夢見るババアの雑談室

たまに読んだ本や観た映画やドラマの感想も入ります
ほぼ身辺雑記です

「闇に狙われて」ーもう一つの誇雨の物語ー

2008-05-24 16:28:16 | 自作の小説


闇玉使いが出ると言う 人の恐怖を利用し形になる―その闇玉を作り出し操る人間

闇玉は恐怖を食べてどんどん成長する
そんな情報が清太(せいた)にもたらされた

その人間が出入りしているらしい場所へ偵察に行った清太と理音(りおん)が見掛けたのは 意外な人物の予想外の姿だった

間違えようのない右眼の眼帯
しかしその姿は・・・
日頃のその人物の姿を知る者からすれば 思わず清太がもらした一言「化けたな・・・」に要約されるだろう

理音に至っては「女装か?」などと失礼なことを言っていたが

その人物 誇雨(こう)が纏っているのは 本物の光沢あるシルク
腕飾りと揃いの豪華な宝石入りベルトを細い胴に巻いている

むきだしの両肩 白い腕には ふんわりしたストール
首にもゴージャスな飾りを巻いている

整えられた眉 プロがしたらしい上品このうえないアイメイク

艶やかに輝く珊瑚色の唇

誰が見ても文句なしの光り輝く美女であった

右眼の眼帯が何とも妖しい雰囲気を醸し出している

今月ピンチの誇雨は 学生課からこのバイトを紹介されたのだ

何でも大学で誇雨を見掛けた人間から名指しで!入った仕事らしい

断わるには時給が余りにも良すぎた

三日間 半日 人形のように その場所に立っているだけでいいと言うのだ

生きたマネキンでいてくれればと

いつもは洗いっぱなしの髪もふんわりカールされている

誇雨は知らないが 雇い主から見れば{理想的な人間}であったのだ

雇い主の人間には 誇雨の中にある「極上の恐怖」が感じ取れた

それを我が物にしたいのだ

だが獲物を仕留める前に近くへおいて じっくり鑑賞したかった

悪趣味である

誇雨の艶姿を見た清太と理音は そんな事情は知らない

誇雨は壁の時計と睨めっこしてバイトが終わる時間を待っていた

まず家賃 それから・・・と 必要な出費を計算している

清太は 誇雨はこんなに綺麗なコだったのだと思った
もし普通の家庭に育っていれば これが誇雨のあるべき姿であったかもしれない

清太と理音が見ていると ひどく痩せた男が誇雨に近付いていく

二人は建物を出て外へ歩いていき・・・・・清太と理音は当然のように彼らをつけることにした

「せい・・・」理音が言いかけると 清太も低く応じた「大当たりらしいな」

痩せた男は随分妙な気配を漂わせていた

ぶわぶわと男の背後の空間が膨れ上がっていく

男は誇雨にバイト代を渡した

「また仕事を頼んでもいいだろうか 君はわたしのイメージにぴったりなんだ」

「イメージ」誇雨は怪訝な表情になる

男の浮かべる不可解な笑みは背後へ不気味に広がっていくようだった

誇雨の前に七歳の誕生日の時の 血塗れになった苺が浮かぶ
一つ二つ三つ・・・ 手を伸ばしてくる母「狐雨(こう・・・)」
声が聞こえる
「逃げられないのよ・・・血の呪いからは・・・この右目からはね・・・・それでも私達は子を産むの・・・」 母の影は笑う

「ねえ・・・幾ら胸にさらしを巻いても同じよ・・・ 女であることからは・・・逃げられない」

陰からそれを聞いていた理音は叫びそうになり口を押さえた
「あいつが・・・女?」

哀れむように鈍い相棒を清太は見た
「お前 まだ気が付いていなかったのか」呆れたように言う

この非常時にガーンとショックを受けて落ち込む理音に 追い討ちかけるように清太は言った
「余裕があって良いね お前は」

日頃 理音に勉強まで教えている年長の青年は中々に性格が悪い

長身の理音は小さく蹲ってしまった

その姿は大きさはまるで違うが 餌を貰えなかった日本猿のようだ
しかし猿は可愛いが理音は可愛くない

近付く自分の母の似せ姿に誇雨が凍り付いていると 何かが前に来た

グーディス!清太の電子ペット

これは闇玉を食らうのだ

―清太が近くにいる?!
誇雨も気付いた

目の前にいる男は 誇雨の中にある自分の運命への恐怖を嗅ぎとったのだ

闇玉は人の恐いと思う感情を食べると 清太達が言っていた

清太と理音の仕事は闇玉退治 化物退治

では今度の仕事は この男なのか

闇玉との戦い方は判らないが 相手が生身の人間であれば 話が違う

誇雨の顔に笑みが浮かんだ

瞬間 闇玉は力を失い グーディスにひと口でぱくりと喰われ
闇玉を操ろうとした男には 誇雨の蹴りが見事に決まった

「ありゃりゃ やっつけちゃったよ」とは清太

すぐに立ち直り 男の捕獲をする

グーディスは誇雨に撫でられ お腹を上に向けて ふにゃみ~と猫のように転がっている
誇雨の指に触られると気持ちいいらしい

が 理音が誇雨に近付こうとすると グーディスは起き上がり毛を逆立てた

「嫌われたもんだ」くっくっくっと清太は笑う

理音はぶすりと言う「楽しんでいただけてどうも」

翌日 大学で理音は 誇雨ファンになった双子達も {女}と気付いていた事を知り 更に落ち込んだ

「世界遺産を飛び越えて 宇宙遺産級の鈍感だわ」
豊と稔(みのり)が異口同音に双子ならではに共鳴発言

居合わせた清太も駄目押しの一言「全く折り紙つきだ」

情けなさ溢れる理音の表情に 流石の誇雨も笑ってしまう

すると理音が叫んだ
「笑った」

そりゃあ人間だから たまには笑うわな
憮然とする誇雨

「こっこの 滅多に見られない誇雨様の笑顔が消えたじゃない バカ理音」
稔が理音のTシャツ引っ張りかくかく揺らす

それを見てまた笑いながら 誇雨はまだ少しだけ ここにいてもいいかな―と思う あと少しくらいなら

その細い肩にかかる呪いは深く運命(さだめ)は 余りに重い

いたましげに清太は吐息をもらす

彼らの不思議な友情は始まりつつあった

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この物語の設定と登場人物は 娘が書いてる話から借りています

