Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

大停電の夜に

2007-12-06 | 日本映画(た行)
★★★★☆ 2005年/日本 監督/源孝志

「向き合うことの大切さ」


きちんと目を見て話すことが何と難しい世の中になったもんでしょう。仕事の打ち合わせはメールでOK。家族の会話もテレビを付けっぱなしにしての「ながら」会話。停電ぐらいの大きな出来事でも起きない限り、じっくり相手と話すことが出来なくなった。そんなことをしみじみ感じさせてくれるいい映画です。今、引っ張りだこの脳博士・茂木さんも「人間は互いに目を見てしゃべるとドーパミンが出る」と言ってましたもん。

最初から最後まで停電ですから、この映画は撮影のセンスとテクニックが勝敗を決めるわけです。その点においては大勝利。特に、宇津井健と淡島千景夫婦の部屋の行灯のふんわりした明かり、そして田口トモロヲ・原田知世夫婦の青みがかったのマンションの明かり。いずれも光量が少なく、撮影は難しかったと思われますが、セザール賞受賞のフランス在住のカメラマン永田鉄男が実に雰囲気のある映像を作りだしています。

この作品は群像劇と言うほど、それぞれのカップルのドラマ性が深く描かれているわけではありません。そこが物足りないと感じる人もいるのかも知れませんが、私は決してそうは思わなかった。この映画のテーマは「向き合うこと」です。そこに気づくことができれば、もうそれでこの映画はお役御免なのです。「ゴメンネm(_ _)m」とメールで打てばいいんじゃない。やっぱり、会って、顔を見て、自分の声に出して言わなきゃいけない。そのことに気づけたらいい。あとは、どのカップルに感情移入できるかは人それぞれと言うところでしょう。

大切な人と一緒に見れば、きっと見終わった後に、真っ暗な部屋でキャンドルの明かりを灯しながら今までできなかった話ができるはず。「東京タワー」は、雰囲気だけで中身がない!と憤慨した源孝志監督でしたけど、今作では徹底した雰囲気作りの結果、きちんとメッセージが伝えられた。期待していなかったのですけど、キャンドルの明かりにすっかりやられました。素直になりたくなる一本です。

で、最後に豊川悦司ですが。最近、彼を起用する監督は、ファンのツボを知り尽くしているとしか思えないのです。今回はベーシストってんで、演奏シーンが出てくるんですけど、つまびく指先の何とまあ、きれいなこと。そして、指先からゆっくりカメラは引いて、ベースを抱く彼の全身が映る。あらあら、彼のふところに抱かれたウッドベース。まるで、女性を抱いているようじゃあ、あーりませんか!3ヶ月間ウッドベースを練習したらしく、とても様になってる。それでね、彼が「うん?」とか「ああ」とか「いや」とか、ものすごく短いセリフが多いんですけど、この低い声がたまんないんですよ。いやあ、こんな店なら毎日通います。