メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

海を渡るジュリア ヒルクレストの娘たち 3 R.E.ハリス/作 岩波書店

2024-11-22 18:04:58 | 
1992年初版 脇明子/訳 エマ・チチェスター・クラーク/カバー絵

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


同じ家族、同じ時代を別の人物の視点で描くことで
今度はジュリアがどう生きたかが気になってどんどん先を読みたくなる
家族であっても、1人1人の考えが違って、分からないものだなとつくづく感じる
そして、年齢が上になるほど、戦争に対する感じ方もよりリアルになっていく

とくにジュリアは従軍看護婦として働いていたため、血生臭い表現がないのが有難いくらいで
傷病兵がひっきりなしに運び込まれて、休む暇もない日々は想像をはるかに超えるし
フランセスが描いた戦闘神経症のジョフリーの絵がどんなだったか考えるだけで胸が悪くなった

第一次世界大戦ですら酷かったのに、さらに武器などが多種多様になった第二次世界大戦の前線は
地獄絵そのものだったろう
そんな時代を知らずに生まれ育ったことは本当に運が良かったと思う



【内容抜粋メモ】

登場人物
パーセル家 ヒルクレスト ヒュイッシュ・プライオリ
フランセス 長姉 17歳
ジュリア 15歳
グウェン 13歳
セーラ 7歳
アニー 家政婦兼コック 25歳 寝たきりの義母、義弟と義妹の面倒をみている

マッケンジー家
父 牧師

ガブリエル
ジョフリー
アントニー
ルーシー

ミランダ・カートライト
ヘスター・ダン 准男爵令嬢
デニス 絵画のバイヤー 妻ポーリーン・ボンド
デヴィッド・エリオット少佐











■1910年
ジュリアがマッケンジー夫人の『家政大全』を読んでいる時
ジョフリーが帰宅して、母の死について「運が悪かったな」ってひどく言葉足らずだなあ

生まれてからずっと姉フランセスと比較され、コンプレックスにしてきたジュリアは
長兄ガブリエルとアントニーに挟まれて、大嫌いな学校に通い
将来は父と同じオックスフォード大学に行くのを期待されて凹むジョフリーと似ている気がする

ジュリアは肖像画を描くのが好きだが、フランセス同様
スレイドの美術学校に通う気はないと言ってフランセスを困惑させる

ジュリアは学校でミランダ・カートライトと仲良くなる
ミランダはフランスにジュリアと一緒に行きたいと言うが、マッケンジー夫人が断った
父が母にクリスマスプレゼントとしてあげたパリを描いた水彩画の画集を見て、パリで絵を描きたいと思う



マッケンジー家の晩さんに呼ばれ、初めて髪を結って行くと、ジョフリーは釘づけになる
ジュリアはジョフリーがインフルエンザにかかった際
クスリになる黒すぐりのジュースだと思ってニワトコ酒を飲ませて酔わせてしまい
なんとか牧師館のベッドまで運ぶ

マッケンジー兄弟はパーセルの姉妹にダンスを教える
ジョフリーは将来、軍隊もダメ、聖職もダメとなると、先生になるしかないと打ち明ける



みんなでクォントックス登山に行き、納屋で泊まり、海に足を伸ばす
ジョフリーはジュリアにキスする

その後、フランセスがガブリエルのプロポーズを断って、みんな驚く

カートライト夫人は再度、ジュリアにミランダと一緒にフランスに行ってほしいと頼む

■1914年
戦争が始まり、ミランダの叔父アンリが捕虜になったため
エイミー伯母はカートライト家に厄介になる

ガブリエルとジョフリーは村で一番に入隊し、ジョフリーはいつか一緒にパリを見ようと約束する
フランスに行ったジョフリーは「最高のピクニックみたいだ」と嬉々として手紙を書いてきた

アントニーが戦死する

グウェン:たった一通の手紙しかくれなかったわ
ジュリア:アントニーはずっとごっこ遊びの世界にいたのよ
グウェン:彼には私が必要だった

ジュリアはなんとか役に立ちたい一心で、義勇医療部隊に看護婦として参加する
正規の看護婦からは単なる下働きの雑用係扱いされるが
ジュリアもミランダも戦争が終わるまで正式に契約する

アニーと付き合っていたバート・ホーキンズが戦死した

アニー:
セーラ嬢さまがオックスフォードに入られたらと思っていました
私は根っからの田舎娘で、町で暮らすのは想像もつかないから
まあこれでよかったのかもしれません

ミランダは両親が一人娘を心配してフランス行きに反対し、泣く泣く諦める
ジュリアは応急手当免許を取り、塹壕から運ばれて来る
汚くて臭くて血だらけの男たちの世話に明け暮れる

“いったい誰が基地の病院で寝ている何百人もの負傷者たちの穴を埋めているのだろう?”



