本校OBの石井裕也監督の新作は、本屋大賞にも選ばれた三浦しをん『舟を編む』を原作にした作品。
原作は読んでなかった。辞書づくりを題材にした小説だから、国語の先生として読まなきゃなと思ってたが、どう考えても地味そうで、そのままになってしまってた。
映画も「地味」だった。
殺人マシーンも出てこないし、むやみに大雨降らせるシーンの羅列もない、二重人格者も幽霊も出ない。
こんなに地味なのに退屈しないのはなぜだろう。役者さんの演技? それも大きい。
辞書づくりという地道な仕事に没頭する青年の役を、松田龍平が好演する。宮崎あおいちゃんは、すでに「ちゃんづけ」が畏れ多い女優さんで、あらためて上手だなんていう必要もないくらいだ。むしろどんな作品でもいい仕事をしすぎかも。だめな作品の時はだめに見える女優さんの方がひょっとしたら器が大きいかもと思ってしまう。
あおいちゃんも、オダギリジョーでさえも地味だ。
なのに、気が付くと泣けてくるのはなんでだろ。
われわれの人生って、地味っちゃあ地味な毎日だ。
この二人を見てると、その地味さがドラマチックだ。
だから、われわれが一日生きることも、それだけでドラマチックなのかもしれない。
石井監督はそれがわかっていて、なんのけれんもしかけずに、たんたんと映像化した。
もしかしたら不器用ではないかと思うほどまっすぐに。
だからこそ、役者さんの力はそのまま現れるし、原作者の描きたかったものも自然に立ち現れる(たぶん)。
監督さん自身の「おれがおれが」という気持ちがみじんも感じられない。
これを作品に対する「誠実」と言わずしてなんと言おう。
石井くんのことは、「川の底からこんにちは」の監督ってずっと言われてるけど、この作品で呼び方変わると思う。
そして、あたりまえだけど、監督さんはじめスタッフの方々みんなが地味に地道に積み重ねた仕事の結晶がこれだったのだろう、自分も自分の持ち場でこんな仕事がしたいと思った。