水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

『ダメをみがく』

2013年04月08日 | おすすめの本・CD

 自己啓発本を大量に読み、そこで得られた情報を生徒さんに語り続けていると、「じゃ、あんたはどうなの? 言ってるほどやれてるの?」という声は時折聞こえてくる。
 「不幸の量は決まっている、幸福の量は自分しだい」とか「あたりまえのことを継続せよ」とか「成功するコツは成功するまでやることだ」とか、元気なときは自信をもって語れるけれど、時には疲れるときもある。

 ♪ 説明することばも 無理して笑うことも しなくていいから
   何かあるなら いつでも頼ってほしい 疲れたときは肩をかすから
   どんなに強がっても ためいきくらい する時もある (「Story」2番)

 そんなとき「Story」を絶叫して泣くのもいいが、この本なんかも効くかなと思った。


 ~ 津村 コミュ力はすごいむずかしい。天性の才能やから。でも「ないとダメ」って言われた日にはどうしたらいいんでしょうね。
深澤 それは「美人」とか「足が速い人」と同じ才能ですから、ないものはしょうがないです。 … あと、私がもう一つ言いたいのは「ありもので生きる」ってこと。
津村 「ありもの」ですか?
深澤 そう、よく料理上手な人は冷蔵庫にあるものだけで料理ができるって言うでしょ。とにかく、自分の中にあるありもので―肉しかないとか、米しかないとか、野菜しかないっていう人もいるんですけど、それはそれなりのありもので、自分の人生をつくっていくしかないかなと。 (津村記久子・深澤真紀『ダメをみがく “女子”の呪いを解く方法』紀伊國屋書店) ~


 津村記久子は芥川賞作家で、普通のOLさんが普通の会社で働く生態を書かせたら一級品の方だが、ご自身の会社務めの経験、結局はパワハラで退職を余儀なくされた会社経験が、作品を生み出すエネルギーになっていたこともわかった。
 深澤氏は、早稲田大学在学中から雑誌の編集に関わって名が売れ、いくつもの会社ではたらき、その後自分で会社をおこし、「草食男子」というネーミングの生みの親でもある。
 傍目には世の中の最前線で活躍するお二人に見えるが、女が世の中を渡っていくのは並々ではないことや、なんとか生きていくためのコツを語りあっていて、しかもそれがよくある啓発本の力強さではなく、こんな風に逃げればいい、こういう言葉はこうかわせばいいという方向性なので、きっと共感する女性も多いのでないだろうか。
 「女性が社会で働くための矜恃」とか「仕事に生きがいを」とか女性誌に書いてあるのを読んで、まじめな女性は呪いにかかってしまう。あり得ない目標設定をして行き詰まる毎日を送るより、ちょっとした工夫でなんとかのりきれ、やりすごせという教えは、女性にかぎらず役立つだろう。
 『ダメをみがく』ってタイトルは、言いたいことをうまく言い表しているな。
 人間誰しも「ダメダメ」な部分はある。なかったら神だから。自分のダメな部分を無理に矯正するのでもなく、しかし放置するでもなく、受け入れて工夫していく生き方。
 何でもない言葉に傷ついたり、なんの理由もなく将来が不安になるのは、べつに女子だけではない。(ちっちゃなクレーム一つで全てを否定されたような気分になることってないですか? 同業者のみなさま)
 面と向かって「がんばれ」っていう本はたくさんあるが、「そんなこともあるよ」って寄り添ってくれる本て意外に少ないような気がする。

コメント
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