ジョフリーが膝を傷めて休暇をとって会いに来る
その後も時間を作っては訪れて、看護婦らから慕われる
戦争に役立つ仕事をし、ジョフリーを支えて、ジュリアは幸せをかみしめる

ジョフリー、パターソン、ジュリア、クローフォードでダブルデートに出かける
ジョフリーはウェストミンスター公爵夫人の病院で看護をしている准男爵令嬢ヘスター・ダンの話をする

ガブリエルが戦功十字章を受章する

ジュリアはジェフリーとパリで会うため、エイミー伯母のアパルトマンに泊まる
凍死者が出るほどの寒さでも、石炭もない

2人きりになったのはこれが初めて
ジョフリー:何年も前からずっと君を愛していた
パリは愛と幸福に輝いていた



ミランダの知り合いミラー少佐が会いに来て
食後、ホテルの部屋をとって入浴していけばいいとすすめてくれる
基地では水が凍って、入浴は問題外なため生き返った心地がする

ミラー少佐は初めて息子が生まれたと自慢する
ジュリアは父は息子を欲しかったのではないかと思う

ミラー少佐のはからいで休暇をとったジュリアはジェフリーに会いに行く
汽車はのろのろ走っては止まる

ジョフリー:怖くなるのが怖くてさ それと、怖がっているのを見られるのが一番怖いんだ
(これってパニック発作の予期不安とも通じてとても分かるな

ジョフリーは金の指輪を渡してプロポーズし、戦争が終わったら、パターソンとカナダで仕事する夢を語り
ジュリアも一緒に来てほしいと話す

ジョフリー:僕らは要塞に入るよう命令を受けてる この休暇がもらえたのはそのためだ



経験豊かな看護婦たちは、前線の野戦病院に送られた
ジョフリーからの手紙が途絶え、軍用簡易葉書が届いてショックを受ける
「元気です」や「お手紙ありがとうございます」の行に印がついているだけ

ジュリアはジョフリーと深い関係になって捨てられたのではないかと不安になるが
自分の手紙が戻ってきた時、戦死したと分かる

“戦闘神経症”にかかったバロウズを問い詰める

バロウズ:
みんないっしょに束になって倒れていたよ
死体なんかひとつもなかった 血みどろの大きな穴だけだ
パターソンはもっと前に無人地帯で溺死した

ジュリアは2年も休暇をとっていないことが分かり、総婦長から強制的に休めと言われる
患者からインフルエンザをもらって高熱を出し、デニスに電話してる途中で意識を失う

■1918年
ジュリアはデニスと妻ポーリーン・ボンドの家で休養している間に休戦を迎えた
デニスはジュリアに肖像画を続けるようすすめる

ヒルクレストに帰省して、またインフルエンザで寝込む

ガブリエルはフランセスから再度、結婚を断られてダブリン行きを決める
ガブリエル:あいつ(ジョフリー)のほうが帰ってりゃ、うまくいったのにさ

ミランダは婚約者ジョン・フォードを紹介するがとても退屈な男と分かる

フランセスは画家としてもひどいスランプに陥っていた
フランセス:描けないなら、生きていても仕方ない
ジュリアはスペインにでも出ればいいとすすめる

ガブリエルがダブリンで襲撃されて重体と聞き、フランセスはすぐに駆けつける
セーラはオックスフォードを受験して奨学金を授与する



ジュリアはガブリエルとフランセスの様子が知りたいため、エリオット少佐と文通するようになる
てっきり妻子もちの中年だと思っていたが、フランセスの絵でガブリエルと同じくらいの年齢で独身と分かって驚く



フランセスは絵を売り、グウェンは庭で野菜や果物を生産し、本の挿絵を描いている
セーラに不自由をさせたくないというのがフランセスの意志で
ジュリアは自分だけ家にお金を入れていないことに引け目を感じて
週2日、非常勤の美術教師の仕事に就くが、教える難しさにショックを受ける

