それで、と博士は視線を窓の外の芝生に遊びに来ているきれいな小鳥に移すと「ご質問はどういうことでしたかな」と客をうながした。
山野井は現在執筆中の記事に出てくる葵研究所の代表徳川虎之介について説明した。
「ほうほう、それで彼が行方不明になったと?」
「そういうわけじゃないんですけど、一時消息不明になりましてね。肝心の提携先の北国製薬でも連絡が取れなくなったそうでして。実は彼の研究所に取材に行ったんですが、行き先を誰にも告げずに引っ越した後でした。それで北国製薬に聞いたんです。担当者も移転の話は聞いていなかったようで、びっくりして慌てて電話で連絡したそうですが音信不明でした」
「ふーん。浮世離れしていますな」というと「所で貴方は煙草をやられないようだが、葉巻を吸ってもいいですかね。葉巻は匂いが独特だから嫌いだという人がいるから」
「いえ、そんなことはありません。どうぞやってください」
相手の家の応接間で、やってくださいなどと許可するようにいうのも妙だが山野井は博士の貫禄に押されてしまって言葉遣いまでおかしくなってしまった。
「それでそのまま連絡がとれないのですか」
「いえ、その後メールで新しい連絡先は伝えてきたのですが、住所は教えないそうです」
「妙だね」
というと博士は考え込んだ。おっと失礼というと極太の葉巻を取り上げると口の中に突っ込んだ。見ていると葉巻の吸い口を犬歯で食いちぎって横を向くとペッと噛みかすを床に吐き出した。
「それからは、メールと電話だけでやり取りをしているそうです。なんでも電話は嫌いなようでしてね。メールのことが多いそうです。私の場合などはもっぱらメールだけでして」
「ところで先生はよく宇宙人はうじゃうじゃいて地球にもしょっちゅう来ていると言われているそうですが、そんな話は一つも報道されていないようですが、宇宙人と言うのは人間と変わらないのですか」
「いやいや全然違います。火星人系、狐系、タコ系とまちまちですよ」
「へー、分かりませんね、街を歩けばすぐばれそうな気がするが」
「それは街を歩くときには人間の姿になるのですよ」
山野井はあんぐりと口を開けた。
「いや、これじゃわからないでしょうかね。説明しましょう。私の知っている方法では二種類あります。一つは擬態というかカメレオンのように姿かたちを相手に似せて変身するタイプの宇宙人がいる。もう一つは背のりと言う方法でね。
これは地球に下りる前に自分の幽体を分離するのですな。つまり自分の肉体を脱ぐんです。そうしてトランクルームかクローゼットに仕舞っておく。そうして地球で目星をつけた相手の背中にくっつくんですよ。昔からの言葉でいえば憑依ですね。狐憑きという言い方もある。現に私の肩にも先週一匹狐系がのっかっていましたよ」というと相手の反応を見るように山野井に顔に目を据えた。
奥のドアが開いて中年の女性がお茶を持って入ってきた。ドアを開けるときに博士の言葉の最後のほうを聞いたらしく、山直井に向かって信用してはだめですよ、と言った。
「何を言うか。真面目な話をしているのだ。来月文化俊住の記事に出るのだ」
「まあ、大変。まわりからなんといわれるか」と彼女は大きな目を見開いたのである。