■『岡本太郎著作集 第5巻 神秘日本他』 岡本太郎/著
昭和54年初版のこの本は、元となる2冊の著作を抱き合わせた全集ではあるが、
『沖縄文化論』の写真も最初に読んだ改訂版より多く(多分全部)、発売当時の雰囲気に触れられる。
ネットでヒットする明るい色の装丁ではなく、図書館で借りたのはくすんだ水色に紺という地味なもの。
芸術一家に生まれて、自身も否応なく芸術家になったけれども、
本当は民俗学者になりたかったのでは?ってくらいの情熱だ。
宗教、文化、あらゆる根本を探り、突き詰めることで、芸術そのものの本質、
そしてなにより「日本人としての自分」を発見したかったのだろう。
『沖縄文化論』については以前書いたので、『神秘日本』について目次ごとに乱雑なメモを記録することにする。
▼「オシラの魂-東北文化論」
お婆さんらを地母神と呼ぶ太郎のフェミニズム的な女性観が面白い。
そもそも女性がまつる神だということで興味を持ったのでは?
「嫁三十まで口いらぬ」などと言われ、極貧の生活の中で、さらに虐げられてきた女性たちの
切実ながら生々しい鬱憤晴らしの要素を祭事の中に発見し、心を寄せる文章が素晴らしい。
<気になる用語>
グリューネワルト=ドイツの画家。
アニミズム
円太郎馬車=明治時代の乗合馬車の愛称。
粟まき
牛湯
p.198
「相手に何らかの形で認められるという要素がなければならない。それがなかったら、働きかける力をもたない。だが全面的に受け入れられ、好かれてしまったら、また呪力を失ってしまう。ともに芸術として無存在だ」
p.241
民俗学者の家でオシラさまを遊ばせる儀式を再現して、イタコが長々と「神おろし」をする間、
気の短い太郎は、すぐ飽きてしまい、家に置いてあった博物的なものを観察していたって可笑しい。その情景が見えるようだw
▼「修験の夜-出羽三山」
秘境に入り、実際に祭を体験して、レポする。
途中、年越し前後に紅白歌合戦を見始める神官らに呆れる太郎w
神道や神社に対してはここでも辛口だ。
<気になる用語>
三山拝詞(さんやまはいじ)
祝詞
和讃
海幸山幸
オートノミー(autonomy)=自主性。自律性。
プレロジック
羽黒山
明治維新の神仏分離、廃仏毀釈政策で神道に
p.269
「日本人は個性が強くないのに、単独でバラバラだ。個々の間に気あいは通じても、空間的・時間的にはなかなか拡がりがもてない。(中略)日本人のひどく素朴な純粋さ。計算、功利性がない。講堂の潔癖に徹し、殉じる。すぐ身を捨てて、素っ裸になってしまう。傷つきやぶれながらも、なお捨てることのない清浄感。そしてケガレと悲劇的に対立する」
▼「花田植-農事のエロティスム」
<気になる用語>
赤塚の田遊び「米穂よなぼ」
p.283
「このような自然と体制に対して無力なモラルが、現代日本人の精神をかなり規定し、支配していることは確かだ。苦労することだけが価値のように言う。正しく、激しく、自分の責任において苦悩し、生きるのではない。ハツラツとした積極性を失い、強烈な意志を鈍らせることが、逆に人間の成果であるような。苦労の中に埋没してしまうだけ。日本人は勤勉だし、努力家だが、いつでも枠がある」
p.298
田楽とジャズの対比は面白かった。
▼「火・水・海賊-熊野文化論」
<気になる用語>
熊野
那智の火祭り
古座
漁方の船祭り
戦合せんごう(伝馬レース)
信州のハラメン棒
熊野御幸
コンプレキシティ
p.311
「とんと十津川御赦免どころ、年貢いらずのつくり食い」
p.342
源平合戦の勝敗をわけた本当の理由を太郎なりに語っている部分も面白い。
「固定した様式の外に出られないものは、滅びる。高みにありながら、栄光とともに消えてしまうのだ。それが歴史だ。形式主義がリアリズムによって乗り越えられる」
▼「秘密荘厳」
年代のせいもあるだろうけど、太郎の書く常に短く、的確で、ストレートな言葉選びは素晴らしいと感銘を受ける。
感情に関することは、思って感じたまま正直に、歴史的事実などはわかりやすく端的に、
口述筆記ですべての著作を著したとしたら、普段から要点だけをズバッと言う人だったんだろう。
「美術館巡りや、仏教美術は死ぬほど退屈だ」という考え方は意外。
