曲学阿世:真実を追求し、虚実の世間に迎合するようなことはしたくない。
真実を曲解し不正な情報によって世間の人々にこびへつらい、世間にとり入れられるような、ことはしたくない。
バンドラの箱と知らずに開けたトランプ大統領
2020年01月08日 08時52分51秒 | 政治より、転載させて頂きました。
「植草一秀の『知られざる真実』」
2020/01/08
パンドラの箱と知らず蓋開けたトランプ大統領
第2533号
ウェブで読む:https://foomii.com/00050/2020010806000062465
────────────────────────────────────
私が執筆している会員制レポート『金利・為替・株価特報』2019年12月
30日発行号に、2020年は海外での武力紛争発生の可能性が高まることを
記述した。
http://uekusa-tri.co.jp/report-guide/
1月2日、米国防総省はトランプ大統領が指示してイラン革命防衛隊司令官を
空爆で殺害したことを発表した。
米国とイランの緊張関係が一気に高まっている。
2017年4月、トランプ米大統領はシリア空軍基地に対してトマホークミサ
イル59基を打ち込む軍事攻撃を指揮した。
トランプ大統領は軍事オプションの活用に対して慎重な姿勢を示していたが、
突然の軍事攻撃に踏み切った。
シリアがサリンを使った化学攻撃を行ったことが理由とされたが真偽は定かで
ない。
今回、トランプ大統領はイラン最高指導者ハメネイ師直属のイラン革命防衛隊
の精鋭部隊である「コッズ部隊」ソレイマニ司令官殺害を指揮した。
ソレイマニ司令官は最高指導者ハメネイ師からの信頼が極めて厚く、イスラム
体制を支持する国民の間で英雄視されてきた人物である。
単に対外工作を担っていただけでなく、イランの外交軍事政策決定に直接関与
する重鎮だった。
イラン国民に与える影響力では実質的にイランナンバー2の地位にあったとの
見方もある。
ソレイマニ司令官の遺体は1月5日早朝、イランに帰還した。
1月6日にイランの首都テヘランで行なわれたソレイマニ司令官らの葬儀には
大群衆が参列し、祈りを主導した最高指導者アリ・ハメネイ師は司令官たちの
棺を前に涙を流し、すべての者が「アメリカに死を」と繰り返した。
イラン国営テレビは葬儀に参列した巨大な群衆の人数を「数百万人」と伝えて
いる。
米国はイランの対外工作を担う精鋭組織のコッズ部隊を外国テロ組織と見なし
てきた。
国防総省は、ソレイマニ司令官と指揮下の部隊が「米国や有志連合の要員数百
人の殺害、数千人の負傷に関与した」としている。
昨年末、12月27日の有志連合基地への襲撃では米国人業者とイラクの要員
が死亡した。
トランプ米大統領は1月3日、
「合衆国の軍は、世界随一のテロリスト、カセム・ソレイマニを殺害した空爆
を完璧な精度で実行した」
と述べるとともに、
「ソレイマニはアメリカの外交官や軍関係者に対する邪悪な攻撃を間もなく実
施しようとしていた。
しかし我々は、現行犯でそれを押さえ、あの男を終了させた」
と表明した。
この点に関して米国防総省は、1月3日の声明でソレイマニ司令官が「イラク
や中東全域で米外交官や米軍要員を襲撃する計画を積極的に進めていた」とし
た。
しかし、米紙ニューヨーク・タイムズの記者はツイッターで、
「ソレイマニ空爆後に諜報内容の説明を受けた2人の匿名米政府関係者を含む
消息筋の話」として、「アメリカの標的に対する攻撃が急迫していたと示唆す
る証拠は『かみそりの刃ほど薄い』ということだ」
と伝えている。
ニューヨーク・タイムズは、米国人が死亡した12月27日の有志連合基地襲
撃を受けて米軍幹部がソレイマニ司令官殺害を「最も極端な選択肢」としてト
ランプ大統領に提示したものをトランプ大統領が採用したと伝えている。
同紙は、国防総省は歴代大統領に非現実的な選択肢を示すことで他の選択肢に
大統領を誘導する手法を採用しており、トランプ大統領がソレイマニ司令官殺
害を選択することを想定していなかったとしている。
トランプ大統領は12月28日に司令官殺害を選択せず、親イラン武装組織へ
の空爆を承認したが、その後にイラクの在バグダッド米大使館が親イラン民衆
