■『地球異変』(ランダムハウス講談社)
朝日新聞社/編
さすが新聞社だけあって、現地に密着した鮮やかな写真ばかり。
地球が発するSOSは、文章で訴えるより、実際の生の写真を観たほうが危機感が伝わる。
本書にも記述があったが、冒頭に取り上げられているのは、写真家・星野さんがかつて暮らしたことがあるアラスカ、
まさにシシュマレフ島の危機が紹介されているほか、著書で何度も出てくる生物たち、マッキンリーの山々などが出てきてショックだった。
星野さんが危惧したとおり、さらに激変しつづけているというリポートが悲しい。
まずは、現状をしっかりと知ることからはじめよう。
【内容抜粋メモ】
「地球第三の極」と呼ばれるヒマラヤでも巨大な氷河はやせ細り、人々は危機にさらされている。
自然の摂理によって制御されてきた地球の精妙なメカニズムが、
この40年で2倍にまで膨れ上がった人口、2.5倍に増えたエネルギー消費によって、大きく崩れつつある。
国境や政体の違いを越えて、エネルギー多消費社会から脱却する道を探ることが急務。
朝日新聞は、2003年から「地球異変」というタイトルで地球温暖化を現場から報道してきた。その集大成が本書。
*************************アラスカ
北極海に面したシシュマレフ島は、海岸の永久凍土が高波に削られ、家屋が次々と倒壊していた。
2007年、夏、北極海の海氷が観測史上もっとも小さくなった。
海に氷が浮かぶ風景は、不毛な世界を思わせるが、実は海に豊かな恵みをもたらしている。
氷の縁は、生物たちの楽園なのだ。
大規模な森林火災の跡地に広がるヤナギランの大群落
2004年、過去50年のうちで最大の270万haが森林火災で焼けた
キナイ半島では「キクイムシ被害」が深刻で、白く立ち枯れた針葉樹が広がる。
焼けて衰弱した木々は、虫害に遭いやすくなる。
落雷か人為的な失火でくすぶり続ける森林@フェアバンクス近郊
●退く氷河
コバシウミスズメ:コロンビア氷河の周りで繁殖期を過ごす。この20年間で7~8割が減った。
北極海の油田からアラスカを縦断する石油パイプライン(約1300km
カリブーの季節移動のルートにも重なる。
土台を失い倒壊した家屋@シシュマレフ島
住民が村ごと本土に移住する計画もある。
極域の自然は脆く、壊れやすいため、地球環境の変化を映す「センサー」と呼ばれる。
*************************シベリア
油田掘削プラント建設のためにつくった道路はツンドラを傷つけている。
昔から放牧をしてきた少数民族ネネツたちに土地の所有権はない。
そこに、開発許可をもらった石油会社が入り、次々とプラントを作り、
化学物質が湿地の水を汚染し、それを飲むトナカイが内臓の病気で死んでゆく。
中国向けに輸出する木材の集積地ダリネレチェンスクでは、丸太を満載した貨車がずらりと並ぶ。
半分は保護地区などで違法に伐採されたものだという。
サハリン北部で進む大規模油田開発。
重油などが漏れれば、海流の影響で一番被害を受けるのは、チュレニー島だという。
夏の森林火災で燃えた地中の泥炭が、冬になっても雪の下でくすぶり続ける
●『デルス・ウザーラ』の末裔たち
かつて辺境に暮らす先住民族は、保護政策によって安定した生活を送っていた。
ロシアとなった今、市場原理が生活を支配する。
人々は森を捨てて大都市に出かけ、近代的なマンションに住み、高級車を持とうと競争する。
*************************グリーンランド
●短くなる海氷の季節
NASAなどは、グリーンランドを覆う氷河の年間流出量が10年間で約2.5倍になったと報告。
海氷が解ける時期が早くなり、犬ぞりを使える期間は年々短くなっている。
犬ぞり猟の最中に氷が割れ、猟師が流される事故も増えている。
橇を引くことだけが仕事のエスキモー犬たちは、どんな運命をたどるのだろうか
*************************スバールバル諸島
●ホッキョクギツネ
ホッキョクグマを除けば、自分たちより強い動物はいないこの島は楽園だった。
世界最北端にある郵便局から手紙を出すために列を作る観光客。
観光客の立ち入りを厳しく制限しているが、大型観光船の一時立ち寄りは例外。
魚を追って生育域を北に移す鳥もいる。
北の動物にとって、短い夏は繁殖、子育て期。
そこに侵入者がやってくれば脅威となる。
●北極海の氷がなくなる?
