「事ここに至った以上、『慰安婦』をめぐる日韓摩擦は原点から見直し
たらいい」
この言葉は9月3日の毎日新聞「風知草」の冒頭における山田孝男
記者の言葉である。
そして私はこの言葉を読んで驚いた。
「慰安婦問題を根本から見直す」ことは少なくとも日本側にとっては
タブーであるからだ。
しかしこのタブーを乗り越えなければ日韓関係はいつまでたっても真の
友好関係にはならない。
だから誰かがこれを言い出さなければならない。
そう思っていた時に山田孝男氏のこの言葉に出くわしたからだ。
慰安婦問題はなぜタブーか。
それは少なくともこれまでの日本の政治では答えを出せない困難な
問題であったからだ。
だからどんな政治家も有識者も、メディアも、慰安婦問題を根本から
見直す必要性は感じていても、それを正面から言えない、書けないのだ。
なぜそれほど慰安婦問題の解決が困難なのか。
この慰安婦問題は、一方において慰安婦問題は存在しなかった、だから
それを認めて謝罪した宮沢首相や河野談話は撤回せよ、という右翼側から
の声が根強くある。
しかし慰安婦問題を日本政府が否定したら日韓関係は成り立たない。
だから日本政府は慰安婦問題を認めて謝罪した。
その一方で、日本の韓国に対する戦後賠償は1965年の日韓基本条約
で「完全かつ最終的に解決」されている。だから日本の歴代政府は決して
国家賠償に応じることはできなかった。
知恵を絞りぬいて半官半民の「アジア女性基金」で償った。
これが村山談話なのだ。
つまりこれまでの、そして現在の政治家の知恵と器量でなし得ることは
村山談話しかない。
韓国の歴代の韓国政府もこの事を知っているはずだ。
韓国国内の慰安婦問題要求がどんなに強くても、それを外交問題にさせ
ないという自制が韓国政府側にも働いてきた。
韓国国内世論の手前、日本政府に要求する振りをしても、日本政府を
追い込むようなことはしなかった。
つまり日本政府は、慰安婦問題などなかったという国内の右翼的な意見
を抑え、韓国政府は、日本の国家賠償を求める韓国内の世論を抑えること
で、日韓関係の決定的悪化を封じ込めて来たのだ。
ところが李明博大統領はこれを破ってしまった。
その背景にはいうまでもなく韓国の憲法裁判所による国家賠償要求決定が
ある。
韓国と言う国と日本の違いは、日本の裁判所は国家を困らせるような判決
は決して下さないが韓国はそれをやってのけたということだ。
しかし、この場合でも、もし李明博大統領が強い政権であり、日韓関係を
重視する現実的対応を貫いたら、ここまでの問題にはならなかった。
やはり今日の問題の原因は李明博大統領の対応にもあったのだ。
果たして日韓両政府はどう対応すべきか。
韓国政府の対応については私がとやかくいう筋合いではない。
しかし日本側の対応については、私はやはり慰安婦問題をいつかは
根本的に見直すしかないと思っている。
そしてそれは早ければ早いほどいい。
その理由についてはここで詳しく書く余裕はない。
しかし山田孝男氏が極めて重要な指摘をしている。
慰安婦と言う言葉は日本は文字通りCOMFORT WOMENと訳している。
しかし海外報道はSEXUAL SLAVERY(性奴隷)と書かれている。
米国議会もクリントン米国務長官もそう言って慰安婦問題には厳しい。
何よりも国連人権委員会報告書がそう書いている。
このままでは日本は世界に恥をさらし続けることになる。
日本の将来の世代にとっては耐えられない屈辱である。
どのような解決を目指すにせよ、これからの日本の指導者はこの問題の
根本解決について韓国の指導者と本気で話し合うほかはない。
李明博大統領と野田首相の間での解決は無理だ。
いま日韓双方で新しい指導者選びに忙しい。
韓国の指導者について書く権利は私にはない。
しかし日本の指導者選びはお寒い状況だ。
どの顔を見てもろくな者はいない。
日韓両国国民は、国民を説得できる正しく強い指導者を一日もはやく選び
出さねばならない。
了
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