に襲撃される様子をテレビで見て司令官殺害を決断したのだという。
国防総省幹部がこの決断に衝撃を受けたとしている。
米国内では民主党幹部のナンシー・ペロシ下院議長が、「政権がイランに対す
る武力行動の実施を決定したタイミングとやり方、そしてその正当性につい
て、深刻で喫緊な疑問が出てくる」と述べている。
米国でいえば、ペンス副大統領が突然、イランの武装ドローンによって殺害さ
れたようなものだ。
ハメネイ師は1月3日のツイッターで「血で手を汚した犯罪者には厳しい報復
が待っている」と発言している。
トランプ大統領の行動はすべてが大統領選への影響を考慮した「計算ずく」の
ものになっているが、強い態度に出れば相手が必ず引き下げるとの判断は、日
本以外には通用しない。
今後の不測事態発生のリスクが格段に上昇したと言える。
ソレイマニ司令官の葬儀に際してイランは、3日間を喪に服する期間とした。
したがって、直ちに重大な事態が発生する可能性は低いが、喪が明けてからの
状況には細心の注意が必要になる。
イランが米国と直接対峙すれば、米国が優位であることは明白だ。
しかし、すでに中国とロシアがイラン支持を明確に打ち出している。
イランは明確に核合意からの離脱意向を表明している。
イランは急速に核武装の方向に動き始めることになる。
中東ではすでにイスラエルが核武装国である。
イスラエルの核武装は公然の秘密である。
トランプ大統領はイスラエル勢力の支援で大統領に就任した。
すべての施策が極端なイスラエルシフトを示している。
サウジアラビアはスンニ派国家の雄である。
このサウジアラビアの最大の敵がシーア派国家の雄イランなのだ。
アラブの石油産出国は欧米資本と王族が結託して支配しているが、イランだけ
が革命によってイスラム民衆勢力による石油支配を実現している。
このため、米国巨大資本はイランと敵対するアラブ王族の石油支配と深い癒着
関係を持つ。
イスラム国家であるサウジアラビアは、イランとは連帯せず、イランと敵対す
るイスラエルと結託している。
イランが核武装に進めば、当然のことながらサウジアラビアも核武装に突き進
むと考えられる。
トランプ大統領は再選を確保するためにイスラエルの全面支援が絶対に必要で
ある。
そのためにトランプ大統領はイランとの全面敵対姿勢を明示しなければならな
い。
このことから、米国は2015年に成立したイラン核合意から離脱した。
イラン核合意はイランが核開発を放棄することと引き換えに、イランに対する
経済政策を緩和するというものだった。
英米仏独中ロとイランの間で成立した合意である。
しかし、米国は核合意から離脱して対イラン経済制裁を再開した。
この時点から米国とイランの関係が急激に悪化している。
また、軍事オプションの活用は大統領支持率を高めるうえで好都合とトランプ
大統領が判断している事情がある。
トランプ大統領は海外における軍事行動に基本的に慎重な姿勢を維持してきて
いる。
しかし、何もやらない大統領は大統領選への影響上は不都合だとトランプ大統
領は考える。
同時に米国の軍産複合体にとって、海外における軍事紛争は存続・拡大のため
の生命線だ。
北朝鮮との和解が進まない最大の原因もこの点にある。
トランプ大統領は大統領選への影響を考慮して、米国軍産複合体を敵に回すこ
とができない。
そのために、効果的に軍事オプションを活用することが必要であると判断して
いると思われる。
そのなかで、今回、ソレイマニ司令官殺害という軍事オプションが選択され
た。
トランプ流の交渉術は強気の姿勢を鮮明に示すことだ。
日本の場合は、100%、あるいは200%の達成率でこの戦術が功を奏す
る。
しかし、この手法は対北朝鮮では有効でなかった。
対中国でも有効でなかった。
対イランでも有効でないと考えられる。
イランは直接的な対応を示さないだろうが、世界中に張りめぐらせている地下
組織、秘密組織を総動員して、必ず復讐を仕掛けてくると考えられる。
イラン中枢が直接指揮しなくても、各地下組織、秘密組織が自発的に行動する
可能性も高い。
軍事紛争はボタンの掛け違いから勃発することが多い。
トランプ大統領は開くべきではないパンドラの箱を開けてしまったように見え
る。