予測をはるかに上回るスピードで北極海の氷は減少している。
ほぼ10年で半減し、日本7.6個分も縮小した。
1997~1998にかけての「エルニーニョ現象」が一気に推し進めた。
いったん沿岸部の氷が減ると、氷は風の影響でどんどん動き始める。
北極海から大西洋に流れ出す海氷が増えている。
北極海の黒い海は、白い氷に比べて太陽の日射を吸収しやすく、さらに暖められるという悪循環に陥る。
*************************ヒマラヤ
「ヒマラヤの氷河は、温暖化の影響を探る鋭敏なセンサー」と言われる。
「白く輝くヒマラヤだからこそ私たちは憧れ、その頂点を極めたいと思った」
30年ぶりの空撮カメラがとらえたのは、やせ細る氷河と、拡大する氷河湖ツォ・ロルパの姿だった。
モレーン(氷と岩くずが堆積したもの)が天然のダムとなって大量の湖水をせき止めているが、モレーンは脆い。
湖が決壊すれば、川の下流にあるベディン村は、15分後に大洪水に見舞われる。
女性やお年寄りが川岸に石を積み堰堤を造っていた。
ネパール国内の氷河湖20個に決壊の危機があるという。
「ヒマラヤは私たちだけの宝ではない。一緒に守ろう」
ここにも児童労働があるなぁ・・・
*************************バングラデシュ
●水がひかない
雨期明けから2ヶ月過ぎても浸水地が広がる
3つの大河と幾千もの支流は低地へ広がっていく。
国土の多くは標高3m以下。異例の2回目の大洪水に襲われ、1000人が亡くなった。
知人が見つけてくれた写真1枚だけが唯一の財産
2007年、史上最大級のサイクロンが襲った。900万人が被災、死者・行方不明者は4000人以上。
だが住民は「温暖化? 聞いたことないし、わからない」という。
洪水になると、生活に使う水に汚水が混ざり、下痢に苦しむヒトが爆発的に増える。
家畜の世話は子どもの大事な仕事。
各地で鳥インフルエンザが確認され、大流行が懸念されている。
ハティア島は川の浸食で、別名「動く島」と言われる。
洪水、サイクロン、自然災害に翻弄されるバングラデシュ。
温暖化の原因となるCO2を大量に出している先進国のわたしたちは安全に暮らしているというのに。
まさに地球の危機が迫ってきた今こそ、国境、利害を越えて協力して乗り越える知恵を活かす必要がある。
*************************沖縄
●白いサンゴ
サンゴ礁は、世界の海の約0.2%だが、海の魚の1/4種が暮らしている。
医薬品開発や自然の防波堤としても役立っている。
2006年、サンゴ礁の30%が深刻な損傷を受け、30%は2030年までに失われる可能性があると言われる。
世界の平均気温が1~2度上昇すると、世界のサンゴ礁のほとんどが白化し、
2度以上になると広範囲が死滅すると報告されている。
環境の変化に敏感なため「海のカナリア」と呼ばれる。
(昔、炭坑で有毒ガスを吸わないようカナリアを伴ったことから
「ホワイトシンドローム」で左半分が死に絶えている/白い固まりはサンゴの腫瘍
褐虫藻が抜け出して真っ白になったサンゴ。このままだと死に絶える
移植のための稚サンゴ
慶良間諸島の研究所は、サンゴを卵から育てる人工増殖で世界をリードする。
沖ノ鳥島は、波による侵食が激しく、海中に沈めば約40万平方kmの排他的経済水域を失う。
慶良間諸島で育てた稚サンゴを移植するため沖ノ鳥島に運ばれた。
朝日新聞社/編
さすが新聞社だけあって、現地に密着した鮮やかな写真ばかり。
地球が発するSOSは、文章で訴えるより、実際の生の写真を観たほうが危機感が伝わる。
本書にも記述があったが、冒頭に取り上げられているのは、写真家・星野さんがかつて暮らしたことがあるアラスカ、
まさにシシュマレフ島の危機が紹介されているほか、著書で何度も出てくる生物たち、マッキンリーの山々などが出てきてショックだった。
