2023,9,22発売
彼女を知ったのは、坂本龍一だった。彼女の曲をリストに上げていた。教授が自分の葬儀で流す曲のリストにも「Breath」という曲を入れていた。(このアルバムには入っていない。入っているのは『Possessed』(サウンドトラック作品))
試聴すると、教授の好きな世界観が広がっていた。
坂本龍一&クリスチャン・フェネスのアルバム『Cendre』も聴き返したくなる。
彼女の最新アルバムから聴いて行こう。
Laurel Halo
1986年、ミシガン州アナーバー(デトロイトの郊外)生まれ
名前はアイナ・キューブ
祖母はオペラ歌手
父は自動車産業の労働者でありながら、画家としても活動。
ピアノ、ヴァイオリン、ギターを習い、ミュージックスクールでクラシックを学び、オーケストラにも所属
大学生の頃、学生の間でラジオDJをしていた時に様々なジャンルの音楽を選曲するために世界観が広がった。
デトロイト・テクノとの出会いともなった。
2009年、ニューヨーク・ブルックリンに移住。
宅録の機材を揃え始め、ローレル・ヘイローを名乗り始めた。(ゲーム音楽が名前の由来)
楽曲をまとめたEPを『King Felix』と名付け、ネット上にアップしたことが世間で知られるようになっていった。
2012年 ファーストアルバム『クァランティン』英「WIRE」誌のアルバム・オブ・ザ・イヤーを獲得。
会田誠の『切腹女子高生』を使用したことでも話題となった。
2013年 ベルリンへ活動拠点を移した。
2023年 ロサンゼルスに活動拠点を移した。
『Atlas』
ギリシャ神話に出てくる神であり、地図帳とも訳される。
ツアーでLaurel Haloが訪れた様々な街で過ごした、黄昏時から夜にかけての街並みの中で感じたことを表現しているらしい。
ジャケのぼやけた映像も、黄昏時のようだ。
アンビエント
ドローン、細かい音たちの響きとズレて行く感覚
曖昧な輪郭や曖昧な時間の変化を構成するものを音で表現したようだ。
1 Abandon 4:02
ドローン
シンセの静かなうねり 細かく散りばめられた 遠くで海鳥が鳴いているような微かな声
時が音もなく揺れる
ストリングス
音の粒のアンビエント
2 Naked to the Light 4:19
ドローン
シンセの音、ストリングスが弾く音色 弓を弾き始めて音が減っていく波
反響がこもった感じのジャズ・ピアノ
3 Late Night Drive 4:55
ドローン
弦楽器の残響を漂わせながら、夕闇が深まり、視界が街灯の中で広がる世界で
金属音が反響して連続する
声も混じっていて 知り合いの居ない街で呼吸している
アウトロは闇に収まっていく
4 Sick Eros 4:23
讃美歌の響きのようなドローン
声が引き延ばされて シンセのドローン 響きが大きな振動になってブレとなっていく
5 Belleville 2:25
揺らぐピアノの音 ジャズのグルーヴで鳴っているのに
残響の別の要素が重なって
温かみのある
蝋燭の炎に不意に風が瞬きを揺らすようにストリングスや声などの音が不意に
6 Sweat, Tears or the Sea 2:46
シンセ 割れたような音も 左右に移動する音も
ズレて行く音 広がり 遠くで鳴っている音
7 Atlas 6:54
ピアノとストリングス、遠く柔らかく鳴っている音
様々な音が糸のように絡まって柔らかいシルキーな音色に
チェロ ルーシー・レイルトン、
ヴァイオリニン ジェイムズ・アンダーウッド、
サックス ベンディク・ギスク
8 Reading the Air 5:42
シンセ
サンプリングされた音の粒
細切れなストリングス
印象派なのかもしれない
9 You Burn Me 1:09
揺らぐピアノ
分散する音
10 Earthbound 4:17
ドローン
ストリングスの重なり
シンセの広がり
坂本龍一「12」を聴きたくなっている。
アルバムを聴き終えて
ATLAS
は新しい技法を試しているのか専門的なことは解らないが、
新しい地図帳を作りました
というメッセージがあるような気がする。
Bjorkのアルバム《Vespertine》(2001)が9・11同時多発テロを予言したように(「The WIRE 2001 Rewind」)
(www.thewire.co.uk/issues/charts/2001-rewind)
「A pentagonal peg in a terminally square pop world, Bjork crafted brittle, percussive winter songs on a record which equated the volcanic fjords of Iceland with the skyscraper valleys of Manhattan.」
(THE WIRE 215 Jan. 2002)