≪「ベナレス」観光②≫
翌朝は、まだ暗い内にホテルを出て、昨日の聖地、ガンジス河畔に向かった。
昨夜はごった返す人々の中を縫うように走る自転車「リキシャ」に乗って聖地の近くまで行ったのだが、朝はバスを下りてから暗い道をガイドに案内されて、懐中電灯を片手に1kmほどの距離を歩いた。
軒先で汚れた布に包まって寝ている「ホームレス」があちこちにいたが、驚いたことにすでに多くの人々が働いていた。
歯磨きをする小枝を売る女性や「ホームレス」に炊き出し用の雑炊を作る男性などだ。
(考えてみたら、この伝統的な小枝のブラシこそ環境を保全するスローライフに繋がる。今世界中で使われているプラスチックの歯ブラシは、絶対自然に分解しないし、燃やすと有害物質「ダイオキシン」を生成するからだ)
昨夜の川岸に近づく頃、少し明るくなった。
ガンジスに捧げる流し花(真ん中に小さなろうそくが乗っている)を売っている女性達がいたので、私達はそれぞれ10ルピー(日本円で18円)で買った。
河畔には何艘もの小型ボートが乗客が乗るのを待っていた。その1つに私達も乗り込んだ。そのボートは手漕ぎで、男性がガンジスの流れと反対側の上流に向かって全身を使って漕ぎ出した。
川岸を見るとズラリと連なった「ガート」が良く分かった。モスクや協会、ホテルの建物もあった。どれも古い建物らしかった。
外れに黒く焼けた木から白煙が立ち昇る「火葬場」らしき場所が見えた。
太陽が対岸遥か地平線に上って来た。私は旅で仲良くなった友人と並んで座っていたが、「無事に旅行を終えて帰れます様に…」とつぶやきながら途中で買った流し花に火をともしてガンジス河に流した。
河畔のあちこちで、男女が「ガート」を下りて流れに身を浸けるのが見えた。泳ぐ男性もいた。皆、ガンジスの水で顔や髪を洗い、うがいをしていた。
やがてボートは反対側に向きを変え、流れに沿って下り始めた。
ガートの下流の外れにも、白い煙が上がる「火葬場」があった。ガイドは「近くから写真を撮ってはいけない。」と注意した。
その周辺には薪が積み上げられていた。どうやら夜中、火葬をしているようだった。その灰は全て聖なるガンジス河に流すのだ。
ここで「火葬」されれば、ヒンズー教が教える生命の輪廻の教え(人間は何度も生まれ変わり、その度に自分が招いた罪を抱えて生きなければならないという教え)から抜け出し、「安心して天国に行くことができる」と信じられているという。
ここで火葬してもらう費用は、10(日本円で18円)~500ルピー(日本円で900円)程がかかる。
乳児、妊婦などは火葬されずに、布に包んだまま流れに入れられるそうだ。
ボートを降りて、階段を上った。ガートで「ホームレス」らしき母が、小さな子どもに着替えをさせていた。離れた所では子ども同士で焚き火を焚いて暖を取っていた。
それから「火葬場」の裏手に当たる細い路地を通り抜けた。自転車の後ろにつけた荷車で「火葬場」に薪を運ぶ裸足の男性に出会った。
この場所には人間の様々な、そして赤裸々な生と死、切なる願いが、悲しいほどに凝縮されて現れているように思えた。