に定まっておらず、他の季語を配している例が多いことに気がついた。
第1句、2句は秋の季感を、第3句は初冬の季感をまとわせている。
第4句は、「苔茂る」を夏の季語として扱っている。歳時記でもそのように扱っている歳時記がある。しかし私には現在の都会の夏の身を突き刺すようなの陽射しのもとではなく、どこか柔らかい陽射しを匂わせている。きっと木陰の多くあるところが似合う季語である。こんな「苔茂る」の私の持つ季感を打ち破った句に出会ってみたい、作ってみたいという気持ちがある一方、そんなことはとてももったいない気もする。
私の住む団地では擁壁の目地の苔は梅雨時に花も咲き青々として、盛夏には色が褪せてしまう。しかし今年は、梅雨時が短く青々とした苔の風情はほとんどみられなかった。台風前後の雨で苔の青が急に浮き上がるように見えてきた。苔もまた異常気象に翻弄されているようだ。
★思惟仏秋の青苔身にあふれ 加藤秋邨
★青苔に日の射してゐる神の留守 飯田龍太
★踏み石に苔青々と初冬なる 細見綾子
★苔茂るオランダ塀の上の瀬戸 石原八束