◼️「マルサの女」(1987年・日本)
監督=伊丹十三
主演=宮本信子 山崎努 津川雅彦 大地康雄 桜金造
伊丹十三監督の新作が毎年楽しみだった。それだけに亡くなった時はショックだった。監督第1作の「お葬式」観たのが高校卒業式の数日後。リアルタイムで観ている邦画の映画監督はたくさんいるけれど、こんなにハマった人はいない。「静かな生活」以外は全部観ている。「マルサの女」は大学時代。同時上映は吉永小百合主演「映画女優」。市川崑と伊丹十三の新作二本立てって、今思うとすごいな。
脱税を扱う映画なんて他に聞いたことないし、公開当時は自分がまだ納税者でもなかったから、本編に登場する脱税の手口、独特な登場人物たち、それに対抗する税務署の面々、そして大人の世界がただただ面白くって。税務署のお仕事映画としても、犯罪映画としても面白い。テレビで放送されるから、親に「これ面白いでぇ!」と伝えたら、ファーストシーンでいきなり老人がおっぱい吸ってるから、ドン引きされたっけ😅。
それからウン十年経って、ええ歳した社会人の目線でこの映画観ると、あの頃とは気になるポイントが違う。登場人物を深掘りしてしまうのだ。男性中心のあの時代にシングルマザーでハードワークをこなす板倉亮子。私生活は描かれないが物語の裏で辛いことあるんだろうな、と想像してしまう。それだけに権藤の息子太郎が叱られて家を飛び出す場面でのやり取りで感じる温かさは、公開当時の自分には十分に分からなかっただろな。架空名義の口座はないと言い張る銀行は悪として描かれるけれど、個人情報など難しいことが言われなかった時代のユルさ。「泣いて百万でも二百万でも助かるんならいくらでも泣いてやる」と伊東四朗が電柱に抱きついて泣く場面は、あの頃はただ笑ってたけれど、今ならその気持ちも分からんではないw。
そしてラストシーン。初めて観た時は、権藤が単に観念したんだと思っていた。けれど今観ると税をめぐっては対立する関係でありながらも、お互いを認め合っていることが無言でも感じられるのがいい。酒場に亮子が忘れていったハンカチを権藤が持っていて、それに血文字で番号を記して亮子に返す。あんたに一目置いている、息子のことで感謝している、でも自分を追い詰めた相手、暗証番号は教えるのは観念してるのだけど、些細な抵抗と別れのサイン。改めて台詞の少ないこのラストにシビれた。
本多俊之の有名なテーマ曲。5拍子に艶のあるソプラノサックス。