★さみだれや大河を前に家二軒 与謝蕪村
蕪村の有名な句。梅雨で増水した大河のすぐ傍に今にも飲み込まれそうな家が2軒。何気ない風景も災害時には不安がひかえている。蕪村らしい絵画的な風景である。
この句について「蕪村句集」(玉城司訳注、角川ソフィア文庫)に「家二軒を蕪村と一人娘の寓意、また蕪村の家とこの年離縁した娘の婚家の寓意とする説もある」と記している。断定はしていない。そういう風に読むのも鑑賞者の側に任されてはいるだろうが、折角大きな景と風景にひそむ不安を眼前に現出させてくれたのに、あまりに生々しすぎる読みではないか。
★空も地もひとつになりぬ五月雨 杉山杉風
本日のように熱い雲に空が覆われ、時々雨が強くなるどんよりとした天気、空も地も、区分けがつかない。鬱陶しい気分が私にはよく伝わる。「空も地もひとつになりぬ」が「五月雨」にすんなりと続く。不思議といえば不思議。
「空も地もひとつになりぬ」だけを書き出して、はて次は何を記そうか、と考えてみた。明るい空と海の青でもひとつになる。雪の空でもひとつになる。新月の星空でもひとつになる。でも梅雨時の鬱陶しい空がもっともふさわしい。鬱陶しい、湿り気、強い雨、弱い雨‥不随するいろいろな感覚がついてくる。「五月雨」以外の季語ならば何かもう一工夫・一ひねりしないといけないような気になってしまはないだろうか。
杉風は芭蕉の江戸での後援者。「奥の細道」では冒頭の段落の末尾に「杉風が別墅(べっしょ)に移るに」と記されている。