◼️「岸辺露伴ルーヴルへ行く」(2023年・日本)
監督=渡辺一貴
主演=高橋一生 飯豊まりえ 木村文乃 長尾謙杜 安藤政信
ジョジョのスピンオフである岸辺露伴の物語を実写ドラマにするなんて大丈夫?と、初めてドラマを見る時に思った。高橋一生のキャスティングもどーせ人気者を据えただけだろう。かつてジブリアニメで、中坊のくせに同級生にプロポーズするバイオリン小僧を演じて、僕をドン引きさせた男やぞ(笑)。ところが。初回「富豪村」を見てぶっ飛んだ😳。やばっ。かっけー。何度か見て、最後はテレビに向かって「だが断る!」を唱和してしまうお気に入りに。その劇場版である。
この世で最も黒い色で描かれた絵をめぐって、露伴自身の過去の因縁が絡むエピソード。若い頃に聞いた黒い絵に出会うために絵画オークションに参加した露伴は、事件に巻き込まれる。取り返した絵のキャンバスの裏側には、"ルーブルで見た黒、後悔"との文字が。漫画の取材、そして絵の謎を解くために岸辺露伴と担当編集者泉は、パリへ。
若き日の露伴がある夏出会った黒髪の女性。彼女の口から聞かされた黒い絵。彼女をモデルに描いた露伴の絵に対する過剰な反応。記憶と目の前の事件で頭の中が混沌とする中で、さらにルーヴル美術館の地下倉庫という迷宮的な舞台が用意されて、雰囲気はさらに高まっていく。
「岸辺露伴は動かない」はスピンオフでありながら、バトルが楽しい「ジョジョ」本編とは違う怪奇ミステリー。僕は「Fate」シリーズの中でも、同じようにミステリー要素が強い「ロード・エルメロイⅡ世の事件簿」が大好きなだけに、そもそも原作のテイストが自分に合っている。地下倉庫で「プロットを思いついたよ」と語り始める露伴先生。それは事件の謎解きの始まりだ。でも映画はそこで終わらず、露伴の記憶の謎解きが控えている二重構造。本物と偽物が本編を貫くキーワード。それを骨董屋でのエピソードで見せつける巧さ。ドラマの尺に慣れているから映画が冗長に感じるのではないかと思ったが、全くそんなことはなく、エンドクレジットが名残惜しくさえ思う。
そしてこの作品は映画館でこそ観るべき。本作を彩る黒は、テレビでは表現できない黒であるべきだからだ。「チコちゃんに叱られる」でも言っていたが、映画館の暗闇は深みのある究極の黒を表現するために必要なもの。映像の陰影が全く違うし、白黒の深みもより黒いものが表現できるという。露伴先生が落札するフランス人画家の黒い絵、木村文乃の美しい黒髪、露伴が描いた原稿のベタ塗り、飯豊まりえの黒いリボン(泉京香役の髪型好き♡)、ルーヴル美術館のモナリザの黒髪。そしてクライマックスに登場する黒い絵、そこに描かれたもの。画面が暗すぎてなんかわからんという感想もあるだろうが、明度の高いテレビ画面では味わえない黒がそこにはある。
映画館で黒とミステリーを味わうべし。