Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

トスカニーニ

2019-09-11 | 映画(た行)




◼️「トスカニーニ/Young Toscanini」(1988年・イタリア=フランス)

監督=フランコ・ゼフィレッリ
主演=C・トーマス・ハウエル  ソフィー・ワード エリザベス・テイラー  ジョン・リス・デイビス

ブラッドパックと呼ばれた80年代の若手俳優たち。「アウトサイダー」や「セントエルモス・ファイヤー」などで活躍した彼らも、80年代の終わりにさしかかり、いつまでもStay Gold な青春スターでいられなくなってくる。この映画「トスカニーニ」の主役を演ずるC・トーマス・ハウエルもそんな一人だ。

この映画が公開されたのは、新元号「平成」が始まったばかりの頃で、春の新年度を控えている時期だったと記憶している。僕もその年の春から社会人になる。いつまでもStay Gold な青春野郎ではいられなくなっていた。

「トスカニーニ」は、偉大な指揮者として知られるアルトゥーロ・トスカニーニの若き日々、そして指揮者デビューのエピソードを描いた作品。憧れのミラノ・スカラ座の楽団員募集に応募したアルトゥーロは、審査員の態度に腹を立て試験会場を飛び出す。そんな彼に、歌劇団を率いている男が声をかけた。彼は南米にオペラの公演に向かうところで、アルトゥーロはその一行に加わることになる。道中で、若い修道女マルゲリータと出会う。アルトゥーロが音楽家だと知った彼女は、彼にこう言う。
「音楽は混沌を調和に導くもの。素晴らしいことだわ。」

リオに着いたアルトゥーロに任されたのは、引退していた歌姫ナディア・ブリチョフのトレーニングに付き合うこと。若造に指導されることに怒る彼女だが、次第に彼の実力を認めることになる。折しも奴隷解放運動真っ只中のリオ。街中でマルゲリータに再会。もっと親しくなりたくても、彼女は神に仕える身。募る切ない恋心。そして訪れる歌劇「アイーダ」の初日。ところが楽団員と指揮者の間でトラブル起こって、アルトゥーロに指揮者の代役が…。

監督は「ロミオとジュリエット」「チャンプ」のフランコ・ゼフィレッリ。彼の代表作と比べたら、「トスカニーニ」は確かに名作とは言い難いし、世間の評価も今ひとつ。歌姫ナディアを演じたエリザベス・テイラーは貫禄だし、修道女マルゲリータ役「ヤング・シャーロック」のソフィー・ワードも可憐でいい印象を残してくれる。でもトーマス・ハウエルがどうしても背伸びして頑張っている感じで、野心的なギラギラ感はあっても音楽家として音楽を紡ぎ出す高揚感や喜びがどうも伝わらなかった、この映画の評価も残念ながら決して高くはない。

80年代末期は、南アフリカのアパルトヘイト政策への批判を多くのアーティストが訴えていた時代。あのクィーンだって、南アフリカの白人専用リゾートで公演したことから音楽家のブラックリストに挙げられ、アフリカ救済のチャリティ企画バンドエイドに招かれなかった(その後復権して出演することになるのが、「ボヘミアン・ラプソディ」のクライマックスに出てくるライブエイドである)。映画「トスカニーニ」では、歌劇「アイーダ」の黒人奴隷が出てくる場面で奴隷解放を出演者が訴えるシーンも出てくるし、奴隷解放運動も描かれる。こうした反アパルトヘイト色を感じさせる演出は意図されたものだろうが、純粋に音楽を賛美する、若きトスカニーニを讃える映画になれなかった一因でもある。

だけど、僕はこの映画が嫌いになれない。それはマルゲリータの台詞、「音楽は混沌を調和に導くもの」のひと言が心に響いたからだ。吹奏楽部出身でバンドもやってた僕は、周囲とうまくやっていくことの大切さを音楽に携わることで学んだ。ハーモニーは調和だ。この台詞は、そんな思いを間違ってなかったんだなと感じさせたひと言でもある。そして、僕は社会人としての春を迎えた。時にはこの映画のトーマス・ハウエルのように空回りもしたけれどさ。てへ。

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ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -

2019-09-10 | 映画(あ行)


◼️「ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝
- 永遠と自動手記人形 -」(2019年・日本)

