しばらく様子を見ていたが熱は下がらない。鼻水は洪水のように出て来て止まらない。猛烈なくしゃみを壁を震わせて連発する。
まだ朝の行事がすんでいないことに気が付いて彼は立ち上がると、トイレに入った。顔を洗った。朝食にトーストを二枚焼いた。食べた後にいつも飲むコーヒーをどうしようかと思案した。
風邪の時はコーヒーはよくないのかな。昔からかれはそう思っていた。学生の頃に母親から注意されたのだ。たしかによくないような気がする。しかし、それを体験したことはない。第一長い間風邪をひいたことがないのだ。湯冷ましを飲んだがなんだか腹に落ち着かない。とうとうもう一度お湯を沸騰させていつもの通りの濃いコーヒーをいれた。用心して最初は一口飲んで様子を見た。具合が悪そうならそれ以上飲むのをやめようとして。
ところが、一口飲んだコーヒーが胃に落ちてからに、三分すると効果が覿面に表れた。しゃっきとしてきたのだ。意外だった。風邪気味だからとコーヒーを飲まなかったのが悪い影響を与えたのか。コーヒーを飲まないから症状が改善しないのか。にわとりが先か、タマゴが先か、みたいな問答を自問自答した。とにかく大丈夫そうだと残りのコーヒーを全部飲んでしまった。三十分後には寒気も去り、熱も下がり、風邪っ気も消えてしまった。
これは誰にでも通用することではあるまい。学生時代から非常に強いコーヒーを毎朝飲んでいたので一回でも飲まないと調子が狂ったのかもしれない。さて今日の町漁りはどこにしようかな、と計画する元気も出てきたのである。