そして、その箱の底には希望がないかも知れない。
真実を曲解し不正な情報によって世間の人々にこびへつらい、世間にとり入れられるような、ことはしたくない。
バンドラの箱と知らずに開けたトランプ大統領
2020年01月08日 08時52分51秒 | 政治より、転載させて頂きました。
「植草一秀の『知られざる真実』」
2020/01/08
パンドラの箱と知らず蓋開けたトランプ大統領
第2533号
ウェブで読む:https://foomii.com/00050/2020010806000062465
────────────────────────────────────
私が執筆している会員制レポート『金利・為替・株価特報』2019年12月
30日発行号に、2020年は海外での武力紛争発生の可能性が高まることを
記述した。
http://uekusa-tri.co.jp/report-guide/
1月2日、米国防総省はトランプ大統領が指示してイラン革命防衛隊司令官を
空爆で殺害したことを発表した。
米国とイランの緊張関係が一気に高まっている。
2017年4月、トランプ米大統領はシリア空軍基地に対してトマホークミサ
イル59基を打ち込む軍事攻撃を指揮した。
トランプ大統領は軍事オプションの活用に対して慎重な姿勢を示していたが、
突然の軍事攻撃に踏み切った。
シリアがサリンを使った化学攻撃を行ったことが理由とされたが真偽は定かで
ない。
今回、トランプ大統領はイラン最高指導者ハメネイ師直属のイラン革命防衛隊
の精鋭部隊である「コッズ部隊」ソレイマニ司令官殺害を指揮した。
ソレイマニ司令官は最高指導者ハメネイ師からの信頼が極めて厚く、イスラム
体制を支持する国民の間で英雄視されてきた人物である。
単に対外工作を担っていただけでなく、イランの外交軍事政策決定に直接関与
する重鎮だった。
イラン国民に与える影響力では実質的にイランナンバー2の地位にあったとの
見方もある。
ソレイマニ司令官の遺体は1月5日早朝、イランに帰還した。
1月6日にイランの首都テヘランで行なわれたソレイマニ司令官らの葬儀には
大群衆が参列し、祈りを主導した最高指導者アリ・ハメネイ師は司令官たちの
棺を前に涙を流し、すべての者が「アメリカに死を」と繰り返した。
イラン国営テレビは葬儀に参列した巨大な群衆の人数を「数百万人」と伝えて
いる。
米国はイランの対外工作を担う精鋭組織のコッズ部隊を外国テロ組織と見なし
てきた。
国防総省は、ソレイマニ司令官と指揮下の部隊が「米国や有志連合の要員数百
人の殺害、数千人の負傷に関与した」としている。
昨年末、12月27日の有志連合基地への襲撃では米国人業者とイラクの要員
が死亡した。
トランプ米大統領は1月3日、
「合衆国の軍は、世界随一のテロリスト、カセム・ソレイマニを殺害した空爆
を完璧な精度で実行した」
と述べるとともに、
「ソレイマニはアメリカの外交官や軍関係者に対する邪悪な攻撃を間もなく実
施しようとしていた。
しかし我々は、現行犯でそれを押さえ、あの男を終了させた」
と表明した。
この点に関して米国防総省は、1月3日の声明でソレイマニ司令官が「イラク
や中東全域で米外交官や米軍要員を襲撃する計画を積極的に進めていた」とし
た。
しかし、米紙ニューヨーク・タイムズの記者はツイッターで、
「ソレイマニ空爆後に諜報内容の説明を受けた2人の匿名米政府関係者を含む
消息筋の話」として、「アメリカの標的に対する攻撃が急迫していたと示唆す
る証拠は『かみそりの刃ほど薄い』ということだ」
と伝えている。
ニューヨーク・タイムズは、米国人が死亡した12月27日の有志連合基地襲
撃を受けて米軍幹部がソレイマニ司令官殺害を「最も極端な選択肢」としてト
ランプ大統領に提示したものをトランプ大統領が採用したと伝えている。
同紙は、国防総省は歴代大統領に非現実的な選択肢を示すことで他の選択肢に
大統領を誘導する手法を採用しており、トランプ大統領がソレイマニ司令官殺
害を選択することを想定していなかったとしている。
トランプ大統領は12月28日に司令官殺害を選択せず、親イラン武装組織へ
の空爆を承認したが、その後にイラクの在バグダッド米大使館が親イラン民衆