監督=藤田春香
声の出演=石川由依 寿美菜子 悠木碧 子安武人 内山昂輝

テレビアニメ「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」には毎週泣かされた。戦場で"兵器"として殺戮することしか知らなかった少女が、上官となったギルベルトから初めて優しさを知る。彼の最期の命令は「生きろ」、そして少女が聞いたことのない「愛してる」のひと言だった。戦争が終わり、ギルベルトの友人クラウディアが経営する郵便会社で手紙の代書をする仕事に就くことになる。ヴァイオレットが様々な人と接する中で「愛してる」の意味を探す物語。第一次世界大戦後のヨーロッパを思わせる時代と舞台設定は「キャンディキャンディ」世代の僕らにはかなりツボだし、頑なだったヴァイオレットの成長と、手紙に託す人の思い、それを伝える言葉の大切さに毎回感動させられた。

今回「外伝」として製作されたこの作品は、手紙代書屋のヴァイオレットが、寄宿制学校にいる良家の子女イザベルの侍女兼家庭教師として送り込まれるストーリー。テレビシリーズの延長上だが、映画前半の主軸はイザベルの荒んだ心がヴァイオレットによって次第に和らいでいく様子だ。最初から良家に生まれた訳ではないイザベルの生い立ち。ヴァイオレットは自分の過酷な生い立ちを語ることはないが、ちょっとした台詞にずしりと重みがある。テレビシリーズを知らずとも、イザベルと生き別れた妹テイラーを手紙でつなぐヴァイオレットの姿に感動できる。テレビシリーズを知っているとヴァイオレットの言葉の背景が理解できて、さらに感動は深まるだろう。人とつながることを苦手と感じている人、過去に関わった誰かに伝えられなかった気持ちを募っている人。誰もが抱えるそんな気持ちに、この作品はそっと寄り添ってくれる。

それにしても京都アニメーションの仕事の緻密さ。自然、天候、背景、表情、動き、構図。絵の描写の繊細さだけでなく、物言わぬ場面なのに登場人物の気持ちがひしひしと伝わる構成の見事さ。特に「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」は主人公が寡黙なだけに表現の巧さが感じられる。今他のアニメ作品を映画館で観ても、ただの大画面にしか感じないかもしれない。それだけ自分の気持ちが高まっているのだろう。

テレビシリーズで泣かされたクチなのだが、今回は特別。あの事件があっただけに、監督の意向で今回は経験の浅い人も含めてすべてのスタッフの名前がエンドロールに載せられた。下から上へと流れていく名前を見ながら、僕は泣きそうでくちびるの震えが止まらなかった。そのシネコン最大キャパのシアター、誰ひとりエンドロールで席を立つことはなかった。


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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

2019-09-07 | 映画(わ行)


◼️「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド/Once Upon A Time In Hollywood」(2019年・アメリカ)

監督=クエンティン・タランティーノ
主演=レオナルド・ディカプリオ ブラッド・ピット マーゴット・ロビー カート・ラッセル

うーん…確かに楽しい。タランティーノ映画に挿入されるオマージュ描写や小ネタが大好きな僕にとっては満足度は高い。でも絶賛したいとは思わない。

こんなこと書くと「これを高評価しないなんて、お前の映画愛はその程度なのか?」「ブラピとレオ様の共演に感激しないの?」とか言われそう。僕は"バイオレンス嫌いのタランティーノ好き"という屈折した映画ファンなので(笑)、この映画にも惚れるポイントとそうでないポイントがある。それだけだ。ともかくこの映画をリトマス試験紙のように扱わないで欲しい。手放しで絶賛はしないけど、素敵な映画なんだもの。

タランティーノが1969年を舞台に選んだのは、自分が幼い頃の時代の空気を再現したかったんだろう。みんなが映画館で歓声をあげ、テレビ番組に夢中になれた時代。「デスプルーフ」の前半には70年代テレビドラマの話題が盛り込まれていたが、本作ではもっと前の時代、「FBI」「グリーンホーネット」「バットマン&ロビン」「コンバット」などの名前が登場する。親が見ていた外国ドラマだっよな。当時撮影現場でアクション指導をしていた無名時代のブルース・リーが登場する場面は、この映画でも好きな場面のひとつ。ここでブラピは彼を「カトウ」(「グリーンホーネット」でブルースが演じた役)と呼ぶ。あー、好き好きこういうネタ。マーゴット・ロビー演ずるシャロン・テートが映画館で出演作「サイレンサー/破壊部隊」を観る場面も好き。映画やテレビの身近なエンタメが主人公だけでなく多くの人に愛されていたと感じさせる素敵なシーン。

