Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

ラスト、コーション

2008-03-08 | 外国映画(や・ら・わ行)
★★★★★ 2007年/アメリカ、中国、台湾、香港 監督/アン・リー
<TOHOシネマズ梅田にて観賞>
「壮絶なる愛の形に私はひれ伏す」



美しく着飾るのも、女らしくあるのも、引いては仲間たちの謀議の上で好きでもない男に処女を奪われるのも、全てはイーを誘惑するため。そんなワンがいつしかイーを愛したとて、何の不思議があろう。もう少しで手に入れられたものがするりと逃げ去ったことで、彼女の心はますますイーの元へ飛ぶ。イーを追いかけ、イーに求められる女を演じることが彼女の人生そのもの。イーとの愛を全うしなければ、ワンという女の人生もまた、完結しない。何というつらい、そして報われぬ運命。しかし、嘘とまやかしで塗り固められた2人の関係の中に真実の愛が煌めく。それはまた、煌めいた途端、2人を地獄に突き落とすものでもあるのだ。

まるで、相手をいたぶるような激しいセックス。常に命を狙われ、誰にも心を許さない男、イーは、そのような方法でしか女を愛することができない。いや、イーは、女を愛撫することができないと言った方が正しいか。その柔肌を優しく撫でることも、乳房にそっと唇を重ねることもできはしない。己に溜まったよどんだ沈殿物を掃き出すかのように、女の体にぶちまける。あらゆる体位を尽くして結合しているその瞬間だけ、イーは生を実感する。そんなイーがワンの歌に胸を打たれ、彼女の手をそっと握る。初めての愛撫。愛の始まり。しかし、それは決して成就せぬ愛。

台詞の少ない脚本、巧みな心理描写、見事な上海の街の再現。全てにおいて、完璧。158分があっと言う間に過ぎた。アン・リーの挑戦する意欲に素直に敬服する。また、シックでエレガントなチャイナドレスにも目を奪われたし、日本人街の違和感のなさにも舌を巻く。そして、主演のふたり、新人女優タン・ウェイとトニー・レオンの存在も圧倒的。恐ろしいほどに目で語る。目を見ていれば、心の内まで読めるよう。タン・ウェイの体当たりの演技は、今後の彼女の中国における生活が無事滞りなく送れるのかといらぬ心配をしてしまうほど。しかし、映画初挑戦でこの演技は実に天晴れ。そして、今回もトニー・レオン、フェロモン全開。一貫して冷たい男なのに、常に哀愁漂う。本心を見せぬミステリアスな雰囲気に惹かれない女などいまい。シーツのしわをなぞるラストシーンが未だに目に焼き付いている。また、結局は、ワン頼みという運動仲間たちの狡さも巧みに表現されているのもいい。そして気に入ったのが麻雀のシーン。退廃のムード漂う。「ポン」や「チー」と言う夫人たちの台詞がやけにエロティックに聞こえた。

なぜ、ワンは最後にあのような行動に出たのだろうか。あのまばゆいばかりに美しい指輪ではないか。中国語で指輪は「指戒」。「戒」とは、「誓い」。イーはワンに愛を誓ったのだ。もはや、ワンはその愛に嘘で塗り固められた姿で応えることはできなかった。そして、仲間の侮蔑と恨みを一身に背負いながら地獄に堕ちることを自ら望んだ。その壮絶な生き様を、私は羨ましいと思った。傑作。