ただ視えるって良くない 視えると気付かれると余りろくな目にあわない
だから自分に「気のせいだ」と思い込ませる 視えないふりでなく それを認識しないのだ
そんなふうに生きてきた
走る黒い影は猫だと思い 時々天井からぶら下がる何か白いモノは蜘蛛の巣だと
でなければ勘違いと
だけどこちらが視えないふりをしていることに気づく勘のいい「何か」もいる
で ついてくるモノもいたりする
それでも知らん顔してたらー
コツン!何かぶつけてきた
コツン コツン コツン
むきになっているようだ
「・・・悪い」
おお 喋った
「性格悪い 祟ってやろうか」
空耳だ そう聴こえてないんだ あれは
「ハゲ作ってやる 毛を抜いてやる」
なんとなく笑いたくなってきた なんか可愛い
「馬鹿にしてるでしょ 分かるんだからね」
やってはいけないことを僕はしてしまった
こたえてしまったんだ あぁ今まで用心深く生きてきたのに
市松人形のような髪形 前髪を切り揃えたおかっぱを伸ばしたような その髪に触ってしまった
「あなた 触れるんだ」 「あぁびっくりした」とそのコは言った
ぼんやりしていたソレは一度触れれば鮮やかに生きているモノのように はっきりと見えてくる
少しつりあがった切れ長の瞳はきりりとした印象を与える 小さな唇は人形のよう
ひどく整った顔立ちの とびきりの美少女だった
惜しい!と思った 成長したら あと2、3年生きていたら 相当に美しい娘に育ったはずだ
幾つぐらいなのだろう このコは 小学生にしては大人びている
中学生くらいか
「あたしは13歳の誕生日の前の日に殺されたの 何回も何回も刺されてー痛かった 怖かった そして棄てられた 棄てられたその場所をずっと動けないでいたの
誰も気付いてくれなかった あたしがいることを
でも さっき視線を感じたの
ーあ あたしを見てくれている人がいる! と思ったら あなたの後を追いかけられてたの ついて動けたの
やっと他の場所に行けて嬉しかった
だから無視しないで
あなたには悪いことはしない 約束する
あたしはあたしを殺した人間に聞きたいの
どうしてあたしを殺したのか
手伝って下さい お願いします」
少女は頭を下げる 随分と礼儀正しい幽霊だった
「視たモノに触れることはできる 相手が拒否しなければね だけど僕は自分が食うも精一杯のフリーターだ 何の力も無いんだ」
「それでも! ねぇ ずっと一人って ひどく孤独なんです
誰にも気づいてもらえない 悲しくて辛くて 動けもしなくて
あたしを助けられるのは お兄さんだけなんです
お願いです」
僕は頼まれたら弱いんだ 相手が生きていても死んでいてもー
「わかった じゃ辛いだろうけど どんな死に方をしたか覚えてる そっから教えて
覚えている限りのことでいいからー」
実は僕だって初めてのことだった こんなに長く死んでいる相手と話したのは
何処で共鳴したんだろう
「塾の帰り道 後ろから殴られて 気が付いたら縛られて 口も布で覆われてて
お風呂の中にいたの お湯は入ってなかった」
そこから先は死んでいても思い出して話すのはつらいふうだった
浴室に入ってきた男は言った「気がついたね」
それから少女の手足を触って「綺麗だね 色が白くて 血に染まればもっと綺麗になるよ」
少女は叫び声を上げることすら許されず
切り刻まれ
溝に捨てられた
「あたしは知りたい どうしてあたしを殺したのか 明日は13歳の誕生日だったのにー」
あぁそりゃあ もっともだーと思ったんだ僕は
就職に失敗した僕は 就職に成功した先輩のツテで学習塾で家庭教師の仕事をしている
土日は休みだ
たまたま受け持ちの家庭が土日は明けておきたいらしいんだ
僕は少女の通っていた中学 少女の暮らしていた家も見に行った 僕が行くところには少女も行けるらしくー二人一緒の行動
少女が通っていた学習塾は僕が働いているところ
それで「ちょっと噂で聞いたんだけどー」と先輩にも電話してみた
先輩によれば数年前のことらしい 美少女で評判だった「少女」が殺されたのは
通り魔の犯行と言われて 犯人は捕まっていない
「そういうのって 繰り返すんじゃないのかな 」
と先輩に言ったら
「好みがうるさいんじゃないか 好きなタイプがあるとしたらー俺らも職場で随分話したよ 取り調べもみんな受けたしね
ミーテイングがあった日で職場のみんなはアリバイってのがあったから助かったけど」
少女の特徴は 黒髪 色白 細身 で美少女なこと
