Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

初恋

2008-03-23 | 日本映画(は行)
★★★★ 2006年/日本 監督/塙幸成
「小出君の昭和顔」

1968年に起きた3億円事件。そして、舞台は新宿。となれば、私は当時の学生運動の拠点であった「新宿」をテーマにした数々のATG作品を思い浮かべずにはいられない。だから、この「初恋」という作品も、生の新宿を描いた当時の作品が放っていた息吹と同じものを持っているのか、やや色眼鏡で見始めたのです。「新宿」という匂いを借りてきただけの作品ではないのか、と。

しかし、そんなことはありませんでした。それは、昭和、そして新宿の描写に違和感がなかったことが大きかった。そして、その違和感のなさこそ、物語に観客が引き込まれてゆく最も大切な要素でした。「ALWAYS 三丁目の夕日」でも書いたけど、昭和を描くと言うのは難しい。セットがいかにもセット然としてしまうし、中途半端に記憶が残っているため、些細な違和感が起きる。しかし、この作品は、ワルどもがたむろするジャズ喫茶もらしい雰囲気だったし、屋外の撮影も「今ある建物」をなるべく活かして撮っていると言う。つまり、これみよがしな小道具を多用せず、VFXなどの技術にも頼らず、できる範囲で昭和を再現している。そこがとても良かった。

そして、妙にハマったのが、小出恵介。七三分けがとてもよく似合う。で、気づいた。彼、結構「昭和顔」じゃないですか?昔のグループサウンズにこんなルックスの人いましたよ。このままEPレコード盤のジャケット撮影してもバッチリいけそう。確かに当時の若者の鬱屈感を体感したリアル世代の方がご覧になったら、今時の若者として映るかも知れません。しかし、売れドキの俳優で昭和然としたムードを醸し出せる人って、なかなかいないでしょう?そう言えば、パッチギでブレイクしたんだもんね。

女子高生が犯人だった。その事実の意外性だけでも物語としての吸引力は強く、よって下手な人間ドラマでストーリーをアップダウンさせることなく作っているのもいい。主人公の兄妹の母親を始め、主要メンバー以外の人物は後ろ姿でしか見えない、という画面の切り取り方も、余計な物を詰め込まないという演出でしょう。人気俳優出演作品ということで期待して見た若い人は、色恋ムードが薄くてちょっとがっかりしたのかな。でも、人気俳優をキレイに見せようと言う意図はあまりなく、とても実直な作りに徹していて、その地味さが私は大いに気に入りました。