Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

パフューム ある人殺しの物語

2008-03-10 | 外国映画(は行)
★★★★ 2006年/ドイツ 監督/トム・ティクヴァ
「超キワモノ路線をここまで荘厳にしあげた力量に感服」

好きになったら、その人の体臭も好きになるものだ。私は昔好きだった男が残していったTシャツをくんくんと嗅いで彼を偲んだことを覚えている。もちろん、嫌いな男の汗の臭いはたまらなくイヤなものである…

グルヌイユはパリの街で出会ったあの少女に恋をした。嗅覚の鋭い彼ゆえに、恋の発端は「匂い」なのだ。その芳しい匂いに狂おしいほどに魅せられた。そして、彼女の香りを永遠に自分の中に閉じこめたかった。だから、グルヌイユは次から次へと少女を殺した。権力が欲しかったわけじゃない。認められたかったわけじゃない。ひとえに初恋の女に愛されなかった思いが彼を凶行に駆り立てたのだ。

とまあ、文芸作品的な見方もできつつ、この作品が面白いのは、ぶっちゃけキワモノ映画でしょう!とも言えちゃうところじゃないだろうか。だって、グルヌイユって、いわゆる体臭フェチ。しかも、乙女限定。これだけの少女を殺してまで自分の目標を遂行させようって言うのは、どう考えても普通の精神状態じゃないし。「コレクター」や「羊たち」と同じ路線とも言える。なので大好きですよ、こういうキワモノムード。しかも、「パリ」×「変態」×「汚物」×「殺人」と言うすさまじい掛け合わせで、これほどの一大オペラのごときスケール感を出せることに驚き。トム・ティクヴァ監督、なかなか凄腕じゃないですか?

できれば、映画館で見たかった。閉じた空間で見れば、匂うはずのない香りを嗅ぎ取ることができたかも、と思わせるような映像美。全ての映像から「これはどんな匂いなのか」という想像を余儀なくされるし、その強引なまでの描写には美術や衣装スタッフの執念にも似た思いを感じる。「パイレーツ・オブ・カリビアン」でも書いたけど、汚いものを徹底的に描くことで放たれるパワーって強烈。また「ラン・ローラ・ラン」でも印象的だった女性の「赤毛」が本作でも大きなインパクトを与えている。一歩間違えば変態映画。しかし、しっかりした時代考証と凝りに凝った衣装と美術とセットで荘厳な物語に変身。いやはや、実にパワフル。圧倒されました。