<気になる用語>
透明なる混沌
タッシスム=1940年代から1950年代のフランスの抽象絵画の様式の一つ。「タッシュ(しみ、汚点)のようだ」との批判的言説を逆用してタシスムという言葉を用い、これを理論付けている。
温雅=穏やかで上品なこと。しとやかなこと。また、そのさま。
『十住心論』
平安時代の仏教書。10巻。空海著。天長7年(830)成立と推定される。「大日経」住心品の思想に基づいて、真言行者の住心(菩提心(ぼだいしん))の展開を10の段階に整理し、諸案批判とともに真言宗の最もすぐれていることを述べたもの。秘密曼荼羅(まんだら)十住心論。
秘密荘厳住心
ブラフマニスム
ブラフマニスム(バラモン教)に言う梵我一如。すなわち真理としてのブラフマン(梵)なる一元に、人間存在つまり存在ということとしてのアートマン(我)が一体となり、輪廻から解脱するという思想。
日本の三不動
オルガナイザー(organizer)=オルグをする人。組織者。
p.349
「教義や歴史については、丹念な文献がいくらでもある。私はまず何よりも生身をぶつけ、その手ごたえによって響いてくるものを極めたいのである」
p.350
「私は常々思っている。芸術的価値、効果などという、ひどく任意な感覚主義的判断、そんな卑しい考慮にすこしもわずらわされず、善悪・美醜をこえた絶対感を激しくうち出すものこそ、人間におけるノーブレスではない。もし芸術を云々するなら、それだけがその名に値するのだ」
p.352
「空虚を気づかずにいれば、一応安らかなものだ。走りつづけていけるものは幸いである。また転落し、前途を放棄してしまったものも幸いである。しかし多くの作家が、良心的であるがゆえに虚無におびえ、そして未練がましいのである」
▼「曼陀羅頌」
<気になる用語>
高雄山
クリスタリゼーション(crystallization)=結晶作用,晶化;結晶体。具体化。
マンダラ=本質を所有せるもの
ジャワのボロボドゥール遺跡
イヴ・クライン=単色の作品を制作するモノクロニズムを代表するフランスの画家。アーティストとしての活動は晩年のごく数年である。
p.380
「時代に対応しない形式というものは、随所に破綻があらわになる。構えが壮大であればあるほど、困りものだ」
p.382
「些末で相対的な個我から、絶対的大我へ。パティキュラーな属性をつきぬければ、宇宙即自分、己れ即宇宙なのである」
p.392
「優れた芸術には永遠にフレッシュな感動がある。それは永遠に己を渡さないからだ。その拒否、秘密がなければ、純粋ではあり得ない。秘密即純粋なのだ。つまりそれは見せていると同時に見せないことなのである」
伝えたいと同時に、知られたくないという気持ちはとても共感できる。
▼「出羽三山紀行-羽黒山・月山・湯殿山」
<気になる用語>
湯殿山のご神体
仏教以前の心性
解説:「神秘にいどむ文化史論」奈良本辰也
「ゴッホの悲劇の黒い炎」野間宏
日本の小説家、評論家、詩人。長編小説を多く書き、社会全体の構造をとらえる全体小説を志向した。また、最晩年まで社会的な発言を多く行ったことでも知られている。
「岡本太郎さんのこと」矢野健太郎
日本の数学者。数学教育、一般への啓蒙についても精力的に活動し、この方面に関する著作も多い。
昭和54年初版のこの本は、元となる2冊の著作を抱き合わせた全集ではあるが、
『沖縄文化論』の写真も最初に読んだ改訂版より多く(多分全部)、発売当時の雰囲気に触れられる。
ネットでヒットする明るい色の装丁ではなく、図書館で借りたのはくすんだ水色に紺という地味なもの。
芸術一家に生まれて、自身も否応なく芸術家になったけれども、
本当は民俗学者になりたかったのでは?ってくらいの情熱だ。
宗教、文化、あらゆる根本を探り、突き詰めることで、芸術そのものの本質、
そしてなにより「日本人としての自分」を発見したかったのだろう。
『沖縄文化論』については以前書いたので、『神秘日本』について目次ごとに乱雑なメモを記録することにする。
▼「オシラの魂-東北文化論」
お婆さんらを地母神と呼ぶ太郎のフェミニズム的な女性観が面白い。
そもそも女性がまつる神だということで興味を持ったのでは?
