水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

ボクたちの交換日記

2013年04月04日 | 演奏会・映画など

 今まで文化祭にきてもらった芸人さんを思い出してみると、本校が登竜門なのかと思ってしまうほど、その後「売れた」芸人さんが多い。
 古くは浅草キッドさん、爆笑問題さん。タカトシさんが来たのは「欧米か!」って言い始める前だったし、オリラジさんにいたっては「ネタ10分分はないですが、前座でつかってください」と業者さんに言われて来てもらった最初のころだ。DonDokoDon、ロバート、インパルス、我が家、渡辺直美、ロッチ … 。
 もちろん、未だにテレビではみかけない方もいる。

 DVD「紳竜の研究」に、島田紳助氏がNSCで若手芸人の前で行った講義が収められてる。 
 「はっきり言うとくけど、このなかに売れる芸人はおらへんぞ」って、たしか言ってた。
 どうしても売れたかったら、せめて俺らがやってたぐらいの努力はせえよ、と言って若い頃の話をし始める。  そして語ったのが、人気のある先輩のネタを録音して、テープおこしして、分析して、ポイントは何か、自分に足りないものは何か、そして自分に可能性があるとしたら何かを徹底的に考えていくという作業だった。
 これを見たとき、教師修行とまったく同じだと思った。
 うなづきながら講義を聴いている若手のなかで、この作業を実際にはじめた芸人さんはどれくらいいただろう。
 その日「よしやるぞ」と思っても、ほんとにやり始めるのは一握り、それを継続できるのはさらに少なくなる。
 その比率は、結果として生き残る芸人さんと、そうでない人との比率とほぼ等しいのではないか。
 それはちょうど、自分の授業を録音してみるという作業さえ、たぶん一回もしないで終わる教員の方が多いのと同じかもしれない。
 一方、札幌の堀裕嗣先生がいま次々と御本を出されている姿は、若い頃の努力をかすかに垣間見た身としては、まったく当然の結果と思える。
 教員は、芸人と違って修行しなくても「めしは食える」が、芸人さんは「食える」状態になれる人が、ほんの一握りであるというのが現実だ。

 お笑いコンビ「房総スイマーズ」の甲本(小出恵介)と田中(伊藤淳史)は、高校の時にコンビを組み、文化祭のステージで喝采を受けたのをきっかけにプロの芸人を志す。
 事務所に属して活動しはじめた頃は多少なりとも注目されたが、その後は鳴かず飛ばずの10年が経過していた。
 バイトで生計を立てながらも、いつか売れてやるという夢を追いかける二人。
 とはいえ、長くコンビを続けているせいか、お互いに面と向かって言いたいことを言いあう関係ではなくなっていた。
 それを打開するため、お互いの今の気持ちを伝えあおうと甲本が考えたのが、交換日記だった。
 交換日記自体は書くものの、恋人のマンションに入り浸り、借金もあり、それでいて合コンに足繁く通ってしまうのが甲本だ。
 一方バイトをして倹約した暮らしをしながら、ネタを書き続けるのは田中の方だった。
 甲本は、よく言えば天真爛漫。高校時代は人気者で、恋人もいて、スナックのマスターにもかわいがられる。
 憎めないタイプだろう。ただし、そういう人柄は、芸人として成功する必要条件でも、もちろん十分条件でもない。
 監督であるウッチャン内村氏は、お笑いの世界を知り尽くし、幾多の芸人さんたちとふれあってきた。
 きまじめな毎日を送り、ノートにネタを書き続ける田中の方がむしろ成功するタイプと描くのも、内村氏ゆえに描けるリアリティなのかと感じた。
 
 芸人を目指すたくさんの若者たちがいる。
 役者さんの世界も、音楽家の世界も厳しさは同じだ。
 楽器のレッスンに昔きてもらった先生で、田舎に帰って「かたぎ」にもどると言って職業音楽家の道を離れた方がいた。
 好きでよく見にいく小劇場のお芝居も、見ている分には魅力的な世界だが、葛藤をかかえながら続けている人も多いだろう。
 そういう世界に足を踏み入れた人は、いつ自分にけじめをつけるのだろう。
 30歳までは好きなことをやってその時点で決めようとか、田舎の両親が元気なうちはやらせてもらおうとか、体の動く限りはとか、あと一回だけオーディションに出たらとか、それぞれにいろんな期限をつくるのだろうか。 スポーツ選手よりも、見切りの付け方が難しい世界かもしれない。

 暴走スイマーズが最後のチャンスと考えたコンテストでは、快調に決勝戦まで勝ち進むものの、最後の一線を越えることはできなかった。
 「解散」を口にしたのは甲本の方で、解散したくないとごねたのは田中だった。
 このへんの事情には後日譚がある。
 それがまた泣かせるけど、ここには書かない。

 人はどこまで夢を追いかけるべきなのか、どこで、どうなった時に夢を捨てるべきなのか。
 芸人を目指す若者を描くことでくっきりと浮かぶあがったこのテーマは、決して特殊なものではない。
 若いころなら誰もが感じている、自分の将来に対する根拠のない自信と漠然とした不安がうむ、普遍的な気分だ。
 あのぉ、実は若くないおれだって少しはそんなことを思う。丸谷先生や石田先生のようになれるとは思えないが、もう少し可能性があるんじゃないかと今だに夢想する。
 ただ … 、若いころの島田紳助氏や堀裕嗣氏のような努力を重ねることは出来ない自分であろうという自覚はあるのだ。
 もっと言えば、努力しようとしてやっているようではだめだ。気づいたら没頭してた、そうせざるを得ない自分だったという状況でやり続けた人のみ、本当のトップに立てる。

 職業柄「可能性」とか「夢」とか簡単に口にしてしまうけど、それ自体ではなく、それとどう向き合うか、それと自分との折り合いに付け方を人生と呼ぶのだろう。
 いい映画だった。
 エンドロールでかかったテーマソング「サヨナラじゃない」では、なけなしの才能をふりしぼって書いた定演のお芝居を思い出させられ、泣いた。
 あと、うまく言えないが「監督くささ」みたいなのがなかった。
 鬼才と言われるM監督やらS監督みたいに、いかにもおれさまがつくりました! 的な、はなにつく感じがまったくしない。これもまたウッチャンの希有な才能なのだろう。
 あとね、長澤まさみ様はもはや大女優です。木村文乃さんは美しいし、川口春奈ちゃんはオーラでまくっているので、レイトショー1200円では申し訳ないと思った。

コメント (2)
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