僕は「キル・ビル」(特にvol.2)や「ジャッキー・ブラウン」のグッとくるラストには、ブルースギターの"泣き"フレーズのように感激してしまう。落ち目スタアを演ずるレオナルド・ディカプリオが悪役で出演する西部劇撮影現場の場面もよかった。
「今までの人生でサイコーの演技だったわ」
って、8歳の子役に言われるのは笑うしかないんだけど、そこに励まされているディカプリオになんか人生を感じるじゃない。そしてスタントマンとして彼を支えるブラピのひと言。
「お前はリック・ダルトン様だ。忘れんな」
短いながらも相手を理屈抜きに認めている台詞。これ実生活で言えたらカッコいいよなー、とつまらないことを考える。そんな二人が映画の最後に交わす言葉。
「オレたちいい友達だろ」「努力してる」
短い会話に二人のビミョーな関係が感じられる。タランティーノ映画の魅力って、脚本だな、台詞なんだな、と改めて感じた。

なかなか人が死なないな…と思ったら最後の最後に大暴走。バイオレンス描写はタランティーノ映画には付き物なのでいいんだけど、「イングロリアス・バスターズ」以来久々にドン引き(汗)

これまでタランティーノは愛する映画たちを演出や台詞の中にうまく引用してオマージュを捧げてきた。でも今回は本編映像をサンプリングしている。権利関係をクリアするのに裏側の苦労もあったのでは…と思う。「サイレンサー/破壊部隊」、シャロン・テートのアクション場面は、この映画で実際に見られるからこそ興味をそそられるし、ブルース・リーがあの時代にいたんだと感慨深くしてくれる。

主人公リック・ダルトンが「大脱走」でスティーブ・マックイーンが演じた役の候補だった、というエピソードが出てくる。今までなら台詞で済ませていたし、それで十分に彼がビッグだったことは伝わるだろう。でも今回は本編映像でレオ様の顔をコラージュして使った。悪いな、タランティーノ。このおふざけはやり過ぎだ。「ローグワン」でピーター・カッシングとあの人を蘇らせた技術が今のハリウッドにはある。あれはストーリー上のつながりの必要からだろうし、効果絶大だった。でも、スティーブ・マックイーンの顔をすげ替えるだと?監督もリスペクトしているはずの「大脱走」をイジるだと?それは愛なのか?僕はこの場面に感じたイライラを結局最後まで引きずった。

結末には唖然…。でも、これは映画という名の御伽草子。
むかーしむかし、ハリウッドで…
で始まる大人の童話なのだ。


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サイレンサー/破壊部隊

2019-09-05 | 映画(さ行)


◼️「サイレンサー/破壊部隊/The Wrecking Crew」(1968年・アメリカ)

監督=フィル・カールソン
主演=ディーン・マーチン エルケ・ソマー ナイジェル・グリーン シャロン・テート

"やめられない止まらない"のは某スナック菓子だけじゃなくて、タランティーノ映画も然り。紐付けで関連作についつい手が伸びる。もちろん好きな人は…ですけど。「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」で、マーゴット・ロビー演ずる女優シャロン・テートが、自分の出演作を映画館で観る場面が出てくる。その作品がこの「サイレンサー/破壊部隊」。ディーン・マーチンがプレイポーイスパイ、マット・ヘルムを演じるシリーズ第4作である。

シャロン・テートはマット・ヘルムをサポートするドジっ娘を演じている。登場シーンでいきなりパンチラ、アクションシーンにも挑む。殺害事件前、最後の出演作品とか思うと複雑な思い。

「サイレンサー」シリーズはこれで第1作以外は観た。最終作となったこの第4作は確かにお話はハチャメチャだし、ツッコミどころも満載。酒焼けしたような肌の色したディーン・マーチン は、登場からラストまでとにかくエロオヤジモード全開。女性に近づくと自身の歌がバックに流れるコメディのノリ。ほんとに腕利きスパイなの?と呆れてしまうけど、任務はやり遂げる。やるときゃやる。

この映画の見どころのひとつはアクション。この映画のアクション指導を担当したのはあのブルース・リー。しかも悪党一味の一人には「ドラゴンへの道」のクライマックスで対決するチャック・ノリスまでいるという嬉しさ。今まで観た2作目、3作目もお気楽な映画だけど、この第4作がいちばん満足度は高いかも。オシャレなタイトルバックと音楽、「そして誰もいなくなった」もお綺麗だったエルケ・ソマーや東洋系のナンシー・クワンと美女揃い。

サイレンサー 第4弾 破壊部隊 [DVD]
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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