「嫁三十まで口いらぬ」などと言われ、極貧の生活の中で、さらに虐げられてきた女性たちの
切実ながら生々しい鬱憤晴らしの要素を祭事の中に発見し、心を寄せる文章が素晴らしい。
<気になる用語>
グリューネワルト=ドイツの画家。
アニミズム
円太郎馬車=明治時代の乗合馬車の愛称。
粟まき
牛湯
p.198
「相手に何らかの形で認められるという要素がなければならない。それがなかったら、働きかける力をもたない。だが全面的に受け入れられ、好かれてしまったら、また呪力を失ってしまう。ともに芸術として無存在だ」
p.241
民俗学者の家でオシラさまを遊ばせる儀式を再現して、イタコが長々と「神おろし」をする間、
気の短い太郎は、すぐ飽きてしまい、家に置いてあった博物的なものを観察していたって可笑しい。その情景が見えるようだw
▼「修験の夜-出羽三山」
秘境に入り、実際に祭を体験して、レポする。
途中、年越し前後に紅白歌合戦を見始める神官らに呆れる太郎w
神道や神社に対してはここでも辛口だ。
<気になる用語>
三山拝詞(さんやまはいじ)
祝詞
和讃
海幸山幸
オートノミー(autonomy)=自主性。自律性。
プレロジック
羽黒山
明治維新の神仏分離、廃仏毀釈政策で神道に
p.269
「日本人は個性が強くないのに、単独でバラバラだ。個々の間に気あいは通じても、空間的・時間的にはなかなか拡がりがもてない。(中略)日本人のひどく素朴な純粋さ。計算、功利性がない。講堂の潔癖に徹し、殉じる。すぐ身を捨てて、素っ裸になってしまう。傷つきやぶれながらも、なお捨てることのない清浄感。そしてケガレと悲劇的に対立する」
▼「花田植-農事のエロティスム」
<気になる用語>
赤塚の田遊び「米穂よなぼ」
p.283
「このような自然と体制に対して無力なモラルが、現代日本人の精神をかなり規定し、支配していることは確かだ。苦労することだけが価値のように言う。正しく、激しく、自分の責任において苦悩し、生きるのではない。ハツラツとした積極性を失い、強烈な意志を鈍らせることが、逆に人間の成果であるような。苦労の中に埋没してしまうだけ。日本人は勤勉だし、努力家だが、いつでも枠がある」
p.298
田楽とジャズの対比は面白かった。
▼「火・水・海賊-熊野文化論」
<気になる用語>
熊野
那智の火祭り
古座
漁方の船祭り
戦合せんごう(伝馬レース)
信州のハラメン棒
熊野御幸
コンプレキシティ
p.311
「とんと十津川御赦免どころ、年貢いらずのつくり食い」
p.342
源平合戦の勝敗をわけた本当の理由を太郎なりに語っている部分も面白い。
「固定した様式の外に出られないものは、滅びる。高みにありながら、栄光とともに消えてしまうのだ。それが歴史だ。形式主義がリアリズムによって乗り越えられる」
▼「秘密荘厳」
年代のせいもあるだろうけど、太郎の書く常に短く、的確で、ストレートな言葉選びは素晴らしいと感銘を受ける。
感情に関することは、思って感じたまま正直に、歴史的事実などはわかりやすく端的に、
口述筆記ですべての著作を著したとしたら、普段から要点だけをズバッと言う人だったんだろう。
「美術館巡りや、仏教美術は死ぬほど退屈だ」という考え方は意外。
<気になる用語>
