Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

情婦

2019-09-21 | 映画(さ行)


◼️「情婦/Witness For The Prosecution」(1957年・アメリカ)

監督=ビリー・ワイルダー
主演=タイロン・パワー マレーネ・ディートリッヒ チャールズ・ロートン エルザ・ランチェスター

ビリー・ワイルダー監督作が大好きだ。初めて観たのは、テレビでやってた「フロント・ページ」(1974)だった。ラストシーンのひと言に中坊だった僕は、粋な台詞ってこんなんのことなのか、と強く印象に残っていた。映画少年として色々観て、素敵なコメディ作品でますます好きになった。でもワイルダー好きを一層拍車をかけた映画が2本ある。ひとつは保険金殺人のサスペンス「深夜の告白」(1944)、そしてもうひとつはこの「情婦」だった。サスペンス撮らせてもこんなに凄いのか!衝撃だった。

大学時代、陪審員制度を研究するゼミに所属していた。だって教授が映画「12人の怒れる男」や「評決」を授業の題材にしているんだもん!オレが参加しないで誰が参加するんだよ。レンタル店で観られる法廷映画を片っ端から観た。弁護士が主人公というだけで、ジャッキー・チェンの「サイクロンZ」まで観た。そして手にしたのがワイルダーの「情婦」。アガサ・クリスティの「検察側の証人」の映画化である。

退院したばかりで静養が必要と小言を言われている法廷弁護士ロバーツの元に、老婦人殺害容疑を疑われているレナードが訪れる。不利な証拠ばかりの中、無罪を主張する彼を信じたロバーツは、弁護を引き受ける。アリバイを証言できるのは妻だけ。妻クリスチーネはミステリアスで、ロバーツは妻の証言は法廷では信用されにくく不利になるから、と証人とはしないつもりだった。審理が始まり、ロバーツは検察が示す証拠に疑問を投げかける戦いに出た。そこで検察側が新たに証人として呼んだのは、妻のクリスチーネだった。驚くべき新たな証言。世間が裁判の結果に注目する中、ロバーツの元に電話が…。

クリスティ原作なんだから、法廷ものとして面白いのは当たり前。この映画が面白いのは、登場人物それぞれのキャラクターが際立って魅力的だからだ。チャールズ・ロートン 演ずる弁護士ロバーツの老練なネチっこさ、事件を追う真剣な表情が、時に無邪気にも見える表情に変わるギャップ。階段に備えられた昇降機にご満悦な表情は印象的。一方で表情が読めないクールなマレーネ・ディートリッヒが素晴らしい。この対比が醸し出すムードが最高潮になったところで、後半突然の新展開が待っている。

「愛情物語」などでクリーンなイメージのタイロン・パワー、おしゃべり看護士エルザ・マンチェスターら役者の個性、キャスティングの妙。そしてワイルダーの見せ方のうまさが随所に光る。これだけキャラクターが強いのに、まだ見せてない部分を次々と畳み掛けてくる。それはミステリーとしての畳み掛けだけではなくて、人物描写も然り。ラストシーンの看護士のひと言なんて痛快としか思えない。この辺りがコメディでワイルダー監督が培った強みの部分なんだろう。多くは語れないが、怒涛のクライマックスが待っている。傑作。



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