星野さんが危惧したとおり、さらに激変しつづけているというリポートが悲しい。
まずは、現状をしっかりと知ることからはじめよう。
【内容抜粋メモ】
「地球第三の極」と呼ばれるヒマラヤでも巨大な氷河はやせ細り、人々は危機にさらされている。
自然の摂理によって制御されてきた地球の精妙なメカニズムが、
この40年で2倍にまで膨れ上がった人口、2.5倍に増えたエネルギー消費によって、大きく崩れつつある。
国境や政体の違いを越えて、エネルギー多消費社会から脱却する道を探ることが急務。
朝日新聞は、2003年から「地球異変」というタイトルで地球温暖化を現場から報道してきた。その集大成が本書。
*************************アラスカ
北極海に面したシシュマレフ島は、海岸の永久凍土が高波に削られ、家屋が次々と倒壊していた。
2007年、夏、北極海の海氷が観測史上もっとも小さくなった。
海に氷が浮かぶ風景は、不毛な世界を思わせるが、実は海に豊かな恵みをもたらしている。
氷の縁は、生物たちの楽園なのだ。
大規模な森林火災の跡地に広がるヤナギランの大群落
2004年、過去50年のうちで最大の270万haが森林火災で焼けた
キナイ半島では「キクイムシ被害」が深刻で、白く立ち枯れた針葉樹が広がる。
焼けて衰弱した木々は、虫害に遭いやすくなる。
落雷か人為的な失火でくすぶり続ける森林@フェアバンクス近郊
●退く氷河
コバシウミスズメ:コロンビア氷河の周りで繁殖期を過ごす。この20年間で7~8割が減った。
北極海の油田からアラスカを縦断する石油パイプライン(約1300km
カリブーの季節移動のルートにも重なる。
土台を失い倒壊した家屋@シシュマレフ島
住民が村ごと本土に移住する計画もある。
極域の自然は脆く、壊れやすいため、地球環境の変化を映す「センサー」と呼ばれる。
*************************シベリア
油田掘削プラント建設のためにつくった道路はツンドラを傷つけている。
昔から放牧をしてきた少数民族ネネツたちに土地の所有権はない。
そこに、開発許可をもらった石油会社が入り、次々とプラントを作り、
化学物質が湿地の水を汚染し、それを飲むトナカイが内臓の病気で死んでゆく。
中国向けに輸出する木材の集積地ダリネレチェンスクでは、丸太を満載した貨車がずらりと並ぶ。
半分は保護地区などで違法に伐採されたものだという。
サハリン北部で進む大規模油田開発。
重油などが漏れれば、海流の影響で一番被害を受けるのは、チュレニー島だという。
夏の森林火災で燃えた地中の泥炭が、冬になっても雪の下でくすぶり続ける
●『デルス・ウザーラ』の末裔たち
かつて辺境に暮らす先住民族は、保護政策によって安定した生活を送っていた。
ロシアとなった今、市場原理が生活を支配する。
人々は森を捨てて大都市に出かけ、近代的なマンションに住み、高級車を持とうと競争する。
*************************グリーンランド
●短くなる海氷の季節
NASAなどは、グリーンランドを覆う氷河の年間流出量が10年間で約2.5倍になったと報告。
海氷が解ける時期が早くなり、犬ぞりを使える期間は年々短くなっている。
犬ぞり猟の最中に氷が割れ、猟師が流される事故も増えている。
橇を引くことだけが仕事のエスキモー犬たちは、どんな運命をたどるのだろうか
*************************スバールバル諸島
●ホッキョクギツネ
ホッキョクグマを除けば、自分たちより強い動物はいないこの島は楽園だった。
世界最北端にある郵便局から手紙を出すために列を作る観光客。
観光客の立ち入りを厳しく制限しているが、大型観光船の一時立ち寄りは例外。
魚を追って生育域を北に移す鳥もいる。
北の動物にとって、短い夏は繁殖、子育て期。
そこに侵入者がやってくれば脅威となる。
●北極海の氷がなくなる?