ガブリエルがフランセスと病院の礼拝堂で結婚して帰省する
ガブリエルはデヴィッド・エリオットとジュリアが似ていると話す

ジュリアはフランセスが描いた戦死者の絵を見て感銘を受ける
ガブリエルがフランセスを天才と評したわけが分かり
姉と比較される重荷から解放され、やっと自由になる



エリオット少佐がヒルクレストに来て、マッケンジー夫人は質問攻めにする
両親は8歳の時に病死し、異母姉ヘレンはツェッペリンの空襲で亡くし
妹ロウィーナは看護中に感染病で亡くなった
デヴィッドは聖ルカ病院で外科医として働く予定

ジュリアはデヴィッドをクォントックス登山に誘い
デヴィッドはジュリアに音楽を教え、自分がどれほど家庭に憧れていたかを打ち明ける

デヴィッドは海辺のホテルで食事をした後、プロポーズする
デヴィッド:ジョフリーのことは済んだことです 僕はあなたをもう一度幸せにすると約束します

ジュリアは美術教師を辞め、トントン拍子に結婚式を終え、一軒家に引っ越す

■1930年
ヘスターに偶然再会し、結婚してすぐ絵を辞めたこと
長女ロウィーナと長男アンドリューの育児をしていることなどを話す

デヴィッドは高級住宅街のハーリー街に引っ越したがっているが、ジュリアは負担に思っている

ヘスター:戦争中が私の人生の最良の時期だったわ

アンドリューは学校を見て行きたくないと愚図り、息子を縛りつけるのに反対するが
デヴィッドはガブリエルとフランセスの長男トニーも通ってるんだし、すぐ慣れるという

デヴィッドからカナダに旅行しようと言われて、ジュリアは子育てを理由に断ってしまい
デヴィッドは1人で週末友人の所に泊まりに出かけ
ジュリアは子どもを連れて久しぶりにヒルクレストに帰省する

フランセスは子どもが学校に上がったら、ジュリアはスレイドで絵を学び直せばいいと提案する

フランセス:
重要なのは年齢じゃなく、才能があるかどうかよ
才能を持ってる人は、それを活用する義務がある

ジュリアの様子が変なのに気づいたガブリエルから声をかけられ、号泣してしまう
ジュリア:絵も失敗、結婚も失敗
(凹んでる時って0か100か思考になりがちだよね

ジョフリーが死ぬ前に手紙が途絶えていた話をする
ガブリエルはパターソンの死のショックが原因だろう
デヴィッドがハーリー街にこだわっているのは、ジュリアのためと推測する

フランセス:ジョフリーはあんたを愛してたわ 彼は戦闘神経症だった

その時に描いたジョフリーの肖像画を見て、誰か分からないほど変わっていてショックを受け
ジョフリーは親友パターソンを失くして壊れてしまったと知り
衝動的にクォントックスに来る

デヴィッドが来て、プロポーズした海辺のホテルに連れて来る
ガブリエルに言われて、ジュリアにとって絵を描くことの重要さに気づき、続けるようすすめる

デヴィッド:
君がどんどん遠くなるのが見えるのに、どう止められるか分からなかった
誰か他にいるんじゃないかと思い始めた

ジュリアはカナダへの休暇に行くと決め
子ども時代、母の葬儀で土を棺に落とした時すべてが終わったように
カナダへ行って、ジョフリーへの別れをしようと決意する

“新生活にしがみついたのは、受け入れがたい過去を覆い隠すためだった
何年もかけて積み上げた壁を壊すには暇がかかるが努力するだけの価値はある”



訳者あとがき
ジュリアは1人で思案し、決心が固まってから結論だけを言う性質(私もそうだな

第一次世界大戦は、熱烈に歓迎された
みんなクリスマスには終わるだろうと思っていたが、5年も続いた

新たな塹壕戦という形態になり、武器弾薬がわずかになり
両軍は狭い無人地帯を挟んで塹壕にこもり、無数の死傷者を出し続けた

問題は傷よりも細菌感染で、ペニシリンは1929年まで発見されず
看護婦たちが傷口を洗い、包帯をかえるのが唯一の治療法だった

女性は看護婦、物資や兵士を輸送する運転手、武器弾薬をつくる工場などで働き
戦後にも、女性の大規模な社会進出が続いた

ハリスさんは第一次世界大戦中にやりとりされた手紙を調べ
『ビリー 1914年から1916年までのネヴィル一家の手紙』を出版

本作は4部作の予定だったが、構想がふくらみ6冊になりそうで
4冊目はグウェン、その後は成長したセーラ、ルーシーで締めくくる予定
(本は4冊で止まってるみたいだけど?












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