メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

『雪のかなたに』

2009-12-09 19:46:02 | 
『雪のかなたに』Lanterns across the Snow スーザン・ヒル作、ジョン・ローレンス画、野の水生訳 パロル舎

「ゆうべ、雪が降った。と、思い出の波が押し寄せてきた。
 忘れていたなにもかもが、あとからあとから甦る。
 いや、忘れたことなどあったろうか。ありはしない。
 すべては心の奥深く、しまいこまれていたのだった。宝物、のように。」

クリスマス本。手の平サイズ。蔓のはった葉の絵がかわいい装丁。
プロローグ、クリスマス・イブ、クリスマス・デイ、聖ステパノの日、エピローグと章は5つだけ。
かなりの年齢と思われる老婆が窓際に座って、過ぎ去りし遠い昔に想いを馳せている。
自分が過ごしたある村での思い出をともに語らう者はもう誰一人としていない。
両親も亡くなり、2人の兄は産まれてすぐ召されてしまった。
1番仲の良かった兄ウィルは戦争に行ったきり戻らなかった。
本書の語り部ファニーは自分の命の淡い光があるうちに、すべてが輝いていた日々のことを書き留めておこうと思う。

そして語られるのは、8歳のクリスマス前後の3日間のこと。
イヴの秘密に満ちた準備、当日靴下いっぱいに入れられたプレゼント、テーブルいっぱいのご馳走!
けれども、聖歌隊で指揮をとっていた老人セス・ロックが雪の中で行き倒れて亡くなった。
少女は大好きな父が牧師でなければよかったと呪い、すぐに思い直す。
同じ夜、トマス・タムニーの家に新しい命が誕生した。

ファニーは翌日早朝、父について、ロックの亡骸に別れを告げ、タムニーの赤ちゃんを抱っこした。
タムニー家にはほかにも子どもが10人もいて、父親は怪我をしてほとんど動けず、ひどく貧しい。
それでも赤ちゃんを囲んで幸せに包まれたこの風景のことを一生忘れないよう目に焼き付けておこうと心に誓うファニー。
その夜には領主から湖でのパーティへの招待状が届き、馬車の迎えがやって来る。
すっかり凍りついた湖で父と母は若い頃に戻ったようにスケートをして踊った。

一家はこの年を最後に大きな町へと移り、ファニーの少女時代も終わる。
目に映るすべてが光り輝いて特別に見え、そのたびに「ステキだ」と感嘆をもらす少女。
彼女を通して、たった3日間の出来事が夢のように展開され、豊かな表現力に溢れる言葉に浸った。

素朴な版画絵がそんな文章にひっそり寄り添うように挿し込まれていた。



★winter songs
ペチカ 北原白秋/詩 山田耕筰/曲

雪の降る夜は 楽しいペチカ
ペチカ燃えろよ お話しましょ
昔むかしよ 燃えろよペチカ

唱歌も小さい頃から大好きで、学校でもらう歌の本を片っ端からよく家で歌ってたっけ。
母も好きで、わたしが忘れてしまった歌はいっしょに歌ってくれたのを思い出す。
ペチカが何なのか知らなかったけど、フシギな外国の言葉の響きと物寂しげなメロディが好きだった。


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