に襲撃される様子をテレビで見て司令官殺害を決断したのだという。
国防総省幹部がこの決断に衝撃を受けたとしている。
米国内では民主党幹部のナンシー・ペロシ下院議長が、「政権がイランに対す
る武力行動の実施を決定したタイミングとやり方、そしてその正当性につい
て、深刻で喫緊な疑問が出てくる」と述べている。
米国でいえば、ペンス副大統領が突然、イランの武装ドローンによって殺害さ
れたようなものだ。
ハメネイ師は1月3日のツイッターで「血で手を汚した犯罪者には厳しい報復
が待っている」と発言している。
トランプ大統領の行動はすべてが大統領選への影響を考慮した「計算ずく」の
ものになっているが、強い態度に出れば相手が必ず引き下げるとの判断は、日
本以外には通用しない。
今後の不測事態発生のリスクが格段に上昇したと言える。
ソレイマニ司令官の葬儀に際してイランは、3日間を喪に服する期間とした。
したがって、直ちに重大な事態が発生する可能性は低いが、喪が明けてからの
状況には細心の注意が必要になる。
イランが米国と直接対峙すれば、米国が優位であることは明白だ。
しかし、すでに中国とロシアがイラン支持を明確に打ち出している。
イランは明確に核合意からの離脱意向を表明している。
イランは急速に核武装の方向に動き始めることになる。
中東ではすでにイスラエルが核武装国である。
イスラエルの核武装は公然の秘密である。
トランプ大統領はイスラエル勢力の支援で大統領に就任した。
すべての施策が極端なイスラエルシフトを示している。
サウジアラビアはスンニ派国家の雄である。
このサウジアラビアの最大の敵がシーア派国家の雄イランなのだ。
アラブの石油産出国は欧米資本と王族が結託して支配しているが、イランだけ
が革命によってイスラム民衆勢力による石油支配を実現している。
このため、米国巨大資本はイランと敵対するアラブ王族の石油支配と深い癒着
関係を持つ。
イスラム国家であるサウジアラビアは、イランとは連帯せず、イランと敵対す
るイスラエルと結託している。
イランが核武装に進めば、当然のことながらサウジアラビアも核武装に突き進
むと考えられる。
トランプ大統領は再選を確保するためにイスラエルの全面支援が絶対に必要で
ある。
そのためにトランプ大統領はイランとの全面敵対姿勢を明示しなければならな
い。
このことから、米国は2015年に成立したイラン核合意から離脱した。
イラン核合意はイランが核開発を放棄することと引き換えに、イランに対する
経済政策を緩和するというものだった。
英米仏独中ロとイランの間で成立した合意である。
しかし、米国は核合意から離脱して対イラン経済制裁を再開した。
この時点から米国とイランの関係が急激に悪化している。
また、軍事オプションの活用は大統領支持率を高めるうえで好都合とトランプ
大統領が判断している事情がある。
トランプ大統領は海外における軍事行動に基本的に慎重な姿勢を維持してきて
いる。
しかし、何もやらない大統領は大統領選への影響上は不都合だとトランプ大統
領は考える。
同時に米国の軍産複合体にとって、海外における軍事紛争は存続・拡大のため
の生命線だ。
北朝鮮との和解が進まない最大の原因もこの点にある。
トランプ大統領は大統領選への影響を考慮して、米国軍産複合体を敵に回すこ
とができない。
そのために、効果的に軍事オプションを活用することが必要であると判断して
いると思われる。
そのなかで、今回、ソレイマニ司令官殺害という軍事オプションが選択され
た。
トランプ流の交渉術は強気の姿勢を鮮明に示すことだ。
日本の場合は、100%、あるいは200%の達成率でこの戦術が功を奏す
る。
しかし、この手法は対北朝鮮では有効でなかった。
対中国でも有効でなかった。
対イランでも有効でないと考えられる。
イランは直接的な対応を示さないだろうが、世界中に張りめぐらせている地下
組織、秘密組織を総動員して、必ず復讐を仕掛けてくると考えられる。
イラン中枢が直接指揮しなくても、各地下組織、秘密組織が自発的に行動する
可能性も高い。
軍事紛争はボタンの掛け違いから勃発することが多い。
トランプ大統領は開くべきではないパンドラの箱を開けてしまったように見え
る。
そして、その箱の底には希望がないかも知れない。