メランコリア

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『炎上』(1958)

2009-11-08 16:33:30 | 映画
『炎上』(1958)
監督:市川崑 原作:三島由紀夫『金閣寺』
出演:市川雷蔵、仲代達矢、二代目中村鴈治郎、中村玉緒、浦路洋子、新珠三千代、信欣三、北林谷栄、浜村純、香川良介 ほか

「三島由紀夫の『金閣寺』の映画化作品。
 金閣寺は実際に1950年に青年僧により放火され全焼し、5年後に再建され今日に至っています。
 三島はこの不可解な事件を小説化するにあたり、綿密な取材ノートをしたためたということです。」
「時代劇のスター、市川雷蔵が初めて現代劇に挑み見事な演技を見せる傑作である。」とのこと。

story
田舎の寺の息子として生まれた溝口吾市は、父親の死後「驟閣寺」に預けられる。
吃音のコンプレックスを持つ吾市は、父親がこの世で最も美しいと愛した驟閣寺を父同様に愛していた。
父とともに修行した老師の広い心に打たれ尊敬していたが、祇園の芸者を囲っていることを知り「変わった」ともらす。
大学へ行かせてもらっているのに授業にも出ず、脚に障害を持つ戸刈と親しくなる。
彼は世間の同情を「偽善」と笑い飛ばし、それを利用してお高くとまった娘や花の先生と付き合っていたが「片輪者」とさげすまれもみあいとなる。
戸刈に「老師が本当に慈悲深いなら、彼のイヤだと思うことをやってみればいい」と言われ、
溝口は説法中に咳払いをしたり、芸者のプロマイドを新聞に挟んだりしてみたが見抜かれてしまう。
「わたしはどう見えます?真面目な学生に見える、その奥の実体を見てください!」と訴えるも理解されず、
「誰もわかってくれないのだよ」と驟閣寺に語り、その夜、驟閣寺に火を放つ。
みるみる燃え盛り全焼した驟閣寺。捕われた溝口は黙秘を続け、移送中の電車から身を投げる。

母の浮気を知っていても何も言わなかった父。「驟閣寺を見ればイヤなことは全部忘れる」という。
「どもりなんて全然気にしないよ」と心底誠実で優しかった同僚はあっけなく亡くなってしまう。
初めて行った歓楽街の娼婦(中村玉緒)は「寺なんて燃えてもどうにもなりゃしないけど、この娼家が燃えたらことだわね」という。

溝口は「世の中すべてが変わっても驟閣寺だけは変わらない。それははじめからそのままだった」と信じている。
この間読んだ本には、青年はその後も住職に「寺に戻りたい」と手紙を書いて、結局病死するが、
再建に必死で取り組んだ住職から返事を出すことはなかったと書いてあった。

市川雷蔵と仲代達矢の鬼気迫る演技のぶつかりあいが凄い。
三島はニンゲンの中に潜む善悪を描きたかったのだろうか。
世間に対して鋭くたたみかけるような戸刈のセリフが残る。

国宝や世界遺産といえども、文化遺産の多くはさまざまな理由で焼け落ち、建てた当時の面影を残しているものはわずか。
放火というショッキングな方法で焼けたのも、今となっては歴史の1ページだが、
青年がどうしてそこまで追いつめられたのか、その背景をそれぞれが深く考えてみなければならない。
ヒトがヒトを蔑むことで自分を肯定するココロ。
善いヒトがどう繕ってみても、そんなココロがどこかにあるということを
もう一遍よく考えてみなければならないのかもしれない。


水上勉原作「五番町夕霧楼」(1963年、監督:田坂具隆、主演:佐久間良子)でも同じ題材で撮られているらしい。
そちらも気になる。


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