透明なる混沌
タッシスム=1940年代から1950年代のフランスの抽象絵画の様式の一つ。「タッシュ(しみ、汚点)のようだ」との批判的言説を逆用してタシスムという言葉を用い、これを理論付けている。
温雅=穏やかで上品なこと。しとやかなこと。また、そのさま。
『十住心論』
平安時代の仏教書。10巻。空海著。天長7年(830)成立と推定される。「大日経」住心品の思想に基づいて、真言行者の住心(菩提心(ぼだいしん))の展開を10の段階に整理し、諸案批判とともに真言宗の最もすぐれていることを述べたもの。秘密曼荼羅(まんだら)十住心論。
秘密荘厳住心
ブラフマニスム
ブラフマニスム(バラモン教)に言う梵我一如。すなわち真理としてのブラフマン(梵)なる一元に、人間存在つまり存在ということとしてのアートマン(我)が一体となり、輪廻から解脱するという思想。
日本の三不動
オルガナイザー(organizer)=オルグをする人。組織者。
p.349
「教義や歴史については、丹念な文献がいくらでもある。私はまず何よりも生身をぶつけ、その手ごたえによって響いてくるものを極めたいのである」
p.350
「私は常々思っている。芸術的価値、効果などという、ひどく任意な感覚主義的判断、そんな卑しい考慮にすこしもわずらわされず、善悪・美醜をこえた絶対感を激しくうち出すものこそ、人間におけるノーブレスではない。もし芸術を云々するなら、それだけがその名に値するのだ」
p.352
「空虚を気づかずにいれば、一応安らかなものだ。走りつづけていけるものは幸いである。また転落し、前途を放棄してしまったものも幸いである。しかし多くの作家が、良心的であるがゆえに虚無におびえ、そして未練がましいのである」
▼「曼陀羅頌」
<気になる用語>
高雄山
クリスタリゼーション(crystallization)=結晶作用,晶化;結晶体。具体化。
マンダラ=本質を所有せるもの
ジャワのボロボドゥール遺跡
イヴ・クライン=単色の作品を制作するモノクロニズムを代表するフランスの画家。アーティストとしての活動は晩年のごく数年である。
p.380
「時代に対応しない形式というものは、随所に破綻があらわになる。構えが壮大であればあるほど、困りものだ」
p.382
「些末で相対的な個我から、絶対的大我へ。パティキュラーな属性をつきぬければ、宇宙即自分、己れ即宇宙なのである」
p.392
「優れた芸術には永遠にフレッシュな感動がある。それは永遠に己を渡さないからだ。その拒否、秘密がなければ、純粋ではあり得ない。秘密即純粋なのだ。つまりそれは見せていると同時に見せないことなのである」
伝えたいと同時に、知られたくないという気持ちはとても共感できる。
▼「出羽三山紀行-羽黒山・月山・湯殿山」
<気になる用語>
湯殿山のご神体
仏教以前の心性
解説:「神秘にいどむ文化史論」奈良本辰也
「ゴッホの悲劇の黒い炎」野間宏
日本の小説家、評論家、詩人。長編小説を多く書き、社会全体の構造をとらえる全体小説を志向した。また、最晩年まで社会的な発言を多く行ったことでも知られている。
「岡本太郎さんのこと」矢野健太郎
日本の数学者。数学教育、一般への啓蒙についても精力的に活動し、この方面に関する著作も多い。