いわば娘公認の番外編(笑)

誇雨の右目には秘密があり それゆえ誇雨は日頃は「女」である自分を胸にさらしを巻いてまで隠しています


「この夜を越えて」-9-

2008-05-24 00:44:45 | 自作の小説

黒浜の一純(かずすみ)は 自分が乗馬が下手な事を考えず 鎧は立派な品を好んだ

立派な鎧・・・つまり重い

馬も迷惑だ

しかも小男なものだから台が無いと馬に乗れない

結果 進軍の間もよく落馬する

大将の落馬 はなはだ縁起が悪い

そのたびに叱責を受けるのは 馬廻りの係

進んでは止まり―大将が落馬するから―の進軍

意気はどんどん下がっていく

戦う前から嫌気がさし 疲れている

それでもやあっとこさ この山を超えれば 茜野の里という場所まで辿り着いた 

と 山の上に軍勢が見える

茜野の精鋭達

「我が領地へようこそ」藤三の笑いを含んだ大音声が響き渡る

黒浜の一純は自軍の最後尾に退がった

「行け~~~っ 戦え」
大将が一番最後の安全な場所に避難する

兵達は非難の視線を向けた

内心―もう 嫌だ こんな主人―とその殆どが思ったか

かたや茜野の藤三は動きやすい軽い鎧で先陣を切る

戦う前から勝敗は誰の目にも明らかだった

だが 黒浜の一純は自分が一番お利口なのだ―という気味悪い笑みを にたにたと浮かべている

一純は 義仁に捕まった者達に名誉回復の機会として別な仕事を与えていた

義仁は何処にいたか
彼は留守になる茜野の館の守りを任されていた

藤三は弥十を留守の責任者とし 駒弥 駿(はやお)も屋敷に置いた
何かあり連絡が必要な時 腕もたち脚が速い駒弥は役に立つ

負傷しているとはいえ駿の経験 腕も捨て難い

しかし十年以上 茜野を離れており 他の者からの信頼を回復し 穴を埋めねばならなかった

その上で義仁には
「留守を狙い何か仕掛けてくるやもしれぬ
わたしが卑怯者なら そうする」
藤三は食えない笑みを浮かべた

そして黒浜の一純は間違いなく卑怯者なのだった

「屋敷にいてくれれば 憂いなく戦える」と

だから義仁は屋敷にいた

そこへ一純の密命帯びた一団が どう見張りの目を誤魔化したか駆け込んで来る

うまい料理を食べ ぐっすり眠った義仁は元気があり余っていた

躍り込んだ一団を見て義仁は実に嬉しそうな顔をする

―こ こいつ何でここにも いるんだ―前に手もなくやられた記憶も新しい

けれど もう戦うしかなかった

騒ぎに弥十が出てきた時には 既に終わっている

義仁は汗もかいていなかった

一純は守り手薄な茜野から 非力な女達 ―特に阿矢女と藤三の子 藤太をさらってくるよう彼らに命じたのだ
形勢不利になった時の人質として

阿矢女を妻にすれば茜野を我が物とする正当な理由もできるのだ

一純に妻がいないわけではない
正妻がいないだけで 側妾は沢山いた

女好き―好色な男でもあるのだ

「藤三どのの読みがあたった」とだけ 義仁は言った

話を聞いて弥十は「こ奴らは こ奴らは」と縛られている面々の頭をぽかぽか殴る

駒弥は二名ほど連れて藤三への伝令に出る

藤太は義仁が戦うのを見るのは初めてで目を丸くしていた

「どうしたら強くなれる?」

「日々の鍛練 稽古 人には負けたくないという強い気持ち 
まずは それからかな」

やがて 戦いに勝利した男達が引き上げてくる

黒浜の一純は逃げようとして馬が何かにつまずき落馬
落ち方がまずかったのか 首の骨を折って死んだ

大将が死に主だった家来が討たれると 他の者達は降伏した

少し先の事になるが
黒浜は駿と駒弥が 弥十の後見を得て支配を任され

佐波と原森は阿矢女が 北側隣りの里の次男が婿入りする形で支配を任される事となった

義仁は 戦勝の宴の最中 藤三にのみ 別れを告げ 茜野の里を離れる

藤三は言った
「また来てくれるか
いつでも歓迎する」

豪放磊落な藤三だが 支配者の孤独もまたあるのだった

果たすべき責任

そんな彼からすれば 自由に旅する義仁が どれだけ羨ましかっただろう

非常に若くして 様々な荷を その肩に背負った男であった

また いつか

茜野の里の人々は旅を続ける義仁にも忘れ難い印象を残した

茜野の里を離れて 何処へ行こうかと義仁は空を見上げる

西の方角から狼の遠吠えが聞こえてくる

義仁は そちらへ足を向けた

彼の旅はまだ続いていく