ウリパパの日記

自由気ままに・・・

新国立劇場「パルジファル」 2014.10.5

2014-10-06 21:58:14 | オペラ
昨日の午後、新国立劇場で久しぶりにオペラを聞いてきました。ワーグナーのパルジファルは1989年のウイーン国立歌劇場の引っ越し公演(NHKホール)に続き2度目の体験。ワーグナーのオペラと言えば北欧神話を題材にしたものが多いですが、このパルシファルはキリスト教です。25年前の公演ではワーグナーの重厚で神聖な音楽に衝撃をうけ、その時の体験は今でも鮮明に蘇ってきます。ホルライザー指揮、ルネ・コロ演じるパルジファルやグルントへーバー、ハンス・チャマー、ホルニックなどウイーン国立歌劇場を支えた当時の歌手たちの重厚な歌声に圧倒されました。果たして昨日は・・・

2年ぶりの新国立劇場。公演開始は14時です。座席は2階正面、後方から2列目。前のほうには各国の大使館員と思われる方が大勢お見えになっています。

指揮はオペラ芸術監督に就任した飯守泰次郎さん。そして演出はハリー・クプファー。アムフォルタスはエギリス・シリンス、ティトレルは長谷川顕、グルネマンツは巨匠ジョン・トムリンソン、タイトル・ロールのパルジファルはヘルデンテノールのクリスティアン・フランツ、クリングゾルはロバート・ホーク、クンドリーはエヴェリン・ヘルリツィウスといった布陣です。

クプファーの演出は「光の道」と呼ばれる舞台装置上で展開されます。先端LED技術により光を効果的に使い視覚的にも楽しめました。2幕の魔法の花園の場面は素晴らしかったですね。一方、1幕と3幕の聖杯の儀式の場面では紗幕が下りてきて神聖な場面を美しく演出します。1幕後半、グルネマンツがパルジファルを聖杯式に案内し騎士団が登場するまでの転換の場面は、立体的で迫力満点の舞台の変化と重厚な音楽が印象的。25年前の公演ではホールが暗闇に包まれ行進する2人に照明が当たる演出でした。

今回の演出のもう一つの特徴は、クプファーさんのインタビュー記事によるとキリスト教と仏教の融合のようです。見ていて違和感は感じませんが・・・3人の僧侶?はしっくりきませんね。なぜ1人ではなく3人なのか、容姿が仏教ではなく何となく密教のようにも見えてしまいます。幕切れはうーん。演出のメッセージを汲み取るレベルに達していません。個人的には期待外れでした。何だかラインの黄金の終幕に神々がワルハラ城に入場していくかのような・・・

飯守さんと東京フィルの作り出す音楽は聴かせてくれました。指揮者と弦楽器がちぐはぐだったり、金管がおやっ?と思う場面も多々ありましたが、重厚さよりも調和を大切にした音楽作りです。音量を抑え、その中で次々とライトモチーフが効果的に引き出されていきます。特に聖金曜日のモチーフのすばらしさ、ドレスデン・アーメンも印象的でした。幕間にオケピットを見学に行ってみましたが、ワーグナーにしては小編成かなという印象です。

一方、合唱団は鳥肌がたつくらい素晴らしいかったです。海外の一流歌劇場のレベルに匹敵するのではないでしょうか。聖杯の儀式の場面のバックコーラスや騎士団の歌唱は感動ものです。

ソリストの皆さんはレベルが高く、特にグルネマンツを演じたジョン・トムリンソンは歌唱、演技力共に秀でていました。勘所ではジーンと訴えてくるものがありました。大ベテランで既に65歳を超えているそうです。重厚なオペラをしっかりと支えた影の主役でした。一方、寡黙なタイトル・ロール(パルジファル)を演じたクリスティアン・フランツも素晴らしい。昔、新国立劇場でジークフリートを聴いたことあります。昨日も力強く明るい声が印象的に残りました。

クンドリーのエヴェリン・ヘルリツィウスは演技力抜群。声量もあって繊細な表現から劇的な歌唱まで自在に操り、モンサルヴァート城と魔法の城を彷徨う哀れな女性の弱さを見事に表現していました。最後はどのように救済されたのか・・・ここでは書けません。

エギリス・シリンス演じるアムフォルタスは癒えない傷を負った若々しい瀕死の王を表現してました。騎士団から強要される聖杯の儀式を拒むところなど見ごたえ満載。クリングゾルのロバート・ホーク、ティトレルの長谷川顕も熱演です。

今回の公演は主役から脇役にいたるまで粒揃いでレベルが高かった印象です。キリスト教徒ではないので聖杯の儀式とか聖金曜日の奇跡とか実感がわきませんが、登場人物がそれぞれ悩みを抱え、最後は聖金曜日の奇跡で救われる、そんな人間臭さにフォーカスされていたのではないかと思います。

25年前のウイーン国立歌劇場の公演では第1幕終了後には拍手厳禁で、巨大なNHKホールが荘厳な雰囲気に包まれて進行していった記憶があります(衝撃体験でした)。今回の公演では第1幕終了後に控えめな拍手が始まるとすぐにカーテンコールが始まりました。公演プログラムには拍手を歓迎するという記載がありました。舞台神聖祝典劇ではなく人間ドラマとして捉えてほしいという舞台関係者のメッセージだったのですね。

14時に始まったオペラの幕が下りたのは20時前。2回の休憩をはさんで6時間の公演ですが、長さを感じません。久しぶりのオペラに大満足し、そのまま単身赴任先の茨城県へ常磐線で戻りました。



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