Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々

2007-12-26 | 外国映画(さ行)
★★★★☆ 2005年/ドイツ 監督/マルク・ローテムンド

「正義のまなざし」


ヒトラー政権下に反ヒトラーのビラを大学で配り、逮捕されたゾフィー。5日間の拘留と裁判の後、即刻死刑の判決を受け執行に至る。主演のユリア・イェンチの迫真の演技に息をのむ傑作。

「マグダレンの祈り」のバーナデッドが怒りのまなざしならば、本作のゾフィーは「正義のまなざし」。常に正面を見据え、視線をそらさず、背筋をぴんと伸ばして取調官を見つめるゾフィーの澄んだ目が実に印象的。あの瞳で見つめられたら、尋問官モーアの心が揺らぐのも当然にように思えます。

なぜゾフィーはあんなにも強い意志で自分の信念を押し通すことができたのだろうか。そのことを考えずにはいられません。モーアとのやりとりの中で時折手をさするゾフィー。そこには焦りや心の揺れが感じられます。しかし、彼女は最後まで毅然とした態度を崩すことはなかった。彼女の心の奥底に「戦争を終わらせなければいけない」という思いが強く強く根付いていた。そう思いたい。

99日間の猶予を与えられることなく、すぐに刑が執行されることを知り独房で声を荒げて咆哮するゾフィー。その姿に涙が止まらなかった。それまで、冷静な態度に徹していた彼女だったが、死を目の前に感情が堰を切ったようにあふれ出す。独房に響き渡る彼女の叫びを聞いて、心を揺さぶられぬ者などいるまい。一体、なぜナチはこんなにも急いで刑の執行を早めたのか。それは、彼女たち白バラの訴えが国民の心に行き渡ることを恐れたからに他ならない。

学内、取調室、拘置所とほぼ閉じられた空間だけで物語は進み、戦場は一切映らない戦争映画。しかし、戦争のむごさをこれほど感じた作品はありません。空から爆弾が落ちてきて逃げまどう人々を映すだけが戦争映画ではない。ほぼ半分を占めるモーアによるゾフィーの尋問も、ふたりの心の動きが実にスリリングに描かれ、緊張感に満ちています。

ゾフィーが冷静であればあるほど、ナチズムの雄叫びが負け犬の遠吠えのように聞こえる。何かを告発したり批判したりする時に、相手の愚かさを声高に叫ばずともこれほど抑えた演出で浮き彫りにすることができる。これぞ映画の力だと強く感じました。