予測をはるかに上回るスピードで北極海の氷は減少している。
ほぼ10年で半減し、日本7.6個分も縮小した。
1997~1998にかけての「エルニーニョ現象」が一気に推し進めた。
いったん沿岸部の氷が減ると、氷は風の影響でどんどん動き始める。
北極海から大西洋に流れ出す海氷が増えている。
北極海の黒い海は、白い氷に比べて太陽の日射を吸収しやすく、さらに暖められるという悪循環に陥る。
*************************ヒマラヤ
「ヒマラヤの氷河は、温暖化の影響を探る鋭敏なセンサー」と言われる。
「白く輝くヒマラヤだからこそ私たちは憧れ、その頂点を極めたいと思った」
30年ぶりの空撮カメラがとらえたのは、やせ細る氷河と、拡大する氷河湖ツォ・ロルパの姿だった。
モレーン(氷と岩くずが堆積したもの)が天然のダムとなって大量の湖水をせき止めているが、モレーンは脆い。
湖が決壊すれば、川の下流にあるベディン村は、15分後に大洪水に見舞われる。
女性やお年寄りが川岸に石を積み堰堤を造っていた。
ネパール国内の氷河湖20個に決壊の危機があるという。
「ヒマラヤは私たちだけの宝ではない。一緒に守ろう」
ここにも児童労働があるなぁ・・・
*************************バングラデシュ
●水がひかない
雨期明けから2ヶ月過ぎても浸水地が広がる
3つの大河と幾千もの支流は低地へ広がっていく。
国土の多くは標高3m以下。異例の2回目の大洪水に襲われ、1000人が亡くなった。
知人が見つけてくれた写真1枚だけが唯一の財産
2007年、史上最大級のサイクロンが襲った。900万人が被災、死者・行方不明者は4000人以上。
だが住民は「温暖化? 聞いたことないし、わからない」という。
洪水になると、生活に使う水に汚水が混ざり、下痢に苦しむヒトが爆発的に増える。
家畜の世話は子どもの大事な仕事。
各地で鳥インフルエンザが確認され、大流行が懸念されている。
ハティア島は川の浸食で、別名「動く島」と言われる。
洪水、サイクロン、自然災害に翻弄されるバングラデシュ。
温暖化の原因となるCO2を大量に出している先進国のわたしたちは安全に暮らしているというのに。
まさに地球の危機が迫ってきた今こそ、国境、利害を越えて協力して乗り越える知恵を活かす必要がある。
*************************沖縄
●白いサンゴ
サンゴ礁は、世界の海の約0.2%だが、海の魚の1/4種が暮らしている。
医薬品開発や自然の防波堤としても役立っている。
2006年、サンゴ礁の30%が深刻な損傷を受け、30%は2030年までに失われる可能性があると言われる。
世界の平均気温が1~2度上昇すると、世界のサンゴ礁のほとんどが白化し、
2度以上になると広範囲が死滅すると報告されている。
環境の変化に敏感なため「海のカナリア」と呼ばれる。
(昔、炭坑で有毒ガスを吸わないようカナリアを伴ったことから
「ホワイトシンドローム」で左半分が死に絶えている/白い固まりはサンゴの腫瘍
褐虫藻が抜け出して真っ白になったサンゴ。このままだと死に絶える
移植のための稚サンゴ
慶良間諸島の研究所は、サンゴを卵から育てる人工増殖で世界をリードする。
沖ノ鳥島は、波による侵食が激しく、海中に沈めば約40万平方kmの排他的経済水域を失う。
慶良間諸島で育てた稚サンゴを移植するため沖ノ鳥島に運ばれた。