僕にしてやれるのは休日に 少女の行動範囲だった場所を中心にあちこち出歩いて 少女を殺した犯人に出会う僥倖を待つくらいだった
人は犯行現場に戻るのだーと本で読んだことがある
それは本当のことだったようだ
僕は小学生の男の子を教えているのだけど その子の姉は 学習塾の方へ通っている
僕が受け持ちの男の子の家に向かっていたら
その子の姉娘が学習塾から帰宅の途中だった
直接の生徒でないから 話しかけにくく 追い付かないように歩いていた
と 奇妙なことに気がついた
徐行運転の車はー姉娘をつけているように見える
時々停車しては また動き出す
その姉娘を追い越さないようにー
と車が停まり 男が降りてくる
いつも一緒の幽霊少女が悲鳴を上げる
僕は走った
そうだ僕の教え子の男の子の姉娘も結構な美少女だった 髪も長い ほっそりしていて色が白い
「好みのタイプ」じゃないか
追い付くと もう男はその姉娘を抱えていた こちらと目が合うと包丁を出して向かってきた
なかなか切れそうな厚みある出刃だ
とりあえず鞄を構える 切られたらひどく痛そうだ
ところが出刃男は急に怯えた顔になる
細い声が聞こえた「どうしてあたしを殺したの 殺して楽しかった 嬉しかった」
幽霊少女は それが殺された時の姿なのかー血まみれの凄惨な姿になっていた
「うわ うわ うわ わわわー」
出刃男は悲鳴を上げていた「近寄るな 近寄るな 寄るな きれいな時に殺してやったんだ 醜く崩れて汚れる前に 」
幽霊少女は言う「痛かったのよ とても とても」
出刃男は出刃包丁を落とした
安心した僕はネクタイで男の両手を男の背中で縛る
怯える男は何をされているかも分からないふうだった
それから警察へ電話した
女の子をさらう道具を積んだ車と 昔幽霊少女を殺した凶器の出刃もあり
男はそのまま逮捕
幽霊少女は時々男を脅かしにいっているらしい
殺した相手がわかったことで 怨みを言いに動けるようになったとか
まずは めでたい
たぶん
僕は教えている男の子のご両親にも「娘の危ないところをー」と感謝された
怪我の功名とでもいうのだろうか
そして幽霊少女には来客があった
凄いような美人 惜しいことにこちらも此の世のモノではない
「恨みが晴れたなら 行くべきところに行きましょう
また輪廻のなかに戻り いつか生まれ変わるのよ」
美人は幽霊少女を迎えに来たのだった
「あなたは死神なの」と幽霊少女が尋ねる
「わたしはそう魂の拾い人よ わたしもーいわくつきの身ーなの」
幽霊少女は僕を見た
「生きてて成長した 少し大人になったあたしを見てほしかったな」と寂しそうに笑う
そのっくらいのコトなら叶える力はわたしにはあるわーそう凄い美人の魂の拾い人は言った
ふわり霧がかかったようになり その一瞬の後に
少しだけ成長した幽霊少女がいた
振り向かずにはいられない そんな
死んだのがもったいない美しい娘がいた
「もしも君が生きていたらー」と僕は言った
「もしも あたしが生きていたらー」
「僕はきっと恋におちていた 」
「有難う」幽霊少女は嬉しそうに笑って そして 消えてしまった
凄い美人は優しく微笑む「有難う あの少女は初恋もまだだったの あなたは少女の好みのタイプでもあったのよ
幸せな気持ちでいけたと思うわ ではわたしも消えます またいつかね」
またいつかー
そうして残念ながら 此の世のモノではない訪問者たちはいなくなった
僕はそれを少し寂しく思っている
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台風の残り風も殆ど無くなった庭で 月明かりの下にて 気持ち良さげにしている犬達
赤(茶色)いトキはあと3日で産まれてから1年になります
白いランは一歳と1ヶ月 随分体つきもしっかりしてきました
どちらも秋田犬です
トキはちょっと小さな時に大きな病気をしたせいか 少し体が小さくて ランと一月違いですが もっと差があるようにも感じます ゆっくりのんびり成長中のトキさん それでも病気になってダメかもと思った時を思えばー 元気に生きていてくれてるだけで嬉しいです
そしてシェパードのアシュリーは この2匹を相手に 気が向いたら遊び相手になってやっています
10年超えのご老体 頑張ってくれています
夜 眠る前のひととき 毎晩しばらく外で犬達の相手して いえ犬に遊んでもらっています
庭のあちこちでちょっと私が隠れたら 3匹のどのコかが「おかあさん どこ?」と心配そうに捜しにきてくれます
捜しにきてくれる犬達が とてもとても可愛いいんです