Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

私たちが好きだったこと

2007-12-04 | 日本映画(や・ら・わ行)
★★★★ 1997年/日本 監督/松岡錠司

「いい人×いい人が裏目に」

ひょんなことから公団マンションに同居することになった男女4人の、友情と恋と夢のゆくえを描く。宮本輝の原作にほれこんだ岸谷五朗が、同じ劇団出身の盟友、寺脇康文とともに企画、主演した作品。


最近の作品はとりわけ顕著なんですが、宮本輝には「悪いヤツ」が一切出てこないんですよ。ほんとに、みんないい人ばっかりでね。まさに「性善説」とは、このことって作品が多い。この「私たちが好きだったこと」という作品も、偶然の行きがかりでひと部屋に暮らすようになった4人が、愛子という女性を医学部に入学させるため、みんなで協力し合って暮らしていくの。

あらすじだけ読むと、まるで偽善者の集まりみたいに見える話が、宮本輝の手にかかると、非常に純粋で、「人間って、誰かの役に立つために生きているんだよね」なんて気持ちにさせられちゃう。これぞ宮本マジック。

さて、「きらきらひかる」で松岡監督は、登場人物をみんないいヤツに見せてしまう、と書いたけど、この作品は、原作において既に登場人物がものすごくいい人なんですよね。つまり「いい人×いい人」。で、そのかけ算のせいなのか、心にひっかかりがなくて、さらーっと流れていくような出来映えになっている。それが、静謐な雰囲気を出していると言えばそうなんだけど、物足りなくもある。

それと日頃から共に演劇活動をやっている岸谷五朗と寺島康文が主役の男ふたりなので、内輪でやってる感じが否めない。この物語は男女4人が主人公で、ほぼそれ以外の役者は出てこない。ほとんど登場人物がこれだけってなると、どうしても人間関係において少し摩擦があったり、思いの行き違いが出てくるところこそが面白みになるはず。それがどうも内輪ノリっぽい雰囲気が邪魔をしている。

男女4人の物語で言うと、大谷健太郎監督の「アベック モン マリ」や「とらばいゆ」という作品があるけど、おんなじミニマム感でもこちらの方が、心のすれ違いで起きるスリルが堪能できる。それは、やっぱり配役に追うところも大きいのだ。それから、岸谷五朗なんですがね。切なさが伝わって来ない。彼は愛子を愛しているからこそ、他の男に手放すんですよ。だったら、もっと苦悩があるはずなんだけどなあ。

そんな中、愛子という女性を演じている夏川結衣の存在感が際だっている。夏川結衣は、表面的には「いい人」に見えるけど、その向こうに何か別のものを抱えている、そんな役どころがうまいですね。見た目は清純な感じだけど、心の奥深くに何かを秘めている芯の強さを感じる。そんな彼女の雰囲気が愛子という役にぴったりハマっていた。