◾️「櫻の園」(2008年・日本)
監督=中原俊
主演=福田沙紀 杏 寺島咲 大島優子 はねゆり
1990年の「櫻の園」は素晴らしかった。彼女たちの揺れる心情が、大げさな台詞も芝居もないのに、短い言葉だけ、黙ってうつむくだけで伝わってくる。お気に入りの作品だ。同じ中原俊監督で、その後の桜華学園を撮ったのがこの2008年版。ん?なんだろ、この1990年版とは違う感じ。冒頭から感じた違和感は最後まで解消されないままだった。
違和感の原因は言葉の数だと思うのだ。1990年版がすごかったのは、演劇部員たちの自然な会話でも、状況説明や開演時間が迫る中で陥いる危機、そして彼女たちの心情まで伝わること。しかも開演前の限られた時間≒上映時間なので、上映時間≒映画の時間経過という西部劇「真昼の決闘」に通ずる緊張感があったのだ。
ところが、2008年版はとにかくよく喋る。状況説明の役割をする台詞が次々と出てきて、とにかくくどいのだ。毎年創立記念日に演じられてきた伝統の「桜の園」が途切れてしまった理由は、校務員役の大杉漣に念入りに語らせる。それは、かつて演劇部だった姉の代に起こった事件。おおごとだったはずだが、そもそも姉が演劇部だと知らない妹。下校時に校門で学校の伝統についてクドクド説明する教頭先生。演劇部が直面する危機に「アタシのせいなのー!」と事情を説明する大島優子の長台詞。大逆転のラストで先生方が翻意した理由(え?そっちなの?と疑問だったが)。とにかく言葉で全てを伝えようとする。若手女優の力んだ演技も手伝って、ますます仰々しく感じるのだ。憧れ女子とのツーショットという90年版と同じ胸キュン場面が登場するけれど、杏ちゃんの器の大きさが目立ってしまった感も。
さらにオスカープロ所属の面々が、変な圧力をこの映画に与えている。映画冒頭、バイオリンを諦める福田沙紀に強い言葉を投げかけるのは、今や"失敗しない女"のイメージしかない大門…もとい米倉涼子。大門先生に気丈に言い返したヒロインの担任の先生は、まだハズキルーペの上に座って「きゃっ♡」とか言う前の菊川怜。あなたのようにデキる女じゃなくてすまんね、と言いたくなるような威圧感。そして変に高飛車なバンドのボーカルが上戸彩。メロディが変だと文句を言う彼女を、ヒロインがメロディを手直しして納得させる場面に、観客が納得できないのは何故だろう。唯一許せるのは、演劇部1年生の武井咲。ツインテールがきゃわゆい♡。
何はともあれ、傑作90年版とは似ても似つかぬ作品でした。桜なのに真っ赤な背景のDVDジャケ写に、なんだかなぁーわかってないなぁーと残念に思うのだが、エンドクレジットでその撮影が蜷川実花だと知って、らしい写真だ!と納得。でも桜色でいこうよ、ここはさ。